セキュリティ

ロシアによるウクライナを標的としたサイバー攻撃が目立たないのはなぜか?


ロシアによる国家規模の計画と思われるサイバー攻撃は複数確認されており、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始する以前にサイバー攻撃を複数回にわたって仕掛けていたことも報じられています。しかし、2022年2月24日にウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、「サイバー攻撃によって多くの人命が脅かされた」という事態は大きく報じられていません。ロシアがウクライナに対して目立ったサイバー攻撃を行わない理由について、テクノロジー関連メディアのMotherboardがまとめています。

Why We Haven’t Seen Debilitating Cyberwar in Ukraine
https://www.vice.com/en/article/88gbk5/why-we-havent-seen-debilitating-cyberwar-in-ukraine

ロシアに本拠地を置くハッカー集団によるウクライナへの攻撃は以前から確認されており、2015年と2016年にはサイバー攻撃によってウクライナの一部地域で停電を引き起こしたことが報じられています。また、2022年1月にはMicrosoftがウクライナの政府機関を対象としたマルウェアによる破壊工作の証拠を特定しており、ウクライナ政府は「すべての証拠はロシア政府がサイバー攻撃の背後にいることを示しています」という公式声明を発表してロシアを非難していました。

ウクライナ政府が一連のサイバー攻撃はロシア政府が黒幕だとして非難 - GIGAZINE


ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降もサイバー攻撃は続いており、データ破壊マルウェアによる攻撃通信事業者を対象とした攻撃などが報告されています。一方で、侵攻開始以前に予想されていたような「サイバー攻撃による甚大な被害」は報告されていないとMotherboardは指摘しています。

ウクライナの通信情報保護局で副局長を務めるビクター・ゾラ氏は、ロシアによるサイバー攻撃の被害は比較的小さく収まっている理由について以下の3つの利用を推測しています。

1:ロシアのハッカーによる攻撃速度は、軍事侵攻中にウクライナを標的にするほど迅速でない
2:ミサイルや爆弾による攻撃と比べてサイバー攻撃は有用でない
3:ロシアのハッカーは、ロシアのインフラストラクチャーを保護するためにリソースを割いている

ジョンズ・ホプキンズ大学で戦略学について研究するトーマス・リッド氏は、ゾラ氏による推測のうち1番目と3番目は信頼に足る推測ではないと指摘しつつ、2番目の「サイバー攻撃は物理的な攻撃と比べて有用ではない」という推測を支持しています。また、リッド氏はインターネットサービスプロパイダーのViasatがウクライナへの侵攻開始とほぼ同時に大規模なサイバー攻撃を受けていたにもかかわらずミサイルや爆弾などによる物理的な被害と比べて報道での取り扱いが小さいことを挙げ、「サイバー攻撃は攻撃対象の混乱を目的に実行されるが、物理的な攻撃の方が大きな混乱を起こせる」という現状がサイバー攻撃の非活発化を促したと推測しています。

また、サイバーセキュリティの専門家であるMatt Tait氏は、Motherboardに対して「一般的に、弾薬はサイバー攻撃よりも確実にインフラストラクチャーに損害を与え、その影響は長期的に続きます」と指摘。さらにセキュリティ企業・Mandiantのインテリジェンス分析担当ヴァイスプレジデントであるジョン・ハルトクイスト氏も「軍事侵攻以前はインフラストラクチャーに損害を与えるためにサイバー攻撃が有用でした。しかし、軍事侵攻が始まり兵器の使用が可能となった現状ではサイバー攻撃に頼る必要はないでしょう」と述べています。

なお、ウクライナを標的としたサイバー攻撃の対策にはMicrosoftAmazonといった大企業が支援に乗り出しており、アメリカ政府もウクライナを支援するための極秘ミッションを進めていたことが明らかになっています。

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in セキュリティ, Posted by log1o_hf

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