メモ

なぜ和平交渉は失敗するのか?


2022年2月24日からロシアが行っているウクライナ侵攻について当事者国間で行われている和平交渉は、ロシアのプーチン大統領は「行き詰まった」と表現するなど、まだ合意形成は難しい段階にあることがうかがえます。20年以上にわたって平和構築プログラムが平和と紛争の研究に携わっている、サンディエゴ大学ジョアン・B・クロック平和と正義研究所のエグゼクティブ・ディレクター、アンドリュー・ブラム教授が、ニュースサイト・The Conversationの問いに答える形で「和平交渉」の難しさを説いています。

Why do peace talks fail? A negotiation expert answers 5 questions about the slim chances for a peace deal between Russia and Ukraine
https://theconversation.com/why-do-peace-talks-fail-a-negotiation-expert-answers-5-questions-about-the-slim-chances-for-a-peace-deal-between-russia-and-ukraine-180392


◆1:和平交渉はどれぐらいの頻度で失敗するものなのですか?また、その理由は?
ブラム教授によると、和平交渉は「たいてい失敗するもの」だとのこと。スウェーデン・ウプサラ大学の研究によれば、1946年から2005年までの間に行われた288の紛争のうち、和平に合意したのは39件(13.5%)で、そのほかは一方が勝利するか、和平合意や勝利に至ることなく戦闘が終了したそうです。

ただし、当事者間で和平合意に至らなかったとしても、話し合いによって一時的に停戦したり、物資運搬や民間人避難のための人道回廊を設置したりすることで、民間人の犠牲を減らすことができます。また、合意に至らなかったとしても、和平交渉そのものは将来的な紛争の激化を軽減するという証拠があるとのことです。

◆2:戦闘継続中に行われる和平交渉はどれぐらい役立つものなのですか?
ブラム教授は、和平交渉というのは最終的に戦いを終わらせるための合意の土台を作るものなので「大いに役立つ」と答えました。

停戦交渉は戦いが激化しているときに行われることが多いものですが、当事者が停戦に合意し、その合意を守れば、双方ともに死傷者を出すことを避けられます。また、より困難な交渉への道を開く、最初の信頼基盤を作ることができます。

戦闘継続中の和平交渉は戦闘の代替手段ではなく、「目的を達成するために戦闘と並行して行われる戦略」だとブラム教授は説明しています。


◆3:和平交渉で直面する最大の問題はなんですか?
紛争に関連して行われる暴力や、その暴力が生み出す当事者間の怒りや不信感など、問題はたくさんあるとブラム教授。交渉担当者は、「自分たちの息子や娘を殺した」と信じる人たちと向かい合う必要があるとのこと。2022年のロシアによるウクライナ侵攻の場合、国連はウクライナの民間人1842人以上がロシア軍によって殺されたという推計を出していますが、実際にはこの数はもっと多いと考えられます。

多くの場合、一方は「自分たちが勝っている」と信じていて交渉に応じる動機付けが存在しないため、和平交渉が行われるためには「やむを得ない戦略的理由」が必要だとのこと。その一例を見られるのがアフガニスタンで、タリバンはアメリカとの間で駐留軍撤退を条件にした和平に合意していましたが、アシュラフ・ガニ政権との交渉は進まず、アメリカ軍の撤退に合わせるようにアフガニスタン全土を掌握しています。

◆4:交渉者を和平のテーブルに着かせるものはなんですか?
この問いに、ブラム教授は「当事者双方が損害を出しつつ、相手を軍事的に打ち負かすことができないこともわかっているとき、論理的に、進むべき道は『交渉』になります」と答えています。

基本的に、交渉人の目標は「お互いが得をするような合意を作り上げること」で、そのために、時には中立的仲介者の支援を受けつつ、「何かを勝ち取った」を思えるような解決策にたどり着くよう努力するとのこと。


ただし、合意を作り上げるだけではなく、怒りやトラウマ、悲嘆を抱えているコミュニティに対して「こういう合意に至った」と持ち帰ることになります。そのため、女性やコミュニティの代表者、異民族のリーダーなどを和平交渉に参加させることで、和平合意が成ったときに一般の人々が受け入れられるような態勢を整えていくのも重要だそうです。

しかし、多くの場合、ロシアとウクライナの和平交渉のように、少数のエリート男性によって合意形成が行われ、その後、本国の有権者に売り込む方法が一般的です。

◆5:和平交渉において、他の参加者の誠意は期待できますか?
ブラム教授はシンプルに「いいえ」と述べています。

和平交渉の参加者は、交渉をするというだけでも何らかの協力関係を築く必要がありますが、この関係は参加者が誠実に交渉に臨むことを保証するものではないとのこと。南スーダンでの和平交渉では「交渉者は高級ホテルに何週間も滞在するために参加している」と非難された事例があります。また、シリアでは、アサド大統領が広報戦略として和平交渉に参加した事例があります。このほか、次の攻撃の態勢を整えるために軍が和平交渉に参加したと非難される事例も報告されています。

ブラム教授によると「誠意ある交渉は、合意に至ることが当事者にとって最善の利益となる場合にのみ行われる」とのこと。

ロシアとウクライナの事例では2022年3月、ロシアが少なくともウクライナ側の高官2名と仲介者の富豪ロマン・アブラモヴィッチ氏に対して毒物を盛ったと報じられています。古くから「和平使節の安全は確保する」というのが外交慣習となっており、慣習が破られたことで、和平交渉の成功は難しくなったという見解をブラム教授は示しています。なお、ロシア側は毒物に関する報道を否定しています。

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in メモ, Posted by logc_nt

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