ボードゲームの説明書はなぜわかりにくいものが多いのか?
ボードゲームには必ずルールを掲載した説明書がついています。しかし、ゲームが複雑になるほど説明書を読み込むのに時間がかかってしまい、「実際にプレイした方が早く理解できた」という人もいるはず。なぜボードゲームの説明書は難しいのかについて、ボードゲームの説明書の編集者であるディーン・レイ・ジョンソン氏が、技術文書の専門教育を受けた視点から説明しています。
Every Board Game Rulebook is Awful
(PDFファイル)https://boardgametextbook.com/EBGRIA.pdf
ジョンソン氏はまず、宇宙開発をテーマにした「オン・マーズ」の説明書を取り上げ、一見よく書かれているように見える説明書の問題点を分析しています。
例えば、「エグゼクティブアクション」という重要な概念について、説明書の8ページ目で「ターンにメインアクション1回とエグゼクティブアクション1回が可能」と簡単に触れられますが、その後10ページ目で突然「設計図カードにエグゼクティブアクションが記載されている」という新しい情報が追加されます。その後、14~17ページにかけて建物の建設や宇宙船の受け入れなど、エグゼクティブアクションに関連する様々な概念が断片的に説明され、最終的に18ページ目でエグゼクティブアクションに関する詳細な説明が行われます。
しかし18ページ目に至って、実はエグゼクティブアクションは「デポ」と呼ばれる場所に記載されているものを指し、設計図カードに記載されているのは「アドバンスト・ビルディングアクション」という別の概念であることが明らかになります。この時点で読者は、それまでの理解を改める必要に迫られます。
ジョンソン氏は、この説明方法では読者は多くの情報を一時的に記憶し続けなければならず、その間に誤った理解や混乱が生じる可能性が高いと指摘しています。これを回避するためには、まずエグゼクティブアクションの基本的な仕組みを説明し、その後で関連する概念を徐々に導入していく方が読者の理解を助けることができます。
説明書の基本的な問題として、情報の提示方法にも課題があるとジョンソン氏。例えば、プレイヤーが実行する手順を箇条書きで示すべき場合でも、多くの説明書は段落形式で記述しており、手順の把握を困難にしています。また、視覚的な例示についても、単に図を掲載するだけでなく、適切な注釈や説明が必要であることを強調しています。
また、ジョンソン氏は「キーフラワー」というゲームを遊んだ時の経験を紹介しています。
ジョンソン氏がはじめて「キーフラワー」を手に取った際、説明書の概要には「各プレイヤーは青、赤、黄色のワーカーをランダムに受け取り」「同じ色のワーカーは特定のアクションを実行できる」といった説明が並んでいた点が気になったそうです。
一般的なワーカープレイスメントゲームでは、青のプレイヤーは青のワーカーを、赤のプレイヤーは赤のワーカーを使用します。ところが「キーフラワー」では、全プレイヤーがランダムな色のワーカーを使用し、さらに一度配置したワーカーは「自分のものではなくなる」という独自のルールがあります。また、他のプレイヤーが使用済みのスペースであっても、既に置かれているワーカーと同じ色のワーカーを2個以上使えば、そのスペースを使用できるという重要なルールがあります。
これらの特徴は、「キーフラワー」を他のワーカープレイスメントゲームと大きく差別化する革新的なメカニズムですが、説明書の概要は通常のワーカープレイスメントゲームの常識を覆す重要なポイントを適切に伝えていない、とジョンソン氏は指摘しました。
ジョンソン氏は、説明書がこれらの重要な違いを既存のゲーム知識と関連付けて説明していれば、初めて遊ぶ人でもゲームの独自性を理解しやすかったはずだと主張。例えば、「通常のワーカープレイスメントゲームとは異なり、このゲームではこうなっている」といった形で説明することで、読者は新しい概念をより効果的に理解できるかもしれません。。
そして、ジョンソン氏は、ボードゲーム界でよく聞かれる「視覚的学習者には説明書が向いていない」という言説に疑問を投げかけています。例えば「ブラス: バーミンガム」の説明書には「視覚的学習者の方はチュートリアル動画をご覧ください」という記述がありますが、これは実は誤った前提に基づいているとのこと。
ジョンソン氏によれば、視覚的・聴覚的・身体的学習者に分類する「VAK理論」は現代の研究では否定されており、実際には自称「視覚的学習者」と「聴覚的学習者」の両方に図解付きの教材を与えた場合、両者の学習効果に有意な差は見られなかったことがわかっているそうです。
ジョンソン氏は、むしろ重要なのは「学習者が情報を能動的に処理できているかどうかだ」と主張。例えば「ルート」というボードゲームでは、当初プレイヤーに自分の勢力を他プレイヤーに説明させる方式を想定していますが、これは失敗だったとのこと。プレイヤーは自分のファクションを理解するのに手一杯になってしまい、他のファクションの説明を聞く余裕がなくなってしまうためです。
ジョンソン氏は、このような失敗を防ぐために「適切なタイミングでの学習」の重要性を強調しています。プレイヤーが必要とする情報を、その情報が実際に必要になるタイミングで提供する方が効果的だというわけです。
さらにジョンソン氏は独自の調査結果から、多くのプレイヤーが「実際にプレイしながら学ぶ」ことを好むことがわかったと報告しています。これは「経験者による事前の完璧なインスト(ルール説明)」を重視する現在のボードゲーム文化と矛盾しているとジョンソン氏は述べました。
このような知見を踏まえ、ジョンソン氏はボードゲームの説明書を改善するためには以下の視点が重要だと主張しています。
・全てのルールを一度に説明するのではなく、段階的に導入する
・実践的な例示を通じて能動的な学習を促す
・必要な時に必要な情報にアクセスできる構造を作る
・既存の知識との関連付けを明確にする
ジョンソン氏は最終的に、現行の説明書形式には明確な目的が欠如していると結論付けています。ボードゲームの説明書の多くは、学習者の段階的な理解を助けることも、必要な情報への素早いアクセスを提供することもできておらず中途半端な完成度だとジョンソン氏は述べ、チュートリアルやリファレンスガイド、教科書的なアプローチなど、目的に応じた複数の文書形式を採用すべきだとしています。また、このような改善は、ボードゲームの普及にとっても重要な課題であると指摘しました。
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in ゲーム, Posted by log1i_yk
You can read the machine translated English article Why are board game instructions so diffi….