「ロード・オブ・ザ・リング」ガンダルフ役の名優イアン・マッケランは「目」の演技力が素晴らしいという評価

「ロード・オブ・ザ・リング」のガンダルフや「X-MEN」シリーズのマグニートーで知られるイアン・マッケランは幼い頃から演劇の舞台に立ち、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーやロイヤル・ナショナル・シアターにも幾度となく出演し、数多くの賞を受賞した名優として知られています。その演技力と活躍を高く評価され、1990年にはナイトに叙任され、サーの称号を得ました。そんなマッケランの演技のどういうところが「優れた俳優」、特に「優れた映画俳優」と評価されているのかについて、YouTubeチャンネルのNerdwriter1が「目」に注目してムービーで解説しています

How Ian McKellen Acts With His Eyes - YouTube


キャラクターがどういう設定で、どういう人間関係を築いているのかを把握し、演じる役の立ち位置に身を置くことも演技の上で重要です。しかし、演技とは私たちが無意識のうちに行っていることを理解し、意識的に行うための技術です。

演技の技術とはすなわち、声の変化や体のしぐさ、顔の表情のこと。

映画「ロード・オブ・ザ・リング」では、マッケランは特に目に演技の重点を置いている、とNerdwriter1は指摘しています。

ガンダルフは物語の「道徳」をつかさどる中心人物です。彼はまた、劇中で起こっている物事の重要性を最も広く理解している人物でもあります。

つまり、ガンダルフは映画の観客に対して膨大なストーリー情報を伝えなければならないという役目を担っているというわけです。

登場人物が観客に伝えるものには2つの種類があります。1つはその人物の周囲の状況やあらすじ、もう1つがキャラクターがそういった情報を得たことでどのように感じているか、またはその情報がメインストーリーにどれだけ重要なのかということです。

特に架空の世界を舞台にしたファンタジー作品では、観客には状況やキャラクターの心情が理解しづらいことが多いため、登場人物の台詞で状況説明することがよくあります。

一方、マッケランが画面の中に映る場合はその目がぐっとクローズアップされることが多々あります。例えば「主人の呼ぶ声に指輪が目覚めようとしている」と語るガンダルフの目は心配や憂い、そして恐怖を超えた何かを秘めている、とNerdwriter1。

マッケランが目で状況の深刻さをアピールするため、観客はガンダルフの感情に引っ張られ、ガンダルフの気持ちがまるで自分たちが覚えている気持ちであるかのように錯覚します。

観客を劇中の物語へより深く没頭させるために、ピーター・ジャクソン監督はマッケランを観客のガイド役に据え置いています。

話のリアクションを映したショットは一連の重要な対話を引き立たせるもの。口で説明するよりも演技で説明できるような俳優を抱えることは、監督にとってすばらしい贈り物だ、とNerdwriter1は評価しています。

例えば、フロドがモルドールへ指輪を持っていく決心を叫んだ場面では……

ガンダルフは静かに目を閉じるだけ。

この時に表現されるガンダルフの感情は愛や恐れなどが入り交じった複雑なもの。しかし、これをセリフで言葉にして口にすると、ガンダルフが胸中に抱える複雑な心情を表現するという意図は失われてしまいます。「ロード・オブ・ザ・リング」ではガンダルフだけではなく、さまざまなキャラクターの感情を表現するために目を強調して映し出すことがよくあります。

例えば、ガラドリエルが指輪の仲間に対して決意の試練を与える場面でも、会話している全員の目を強調して映し出す演出が採用されています。

特に「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」でマッケランの演技を見ると、その演技に魅了されるとNerdwriter1は語ります。

人間の顔には40もの筋肉が備わっていて、さまざまな表情を作り出すためにその全てが一緒に動くようになっています。実生活では、私たちは常に意識して自分の表情を作ってはいません。

しかし、観客に物語の感情的な動きを伝えるためにも、俳優は意識して表情を作らなければなりません。マッケランが名優と呼ばれる理由の1つは、この目と表情を意識的に作り出し、観客に感情を伝える技術が高い評価を受けているからです。

もちろんこうした技術だけがマッケランを名優たらしめているわけではありませんが、マッケランのような名優の演技によって、野暮(やぼ)なセリフが不要となり、物語における内面的な世界をより広く深いものとしているのだとNerdwriter1は解説しました。