人が「ホラー映画」を愛する6つの理由
ホラーは映画の人気ジャンルのひとつですが、ホラー映画が苦手な人にはなぜお金を払ってまで怖い思いをしたがる人がいるのか、理解しがたいかもしれません。グロテスクな映像や暴力的な残酷描写、椅子から飛び上がりそうになるジャンプスケアなど、目を背けたくなる要素が詰まったホラー映画が愛される理由を、心理学の専門家が解説しました。
6 reasons why people enjoy horror movies
https://theconversation.com/6-reasons-why-people-enjoy-horror-movies-241480
オーストラリアのエディス・コーワン大学で心理学を教えているシェーン・ロジャース氏とシャノン・ミュア氏、アメリカ・アリゾナ州立大学の行動科学者であるコルタン・スクリブナー氏は、ホラー映画が好まれる理由を次の6つにまとめました。
・目次
◆1:恐怖がもたらすスリル
◆2:恐怖が過ぎた後の安心感
◆3:病的な好奇心を満たす
◆4:限界への挑戦と恐怖の克服
◆5:デートにも最適
◆6:他人の不幸は蜜の味
◆1:恐怖がもたらすスリル
ロジャース氏ら3人の専門家によると、恐怖と興奮は多くの共通点を持つとのこと。どちらもストレスホルモンが放出され、心拍数と呼吸数が増加し、発汗や筋肉の緊張などの身体症状を引き起こします。また、警戒心が刺激されることでハラハラ感も高まります。
恐怖や興奮を含む強烈な感情体験を好む性格の人は、ホラー映画を楽しむ傾向があることが、さまざまな研究で証明されています。一方、恐怖心が強い人にとってジャンプスケアや暴力シーンは特に強烈で、映画に没頭している最中でも目をそらしたり、耳をふさいだりするなどの対処行動を見せることもわかっています。
「激しい感情を求める人なら、たとえ怖がり屋でもスリルを楽しみたい気持ちの方が勝つのかもしれません」と専門家らはコメントしました。
◆2:恐怖が過ぎた後の安心感
人がホラー映画を楽しむのは、恐ろしいシーンが過ぎ去った後にほっと胸をなで下ろす瞬間のためかもしれません。
ホラー映画を見ると、恐怖と安心の感情の波が山あり谷ありのジェットコースターのように激しく揺れ動くことがあります。
例えば、2017年の映画「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」では、主人公たちがたびたび悪魔のようなピエロとの遭遇を乗り越えますが、恐怖シーンは穏やかなシーンによって区切られており、感情のジェットコースターのような気分を味わえます。
同様に、1975年の名作「ジョーズ」でも、観客は恐ろしい場面から解放された後でまた恐怖に襲われる展開が繰り返されます。
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◆3:病的な好奇心を満たす
ゾンビ、吸血鬼、オオカミ男など、多くのホラー映画には超自然的なテーマやキャラクターが登場します。そのため、ホラー映画は病的な好奇心を満たすのに役立ちます。
また、ホラーによくある暴力や死、グロテスクな描写も、現実世界では危険で、しばしば社会的に適切ではない体験を安全に楽しむ機会を与えてくれます。
◆4:限界への挑戦と恐怖の克服
ホラー映画は、人々の心の奥底にある恐怖を具現化させ、個人が持つ恐れや嫌悪の限界についての内省を促すことがあります。そのため、自分自身の限界をより理解するためにホラーを楽しむ人もいるかもしれないとのこと。
ホラー映画を見ることが、自分の限界を克服し、現実世界での同様の出来事からの恐怖や嫌悪感を軽減してくれる可能性があることもわかってきています。
スクリブナー氏が参加した2021年の研究によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、架空のゾンビパニックや世界の終末を生き残る人々「プレッパー」が登場するようなホラー映画のファンは、そうではない人に比べて「パンデミックによる心理的な苦痛はあまりない」とアンケートに答える傾向があったことが報告されました。
◆5:デートにも最適
「ホラー映画を誰かと一緒に見る」という社交的な側面がホラー映画の魅力だという人もいます。具体的には、他の人と一緒に見ることで安心感を得られることもあれば、周りの人が感じている感情に刺激されて視聴体験が増幅されることもあります。
また、ホラー映画はデートの夜に見る映画として選ばれることがよくあります。ホラー映画は、一緒に怖がって体を寄せ合う口実にもぴったりというわけです。
◆6:他人の不幸は蜜の味
大抵のホラー映画では、登場人物がひどい目に遭うので、他人の不幸を見たときに感じる後ろ暗い快感、いわゆるシャーデンフロイデを感じられるのもホラー映画の魅力のひとつ。
ひどい目に遭う登場人物の多くは脇役で、大抵は嫌な人物だったり、愚かな行動を取っていたりするため、そういう人物が悲惨な最期を迎えることでカタルシスが得られます。
例えば、魔女を題材にした1996年のホラー映画「ザ・クラフト」では、自己中心的なトラブルメーカーであるクリス・フッカーという人物が登場しますが、フッカーは作中で窓から投げ出されて死んでしまいます。
以下がそのシーンです。
"You Don't Even Exist To Me" Nancy Kills Chris Scene | The Craft (1996) - YouTube
時には登場人物が理不尽な暴力にさらされることもあるホラー映画ですが、スクリブナー氏が実施した2024年の研究によると、ホラー映画のファンが持つ共感力はホラー映画好きではない人と変わらなかったとのことです。
こうした知見から、専門家らは「ホラー映画は、安全なフィクションを通じて私たちの心の奥底にある恐怖を見せてくれます。人々がホラー映画を楽しむ理由はさまざまですが、確かなのはホラー映画の人気が高まっているおかげで、いろいろなホラー映画を見ることができるようになってきていることです」と述べました。
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