SSDに使われるNAND型フラッシュメモリの積層数は「1000層」を目指して開発進行中、容量増加に向けてどんな課題をクリアする必要があるのか?
SSDなどのデータ保存メディアに搭載されているNAND型フラッシュメモリは、1チップ当たりのストレージ容量増加のために「メモリセルを垂直方向に積層する」というアプローチを採用しています。2024年11月にはSK hynixが321層のNAND型フラッシュメモリを発表したのですが、すでにメモリメーカーは数年以内に1000層超えの積層数を実現することを目指して開発を進めています。
NAND Flash Targets 1,000 Layers
https://semiengineering.com/nand-flash-targets-1000-layers/
NAND型フラッシュメモリの容量を増やす手法には「メモリセルを垂直方向に積層する」という方法以外に、「1つのメモリセルに2ビット以上のデータを書き込む」という手法も存在します。すでに1つのメモリセルに4ビットのデータを書き込めるQLC NANDが市販されているほか、5ビットのデータを書き込むPLC NANDの研究も進んでいます。しかし、1つのメモリセルに複数ビットのデータを書き込む手法には「書き込み速度が遅くなる」というデメリットも存在しています。
「メモリセルを垂直方向に積層する」という手法はデータ転送速度を保ちつつストレージ容量を増やす手法として注目されており、メモリメーカー各社が積層技術の向上を競い合っています。2024年11月には韓国のSK hynixが321層のNAND型フラッシュメモリを発表し、238層のNAND型フラッシュメモリと比べて大容量かつ高速なデータ転送が可能なことをアピールしました。
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半導体企業「ACM Research」のゼネラルマネージャーを務めるモハン・バーン氏によると、メモリメーカーは1000層超えの積層数を目指して研究開発を進めているとのこと。しかし、1000層超えを実現するには複数の課題をクリアする必要があります。
課題の1つが、「メモリセルを大量に積層すると、少しの厚みの違いが大きな差となって現れる」というものです。この問題を解決するために、ACM Researchは「メモリセルのウェハー製造時に、定期的にウェハーを180度回転させる」という手法を研究しています。バーン氏によると、ウェハーを定期的に回転することでズレを1%以内に抑えることができるそうです。
また、メモリセルを積層させる場合、重なったメモリセルを貫通するメモリスルーホールも形成する必要があるのですが、積層数が増えるほどメモリスルーホールの形成は困難になります。各メーカーは精密かつ丈夫なメモリスルーホールを実現するために既存の素材に代わる新素材の開発にも取り組んでいます。
さらに、1000層を超えるNAND型フラッシュメモリの実現には地政学的な問題もあります。アメリカは中国に対して128層以上のNAND型フラッシュメモリの輸出を制限しているため、YMTCなどの中国企業は「128層以内のメモリスタックを複数つなぎ合わせる」という手法を採用する必要があります。
なお、テクノロジー系メディアのSemiconductor Engineeringは「各種問題を解決して1000層超えのNAND型フラッシュメモリを実現するには数年を要する」と述べています。
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