忘れ去られ放置された油井やガス井をAIを用いて再発見する試みとは?
石油や天然ガスを採掘するために掘られた油井やガス井は、掘削終了後に放置されたままになると、温室効果ガスや有害物質を付近の地表や水に放出します。文書化もされないまま忘れ去られ、放置された油井やガス井をAIを用いて発見する試みについて、アメリカのローレンス・バークレー国立研究所の研究チームが報告しました。
A Deep Learning Based Framework to Identify Undocumented Orphaned Oil and Gas Wells from Historical Maps: A Case Study for California and Oklahoma | Environmental Science & Technology
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.4c04413
AI Helps Researchers Dig Through Old Maps to Find Lost Oil and Gas Wells – Berkeley Lab News Center
https://newscenter.lbl.gov/2024/12/04/ai-helps-researchers-dig-through-old-maps-to-find-lost-oil-and-gas-wells/
約170年にわたって石油や天然ガスの採掘が行われてきたアメリカには、31万~80万もの「undocumented orphaned wells(UOW:文書化されていない孤立油井・ガス井)」があると推定されています。これらは正式な記録に登録されていないためどこにあるのかが不明で、財政的な支払い能力を持つ操業者や所有者も存在していません。
これらの油井やガス井が適切にふさがれていない場合、付近の水源に原油や化学物質が漏れ出したり、ベンゼンや硫化水素といった有害物質が空気中に放出されたりするとのこと。また、二酸化炭素の28倍もの温室効果を持つメタンも排出され、気候変動の一因にもなってしまうそうです。
UOWを見つけるために研究者らはドローンやレーザーイメージング、センサーといったツールを使用していますが、広いアメリカ全土をしらみつぶしに捜索するのは困難です。そこで研究チームは、最新のAIと古い地形図を組み合わせてUOWを発見する方法を考案しました。
学術誌のEnvironmental Science & Technologyに掲載された論文の筆頭著者であるファビオ・シューラ博士研究員は、「AIは現代的で急速に進化している技術ですが、現代のデータソースだけに関連付けるべきものではありません。AIはほんの数年前には実現不可能だった規模で過去のデータから情報を抽出し、過去への理解を深めることができます」と語っています。
アメリカ地質研究所は1884年~2006年に作成した過去の地形図のデジタルスキャンをオンラインにアップロードしており、これらの地図にはジオタグが付けられていて各ピクセルが参照可能な座標に対応しています。シューラ氏らはこのうち、一定の緯度と経度をカバーした同じ縮尺の地図をまとめ、AIを使って地図上に記された油井とガス井のマークを見つける方法を考案しました。
以下の地図を見ると、さまざまな場所に中空の円が記されているのがわかります。このマークは油井またはガス井を表しており、文書記録には残っていないUOWもこれらの古地図から見つけ出せる可能性があるとのこと。
by Historical Topographic Map Collection/USGS
AIを使って古地図に記された油井とガス井を見つけるため、研究チームはさまざまな視覚情報の中から正しい記号を識別するようAIをトレーニングしました。古地図は実物をデジタルスキャンしたものであるため、汚れや色あせなどが発生しているケースもあるほか、数字の「9」やアルファベットの「O」のように、油井やガス井の記号と混同しやすいものも含まれています。AIは汚れなどに惑わされず、似たマークを無視するようにトレーニングされました。
古地図にはジオタグが付けられていたため、AIは地図上に記された油井やガス井の座標を取得し、それらを文書化されている油井やガス井の座標と比較しました。研究チームは座標の潜在的なエラーを検出するシステムや、AIが正しく地図記号を解釈できているかを人間がチェックするツールも構築したとのこと。
研究チームがトレーニングしたAIを使用して、カリフォルニア州のロサンゼルス郡とカーン郡、オクラホマ州のオーセージ郡とオクラホマ郡を調査したところ、1301個ものUOWの可能性がある地点を発見しました。
これまでに衛星画像を使って29個のUOWが確認されたほか、現地調査で15個のUOWが実際に見つけられています。研究チームが確認したUOWは、AIが予測した位置から平均10mの範囲にあるとのことで、AIはUOWの位置を特定する大規模なアプローチになり得ると考えられています。なお、今回の研究では誤って既存の油田やガス井がUOWだと見なされるリスクを極力下げていたため、実際のところUOWは今回見つかったもの以上に存在する可能性が高いとのことです。
AIによるUOWのマッピングは、ロスアラモス国立研究所が主導する大規模プロジェクト・Consortium Advancing Technology for Assessment of Lost Oil & Gas Wells(CATALOG)の一環です。CATALOGはUOWからのメタン漏れを迅速に測定する方法の開発に取り組んでいるほか、さまざまなセンサーを搭載したドローンを用いてUOWの検出と確認をスケールアップする方法も開発中です。
シューラ氏は、「この問題に取り組む正しい方法は、多層的なアプローチです」と述べ、AIが古地図から検出したデータや過去の石油生産量からの推定、衛星画像やセンサーデータといった複数のデータソースを組み合わせることで、UOWの問題を解決に導けるだろうと主張しました。
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