消滅寸前の小さな街を大金持ちに変えた「タラバガニ」の逆転劇とは?
ノルウェーの最北端にあるブゴイネスは1991年の時点で人口約300人の小さな村で、唯一の産業だったタラ漁も個体数の激減により失われ、かなりの貧困状態にありました。しかし、外来種である「タラバガニ」の増加と、ロシアによるウクライナ侵攻という2つの侵略を機に、消滅寸前だった村が大きく回復したというストーリーを、Bloombergが運営するYouTubeチャンネルのBloomberg Originalsが伝えています。
How Russia's War Made King Crab Big Business in Norway - YouTube
ブゴイネスはノルウェーの最北端にある漁村で、ロシアとの国境沿いに位置しています。
ブゴイネスは人口が少ない貧困状態の村で、頼みの綱である漁業も下火になっていました。一時期は、新聞記事に「住民300人を受け入れてくれる町はありますか?」と呼びかけるメッセージを掲載するほど、ブゴイネスは消滅の危機にありました。
そんなブゴイネスを救ったのが「タラバガニ」です。ノルウェーやロシアの北部にあるバレンツ海のタラバガニとズワイガニは、旧ソ連時代にスターリンが極東海域から輸出し、2000年代に商業的に定着しました。そのため、北欧ではタラバガニを「スターリンズクラブ」と俗称する地域もあります。ブゴイネスにとってタラバガニは、従来の主な漁業資源であるタラの外敵として個体数減少の原因となった悩みの種でした。
2022年時点で、世界のタラバガニ市場の94%をロシアが占めていました。それを大きく変えたのが2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻です。ロシアの侵攻に対抗するため、アメリカなどの各国は貿易規制や企業によるボイコットを伴う厳しい経済制裁を実施しています。
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貿易規制にはタラバガニも含まれており、市場の94%を占めるロシアからの輸出が見込めなくなったことで、ヨーロッパ諸国がタラバガニを輸入できる先はノルウェーが最有力となりました。かつては主要産業のタラの外敵として嫌われていたタラバガニは、一気に年間数千万円規模の産業へと成長しました。ノルウェーは2023年に捕獲したタラバガニ540万ポンド(約244万kg)のほぼすべてを輸出し、前年比42%増の1億1000万ドル(約173億円)の売上を獲得しました。
かつては多くても3隻の船しかなかったブゴイネスの港には、今では数百隻の漁船が常に停泊しています。
さらに、ブゴイネスではタラバガニの捕獲体験のようなサービスも普及し、貿易資源としてだけではなく観光資源としても人気が高まっています。ノルウェーのセル=ヴァランゲルという自治体で市長を務めるマグヌス・マーランド氏は「ヨーロッパにある、世界で最もエキサイティングな都市へようこそ。私たちは、魚の養殖と漁業において、かなり前向きな見通しを持っています」と述べています。
かつてブゴイネスで魚工場を経営していたジョアン・オラフ・マリネン氏は「80年代後半に魚工場が次々に倒産し、私の会社も倒産しました。何年も閉鎖された建物だけが残っていましたが、最近になって新しいオーナーがその工場を買い取り、水揚げしたタラバガニを生きたまま保管しておくための保管所として活用しています。タラバガニにはタグをつけていることで詳細を追跡できるようになっており、輸出され届いた先の人々に、タラバガニの品質などのほかに、捕獲された地域や漁師たちの歴史を知ってもらえるようになっています」と産業の変化について語りました。
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