「マシュマロ実験」は日本と海外では文化が違うので結果も変わってくる

子ども時代の自制心と将来の社会的成果の関連性を調査するテストが「マシュマロ実験」です。そんなマシュマロ実験では、文化的な背景が結果に影響を与えるケースがあり、それを身をもって体感したとカリフォルニア大学デービス校心理学部の宗像裕子教授が語っています。
How Culture Affects the 'Marshmallow Test' | Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/how-culture-affects-the-marshmallow-test/

宗像教授は2017年に、アメリカのコロラド州ボルダーから日本の京都に引っ越したそうです。その際、宗像教授の子どもたちはすぐにアメリカと日本の文化の違いに気づいた模様。例えば、アメリカではセントラルヒーティングが当たり前ですが、日本ではエアコンやこたつといった冷暖房機器を利用します。小学校の場合、日本では子どもたち自身が給食を配膳したり掃除したりしますが、アメリカでは専門の作業員がそれらのタスクを担当するそうです。
また、日本では給食の時間に生徒がみんなで揃って「いただきます」をしてから食べるのが一般的。しかし、アメリカから引っ越してきた宗像教授の子どもたちにとって、「いただきます」のために他の子どもたちを待つという日本の給食の風景は、非常に不思議なものだったそうです。
子どもたちから「日本に引っ越して体験した文化的違い」を聞かされた宗像教授は、おやつを食べるのを我慢することを自制心の尺度として調べるマシュマロ実験において、日本の子どもたちが特別な利点を持っているのではないかと考えます。

マシュマロ実験は、心理学者のウォルター・ミシェルが考案したテストで、「子どもがおかしを食べるのか」それとも「追加のマシュマロがもらえるまで待つのか」あるいは「最初にもらったマシュマロを食べるまでどの程度の時間我慢できるのか」などを調べます。マシュマロ実験は子どもの自制心を調べるテストとされており、いかに衝動的な行動を抑制し、長期的な目標に向かって努力できるかが調べられます。
一般的な手順は以下のとおり。
1:子どもにマシュマロを1個渡す
2:今食べてもいいし、マシュマロをあげた人が戻ってくるまで(15分)待っていれば、もう1個マシュマロを追加でもらえると説明
3:そして子どもはマシュマロがある部屋にひとりで残される
なお、子どもの頃にマシュマロ実験で優れた成績を収めることができた人物は、その後の人生で学校・人間関係・健康面において優れた結果を残すことも明らかになっています。

宗像教授は京都大学の齊藤智氏と東京大学の栁岡開地氏と共同で、マシュマロ実験にいくつかの工夫を加えて再構築しました。そして、アメリカと日本の144人の子どもを対象に、新しいマシュマロ実験を実施しています。実験では、まず被験者の子ども(4、5歳)全員にこれまでマシュマロを食べたことがあるかを確認。次に、親に対して「自分の子どもが他の人も食べ物を食べられるようになるまで、食べるのを我慢する頻度」と「子どもが衝動的な行動をどの程度抑えられるか」を尋ねます。
そして、子どもたちにマシュマロ実験に参加してもらいました。実験の結果、アメリカのほとんどの子どもが1個目のマシュマロを食べるまで4分も待つことができないのに対して、日本の子どもは2個目のマシュマロがもらえるように15分間待つことを選択しています。そのため、日本の子どもの方が優れた自制心を持っていると結論付けてしまいたくなるところです。
しかし、宗像教授たちは「子どもたちに包装されたプレゼントを見せ、今開けてもいいし、待てばもう1つプレゼントをもらえる」という別パターンのマシュマロ実験も実施。別パターンの実験では、日本の子どものほとんどがプレゼントを開けるまで5分も待てなかったのに対して、アメリカの子どもたちはほとんど15分待って、2個目のプレゼントをゲットしたそうです。

この実験の結果について、宗像教授は「どうやら、満足感を先延ばしにする経験を繰り返すと、子どもは将来的に待つのが楽になる習慣を身につけることができるようです。親からの報告によると、日本の子どもはアメリカの子どもよりも食べるのを待つ習慣に慣れていました。この習慣が強いほど、子どもは2個目のマシュマロを待つ時間が長くなりました。しかし、プレゼントを開けるとなると、アメリカの子どもの方が一貫して待つことができるようです。アメリカでは誕生日プレゼントはパーティーが終わるまで開けられず、テーブルの上に置かれたままになります。クリスマスプレゼントも、12月25日に開封されるまで何日も木の下に置かれます。それに対して、日本では誕生日やクリスマスにおいてプレゼントの開封を『待つ』という習慣がありません」と語っています。
そのため、アメリカの子どもと日本のこどものマシュマロ実験における違いは、子どもたちの自制心が反映された結果ではなく、「何を待つことに慣れているか」によるところが大きいと宗像教授は指摘。さらに、研究チームは子どもたちが「どのように行動すべきか」という社会的慣習に対して、どれだけ敏感かを評価しました。敏感さが増すほど、アメリカではプレゼントを開けることを待つ時間が長くなり、日本ではマシュマロを食べることを長く待つことができるようになったそうです。
これらの調査結果は、欲求を先延ばしにすることは自制心だけの問題ではないことを示唆しています。文化的習慣や感受性も、欲求を先延ばしにする時間の長さに違いをもたらす要素ですが、それだけでなく社会経済的地位や地理的要因に基づく可能性もあると、宗像教授は指摘しました。
さらに、「子どもがマシュマロを2個もらえるまで待つことで、学校や人生で成功を収めることができるとする時、これは欲求を先延ばしにすることに関する彼らの経験と習慣を部分的に反映している可能性があります。これらの習慣は実際には彼らの自制心を補い、学校やそれ以降の人生に役立つ方法で欲求を先延ばしにするのに役立つ可能性があります。子どもたちは、社会的な状況をうまく切り抜け、年長者に気を配り、文化特有の方法で家事や宿題に取り組む方法を学びます。そして、それらが後に彼らにとって役立つ可能性があるわけです」とも語っています。

文化的習慣がマシュマロ実験に与える影響を調査した宗像教授は、「今回の研究結果は心理学や他の科学の結果が、科学者が認識すらしていない文化的ニュアンスを捉えている可能性があることを示しています。もし私たちがこの研究をひとつの国だけ、あるいはひとつの報酬だけで実施した場合、まったく異なる結論に達していた可能性があります」と述べました。
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in サイエンス, Posted by logu_ii
You can read the machine translated English article The results of the 'marshmallow experime….