いきなり謎の感染症が流行し始めた時に考えられる「3つの可能性」とは?
アフリカのコンゴ民主共和国では2024年10月から「原因不明の病気」が広がっており、10代後半を中心におよそ80人が死亡したと報じられています。今回のように「謎の感染症が発生した」というニュースはたびたび報じられますが、こうした場合に考えられる3つの可能性について、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の准教授を務めるケイトリン・リバース氏が解説しています。
Understanding mysterious outbreaks - by Caitlin Rivers
https://caitlinrivers.substack.com/p/understanding-mysterious-outbreaks
「世界のある地域で謎の病気が流行している」というニュースは、決して珍しいものではありません。2024年だけでも12月に報じられたコンゴ民主共和国の事例の他に、9月にアフガニスタン東部パルワン州で謎の感染症の流行が報告されたほか、インドのグジャラート州でも発熱を伴う謎の病気による死亡が相次いだことが報じられています。リバース氏は、これらの「謎の感染症のアウトブレイク」は3つの可能性に分類することができると主張しています。
◆1:病気の正体が「unknown known(未知の既知)」のパターン
最も可能性が高いのが、病気の正体が「報じられた時点では特定されていないものの、よく知られている風土病や一般的な病気である」という場合です。例としてはコレラ・マラリア・インフルエンザなどが特定の地域で流行し、その正体が何らかの理由で判明していない場合に「謎の病気が流行している」と報じられるケースがあります。
リバース氏は、「リソースの少ない環境で発生したアウトブレイクは、容易に診断できるインフラストラクチャーがない場所で始まったため『未確認』になります。これらが『謎のアウトブレイク』の正体である可能性は比較的高いといえます」と述べています。このケースでは、アウトブレイクは依然として危険であるものの、病気との戦い方自体はわかっています。
◆2:病気の正体が「known unknowns(既知の未知)」のパターン
2つ目の可能性として挙げられているのが、病気の正体が「存在は知られているものの、発生がまれでよく理解されていない病気である」という場合です。このカテゴリーにはマールブルグ熱・中東呼吸器症候群・ニパウイルス感染症などが含まれ、これらのアウトブレイクは特に致命的かつ危険なため、迅速で断固とした行動が必要になるとのこと。
リバース氏は、「多くの場合、このカテゴリーに当てはまる病原体のワクチンや特定の治療法はありません。その代わりに、接触者の追跡といった非医薬品的な手段で制御する必要がありますが、これはアウトブレイクが大きくなるにつれて難しくなり、状況がさらに切迫します」と述べています。
これらのアウトブレイクが「謎の病気が流行している」と報じられるのは、患者から採取したサンプルを専門の研究室に送付して調査しないと診断できず、発生初期は病気の正体が断言できないためです。診断技術や医療インフラストラクチャーへのアクセスが改善されるにつれて、このカテゴリーに当てはまる病気は少なくなりますが、潜在的な影響は大きいカテゴリーです。
◆3:病気の正体が「Unknown unknowns(未知の未知)」のパターン
最後のパターンが、病気の正体が「存在自体がまったく知られていないか、予想外の病気である」というケースです。これは予想外かつ重大な病原体が発生したことを意味し、2019年末に報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がこのパターンに当てはまるほか、「その地域ではかつてウイルスが報告されておらず予想外だった」という点で、2014年に西アフリカで流行したエボラ出血熱や2022年のヨーロッパにおけるサル痘の流行などが該当するとのこと。
リバース氏は、「これらの『未知の未知』のアウトブレイクは、大規模な検査や調査が必要なため診断に時間がかかることが多くあります。『謎の病気』がこのカテゴリーに分類される可能性は低いものの、ゼロではありません」とコメントしています。
リバース氏は、病気の発生した場所や診断リソースの利用可能性、および病気自体の複雑さによって診断までの時間は変わり、長ければ数週間から数カ月かかるケースもあると指摘。「いずれにせよ重要なのは、限られたデータに基づいて結論を急ぐことではありません」と述べました。
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