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なぜトランプ次期大統領の関税引き上げ計画を経済学者は懸念しているのか?


アメリカのドナルド・トランプ次期大統領はすべての輸入品に対して10~20%の関税をかけることや、中国からの輸入品にはさらに高い関税を設けることなどを計画しています。こうしたトランプ氏の関税引き上げ計画を経済学者が懸念する理由について、経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルが公式YouTubeチャンネルで解説しました。

Why Economists Hate Trump's Tariff Plan | WSJ - YouTube


トランプ氏の関税引き上げ計画について語る前に、ウォール・ストリート・ジャーナルは1960年代にアメリカと西ドイツを含むヨーロッパ諸国の間で勃発した「チキン戦争」を例に挙げて、関税の目的や効果について説明しています。


第二次世界大戦の後、西ドイツではアメリカ産鶏肉の消費が増加しました。


1962年には、アメリカの養鶏農家は西ドイツだけで5000万ドル(記事作成時点の価値に換算すると5億ドル、約790億円)以上の鶏肉を輸出することが見込まれていました。


ところが、これにヨーロッパの農家らが反発したため、後の欧州連合(EU)につながる欧州経済共同体がアメリカ産の鶏肉に関税をかけました。これにより、もともと1.6ドル(約250円)だった鶏肉5ポンド(約2.3kg)の価格は2.25ドル(約360円)に上昇。


結果として西ドイツへの鶏肉輸出額は大幅に減少しました。


当然ながら、これにアメリカの養鶏農家や政治家らは激怒しました。ダートマス大学の経済学教授を務めるダグラス・アーウィン氏は、「チキン戦争はとても興味深い話です」「ドイツは鶏肉の大きな市場なので、アメリカはドイツ人を痛めつければ鶏肉に対する彼らの考え方が変わるかもしれないと考えました」と述べています。


そこでアメリカは1963年に、西ドイツの主要産業であった自動車をターゲットにするため、小型トラックなどに25%もの関税をかけました。


その結果、フォルクスワーゲンのアメリカにおけるトラック販売台数は半減し、その後も回復することはありませんでした。


この戦争により、ドイツ人消費者は鶏肉を買うために支払う金額が高くなり、アメリカ人消費者はトラックの選択肢が少なくなりました。


これは関税がもたらす影響を示す完璧な一例だとのこと。ウォール・ストリート・ジャーナルは関税の効果について、「特定の産業を保護しつつ消費者に打撃を与え、各国の行動を変えさせようとするもの」だと説明しています。


過去数十年にわたり、貿易政策の中で関税が大きな論点になることは多くありませんでしたが、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ氏は関税を積極的に活用することを訴えています。


実際にトランプ氏は第一次政権下の2018年、「洗濯機」に関税をかけました。これにより、洗濯機を輸入する貿易会社がアメリカ政府に関税を支払う義務が発生し、結果としてその関税は「販売価格の上昇」として消費者に転嫁されました。


アーウィン氏は、「関税の目的はある意味で、それらの商品の需要を減らして国内生産者のためのスペースを作ることといえます」と指摘しています。


関税の導入後には、SamsungやLGといった海外企業だけでなく、アメリカ製の洗濯機の価格も上昇しました。これは、価格上昇によって海外製洗濯機の需要が下がったことで、国内洗濯機の需要が高まったため、アメリカ製の洗濯機を値上げする余地が生まれたことを意味しています。


さらに、洗濯機とセットで購入されやすい乾燥機は、直接的に関税がかけられたわけではないものの、洗濯機と同様に値上げが発生しました。関税は直接関税がかけられた商品だけでなく、その他の商品にも連鎖的に影響するのです。


洗濯機への関税は、国内の雇用創出を目的のひとつにしていました。実際にSamsungやLGといった海外企業がアメリカ国内に工場を開設したため、およそ1800人程度の雇用が増えたとのこと。


アメリカは洗濯機への関税で年間8200万ドル(約130億円)の税収を得ていましたが、消費者の追加負担は15億ドル(約2370億円)に達しました。つまり、消費者らはアメリカ国内の雇用を1つ増やすごとに81万5000ドル(約1億2900万円)を支払ったことになります。これは、雇用創出の取り組みとしては非常に費用対効果の薄いものであり、経済学者が関税を好まない理由のひとつになっています。


また、トランプ氏は2018年に鉄鋼やアルミニウムにも関税をかけました。これは国際貿易ルールに違反した中国への制裁に加え、国家安全保障を強化することも意図していました。


しかし、これらの材料は軍需製品だけでなく、自動車やその他の日用品にも使われています。そのため、鉄鋼やアルミニウムを使用するアメリカ国内の企業は、関税分のコストがかからない海外の競合他社に対して不利な立場に置かれてしまいました。


アーウィン氏によると、関税による上流工程での雇用創出よりも、下流工程において失われる雇用の方が多いという研究結果が出ているとのこと。2018年に導入された関税による影響は、確かに製造業の中国からの移転を促しましたが、全体的な雇用は減少して消費者の負担は増加するなど、経済面でのデメリットが多くなりました。


しかし、後のジョー・バイデン政権でもトランプ氏の関税は維持されました。ひとたび関税が導入されると、それによって得をする利害関係者が関税を維持するよう働きかけるほか、政権も「関税の撤廃」を切り札として持ちたいと考えるため、なかなか撤廃されないのが実情です。


実際、すでにアメリカの養鶏農家はヨーロッパの市場をそれほど気にかけていないものの、60年が経過した記事作成時点でもアメリカは小型トラックに25%の関税を課しています。


アーウィン氏は、「私たちはまだチキン戦争の遺産を抱えて生きているのです。これは歴史の教訓です」と述べ、一時的にある業界を助けようとして関税を課す際にも注意を払わなければならないと指摘しました。


トランプ氏は次期政権において、「中国から輸入するすべての物品に60%の関税をかける」と訴えているほか、「その他のすべての輸入品にも10~20%の関税をかける」考えを明らかにしています。


いくつかの調査によると、この関税によってアメリカの世帯は年間1700ドル(約27万円)の追加支出を強いられるほか、68万4000人以上の雇用が失われる可能性があるとのこと。さらにこの試算は、国内メーカーによる便乗値上げや、他国から報復的に関税が課される可能性を考慮していません。外国がアメリカ製品に関税をかけた場合、アメリカ企業の収入が減って雇用が失われたり、アメリカの税収が減ったりするリスクがあります。


トランプ氏は関税によって得られた税収を、国内における減税の財源にしようと考えています。調査によると、新たな関税によって2700億ドル(約42兆7000億円)の税収が得られると推定されており、これはアメリカの年間税収額の約5%に相当するとのこと。


トランプ氏の関税政策は、短期的に経済に打撃を与えると予想されていますが、それが長期的に見てどういう結果を及ぼすのかは不透明です。ウォール・ストリート・ジャーナルは、「トランプ氏はその結果を知るために、チキンレースをしたいと思っています」と述べました。

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in 動画, Posted by log1h_ik

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