トランプ政権に交代した途端に国防総省が国家安全保障につながる研究への資金援助を次々に廃止、研究者からは阿鼻叫喚の声

アメリカ国防総省、通称ペンタゴンは国家安全保障において重要な意味を持つ社会科学研究に資金提供する画期的なプログラムを廃止しつつあることが明らかになっています。科学誌のScienceが、実際に政府からの資金援助を打ち切られてしまった研究者の声をまとめています。
Pentagon guts national security program that harnessed social science | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/pentagon-guts-national-security-program-harnessed-social-science

ペンタゴンは2008年に社会科学分野の大学研究を助成の対象とするプログラムであるミネルバ・イニシアチブを開始しました。ミネルバ・イニシアチブは大学の研究者による非機密研究に対して、3~5年の助成金を交付し、「ペンタゴンが将来の課題をよりよく理解し、備えるのを支援すること」を目的としています。
ミネルバ・イニシアチブは2024年8月に行われた最新の基金調達ラウンドにおいて、19のチームに合計で4680万ドル(約70億円)の助成金を交付しました。助成金を獲得した研究には、AIや気候変動、避難民などさまざまなテーマのものが含まれています。
しかし、ミネルバ・イニシアチブで暴力的過激主義や偽情報、気候変動などの脅威について研究して助成金を受け取っていた科学者数十人が、最近になって助成金を打ち切られたことを報告しました。Scienceによると、2024年8月に助成金を獲得した19の研究のうち少なくとも9つが助成金交付終了通知を受け取っているそうです。
さらに、ミネルバ・イニシアチブに応募した科学者が、ペンタゴンから「ミネルバ・イニシアチブは終了した」というメールを受け取っていることも明らかになっています。ペンタゴンはイニシアチブの終了理由を明らかにしていません。助成金が受け取れなくなったという科学者のひとりであるジョージ・ワシントン大学のニール・ジョンソン氏は、「今後も研究を続けられるかどうかわかりません」と語りました。
なお、ジョンソン氏はオンラインとオフラインの脅威がどのように相互作用し、誤報や反アメリカの言説につながるのかを研究するプロジェクトで主任研究者を務めていました。ジョンソン氏によると、この研究は50以上のオンラインプラットフォームをマッピングする世界で唯一のグループだったそうで、「なぜペンタゴンがこの研究を望まないのか理解できません」と語っています。

ミシガン大学の人類学者であるスコット・アトラン氏によると、ミネルバ・イニシアチブは2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件で学んだ教訓に基づいて構築されたものだそうです。ペンタゴンは軍事力だけでは国家安全保障上の脅威を予測し、対処するのに不十分であり、「社会科学と行動科学がそのギャップを埋めるのに役立つ可能性がある」と判断し、ミネルバ・イニシアチブをスタートしたわけです。
アトラン氏は空軍科学研究局(AFOSR)が資金提供したミネルバ・イニシアチブのうち2件で主任研究員を務めていました。アトラン氏が携わっていた研究のひとつが「西側諸国の軍事同盟が分裂するのを防ぐ要因に焦点を当てたもの」で、もうひとつが「戦争で戦い続ける動機を調査するもの」です。なお、どちらの研究も助成金の交付を打ち切られました。
シカゴ大学の経済学者であり政治学者でもあるクリストファー・ブラットマン氏が率いる研究も、ミネルバ・イニシアチブからの助成金を打ち切られています。ブラットマン氏ら研究チームはコロンビアの麻薬カルテルがどのように組織・運営されているのかを深く理解することを目的とした研究を行っていました。この研究は不法移民やフェンタニルとの戦いにおける問題の根本原因を探るのに役立つものであるとブラットマン氏は主張しています。ブラットマン氏は「コロンビアの麻薬カルテルは西半球最大の安全保障上の脅威です。この仕組みを記録し、それに対抗する方法を見つけるために、厳密な社会科学を導入するまたとない機会がここにあります」と主張しました。

台湾の防衛改革が中国からの攻撃抑止につながる可能性について研究するエモリー大学のレナード・セクストン氏も、研究への資金援助を打ち切られたそうです。プリンストン大学の政治学者であるジェイコブ・シャピロ氏は、セクストン氏らの研究を「賢明な防衛政策を策定するための認知的および分析的基盤を構築する素晴らしいプログラムでした」と評しました。なお、シャピロ氏は中国の東南アジアへの投資プロジェクトが中国に永続的な影響力をもたらしているかどうかを評価する研究を率いており、この研究は記事作成時点でもミネルバ・イニシアチブから助成金を受け取っているとのことです。
テキサス大学オースティン校の研究者であり、2021年から2022年にかけてペンタゴンの気候担当上級顧問を務めたジョシュア・バスビー氏は、「社会科学への主要な支援源のひとつを失うことは、学術研究に対する大きな打撃であり、国が直面する脅威を理解し、効果的に対応する政府の能力を損なうことにつながります」と言及。アトラン氏は「年間コストがF-161機分のこのイニシアチブを廃止することは、ペンタゴンと国家が実施できる最も費用対効果の低い対策でしょう」と付け加えました。
なお、ミネルバ・イニシアチブはドナルド・トランプ大統領の就任第1期中の2020年にも終了の危機に陥っています。この際は、2019年に全米医学アカデミーがミネルバ・イニシアチブの資金提供を受けた研究を称賛したにもかかわらず、ペンタゴンの関係者はミネルバ・イニシアチブの資金を別の優先事項に使うべきとして、イニチアチブの終了を画策していました。
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