「なぜ超加工食品は体に悪いのか?」という疑問の核心に科学者が迫りつつある
「超加工食品」とは工業的な手法で高度に加工された食品群を指す言葉で、コーラなどの炭酸飲料やソーセージなどの加工肉、菓子パン、スナック、レトルト食品、カップ麺など現代人がよく口にする食品を含みます。近年は超加工食品が健康に害を及ぼすという研究結果が数多く報告されていますが、「なぜ超加工食品は体に悪いのか?」という根本的な疑問については不明な点も残されており、科学者はさまざまな方法で謎の解明を試みていると政治経済誌のThe Economistが報じています。
Scientists are learning why ultra-processed foods are bad for you
https://www.economist.com/science-and-technology/2024/11/25/scientists-are-learning-why-ultra-processed-foods-are-bad-for-you
人類による食品加工の歴史は古く、3000年以上前のメキシコや中央アメリカでは、すでにトウモロコシの粒を石灰水や灰汁で処理するニシュタマリゼーションという手法が生み出されていました。シニュタマリゼーションを施したトウモロコシは栄養価が高まり、処理過程で果皮を取り除くことで粉にしやすくなるとのこと。
19世紀には缶詰が発明され、低温殺菌の手法も普及したことで、食品の加工が工業規模で行われるようになりました。加工技術の革新に伴って食品はより安価で豊富になり、先進国の人々が1日に利用できる平均食物供給量は1961年~2021年の間に20%以上増加し、1人当たり3500kcalに達しました。その一方で、同期間中に肥満率も3倍以上に高まっており、肥満に関連する健康問題が深刻化しています。
そんな中で、さまざまな健康問題に関わっているとされるのが「超加工食品」と呼ばれる食品群です。この言葉を提唱したブラジル・サンパウロ大学のカルロス・モンテイロ名誉教授は、21世紀初頭にブラジルの人々が以前より砂糖や油を購入する量が減っているにもかかわらず、肥満や代謝性疾患の発生率が上昇していることに注目。この肥満や代謝性疾患の増加は、砂糖や脂肪などの添加物が豊富に含まれた袋入りスナックやレトルト食品の人気が高まった時期と一致していました。
2009年にモンテイロ氏は、食品を加工した程度に基づいて4グループに分類する「ノバ分類法」を提唱しました。ノバ分類法に基づいた4グループは以下の通り。
グループ1:加工食品または最小加工食品
収穫・捕獲されたままの状態の食品や、不要な部分の除去や粉砕、乾燥、低温殺菌など最小限の処理のみを行った食品。穀物・果物・野菜・豆・肉・魚・卵・牛乳・プレーンヨーグルト・スパイスなどが含まれる。
グループ2:加工食品原料
グループ1の食品に圧搾や精製、製粉などの処理を行った食品。植物由来の油・塩・砂糖・酢・でんぷん・ハチミツ・木から抽出したシロップなどが含まれる。
グループ3:プロセスフード(加工食品)
グループ3は、グループ1の非加工食品に調味料を添加したり、焼いたり、ゆでたり、缶やボトルに詰めたり、非アルコール発酵をしたりした比較的シンプルな加工食品。缶詰の野菜や魚・塩が添加されたナッツ・シロップ漬けの果物・干物・単純なパンなどが含まれる。
グループ4:ウルトラプロセスフード(超加工食品)
食品に硬化油や加工デンプン、異性化糖、人工着色料、甘味料といった通常の調理では使用されないような物質を添加して、高度な処理を行った加工食品。コーラなどの清涼飲料や濃縮還元のフルーツジュース、マーガリン、加工肉、菓子パン、キャンディ、レトルト食品、冷凍食品、カップ麺などが含まれる。
1990年代以降、世界全体で食事に占める超加工食品の割合は増加しており、記事作成時点のアメリカやイギリスではカロリー摂取量の半分以上を超加工食品が占めています。近年の研究では、超加工食品がメタボリックシンドロームやがん、心血管系疾患、メンタルヘルスの問題、全体的な死亡率の悪化などと関連していることがわかっています。
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超加工食品が健康に悪影響を及ぼすことは科学者の間でも意見が一致していますが、「一体なぜ超加工食品が健康に悪いのか?」という点については議論が交わされています。「超加工食品は栄養価が低いため不健康である」という意見もありますが、超加工食品の中にも栄養価が高いものは存在しているため、「超加工食品の製造プロセス自体が何らかのリスクをもたらす」という意見もあるとのこと。
健康状態の悪化を説明する要因には食生活だけでなく収入や学歴、社会経済的状況といったものも存在しているため、観察研究だけで確実な答えにたどり着くのは困難です。そこで有望な選択肢になってくるのが、研究者が被験者の食物摂取量を追跡し、その他の変数をすべて制御するランダム化比較試験です。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究者であるケビン・ホール氏は2019年の研究で、20人の被験者をNIHの臨床センターに4週間滞在させ、2週間おきに「超加工食品だけの食生活」と「最小加工食品だけの食生活」を送ってもらうランダム化比較試験を行いました。実験中はいずれの被験者も好きなだけ食べることが可能で、十分なカロリーや糖分、食物繊維、脂肪などの栄養素を摂取できたとのこと。
実験の結果、超加工食品だけを食べている被験者は最小加工食品だけを食べている被験者と比較して、1日当たりの摂取カロリーが約500kcalも多いことが判明。また、超加工食品だけを食べる被験者の方が食べるスピードが速く、2週間で体重が平均1kgも増加しました。一方、最小加工食品だけを食べていた被験者は、2週間で体重が約1kg減少しました。
この結果は、超加工食品が人々の健康を悪化させるのは過剰な塩分や脂肪分、砂糖だけが原因ではなく、そもそも「超加工食品は必要なカロリーを超えて食べてしまいやすい」ことが原因である可能性を示唆しています。超加工食品を食べ過ぎてしまう理由としては、製造過程で1口あたりのエネルギー密度が高まっていることや、嗜好(しこう)品として優れた味や栄養素の組み合わせであることなどが考えられます。
ホール氏は2019年の研究結果を基に、36人の被験者に特定の食生活を送ってもらい、その様子を1カ月間追跡する新たな研究を開始しています。この研究では、2019年の研究で用意された「超加工食品だけの食生活」と「最小加工食品だけの食生活」に加え、「エネルギー密度と嗜好性の両方が低い超加工食品だけの食生活」と、「エネルギー密度は高いが嗜好性が低い超加工食品だけの食生活」を用意し、同じ超加工食品の中でどのような変化が現れるのかを調査するとのこと。
研究の完全な結果が公表されるのは2025年になる予定ですが、初期の調査結果では、エネルギー密度と嗜好性の両方が超加工食品の過剰なカロリー摂取を引き起こすことが示唆されています。一方で、超加工食品の害を軽減するためにどうすればいいのかについては、まだよくわかっていません。
The Economistは、ノバ分類法には化学添加物が存在するだけで量に関係なく超加工食品に分類されてしまい、健康への害が少ないとみられる朝食用シリアルやパン、フルーツ入りヨーグルトなども超加工食品に含まれるなど不十分な点もあると指摘。「ホール博士の研究からの洞察は超加工食品の理解を深める役に立ち、よりバランスの取れた有用なガイドラインへの道を開く可能性があります」と述べました。
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