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「ヒステリー」とは何なのか、なぜ女性ばかりヒステリーを起こすと思われているのか?


突然金切り声を上げて怒り出したり、ちょっとのことで爆発するように怒ったりすることを「ヒステリーを起こす」と表現することがあります。ヒステリーは精神医学における少し古い用語であり、現在は転換性障害もしくは解離性障害と分類されますが、ヒステリーという症状にはどのような歴史があるのか、またヒステリーが女性に特有なイメージがあるのはなぜなのかについて、教育系YouTubeチャンネルのTED-Edがアニメーションで解説しています。

What is hysteria, and why were so many women diagnosed with it? - Mark S. Micale - YouTube


ヒステリーは、「子宮」を意味する古典ギリシア語が由来で、紀元前3世紀ごろの医学書である「ヒポクラテス全集」にはその名称が用いられています。ただし、古代におけるヒステリーは、女性特有の子宮がもたらす「女性が体験する頭痛やめまい、けいれん、呼吸困難」とされており、これは精神医学が発達していない中で説明できない病状を説明するためのものでした。


脳と神経の役割がまだ知られていなかった古代ギリシャでは、女性の子宮が体内で動き回ることでさまざまな症状を引き起こすと考えられていました。また、突然笑ったり泣き出したりという情緒不安定や窒息感・感情の高ぶりはすべて女性の骨盤に由来するという迷信が19世紀頃まで長く信じられてきました。当時の治療としては、マッサージや水圧によって女性の性的欲求を解消したり、ハーブを処方したりといった方法が採用されていましたが、特に医学的根拠がないもののため、逆にヒステリーが悪化する場合も多くあったそうです。

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「子宮が体内で動き回ることでさまざまな症状を引き起こす」という説は、2世紀までにローマの医師によって否定されました。しかし、依然としてヒステリーの原因は子宮だと考えられており、「男性でいう精液にあたるものが子宮から分泌されており、それが体内の血液や神経を刺激する」という考えも生まれていました。そのため、助産師がヒステリーの治療にあたり、女性にオーガズムを与えることで治療としていたケースもあったとのこと。


中世後期までに、キリスト教がヨーロッパ全土に広がったことで、西洋医学にはキリスト教の影響も浸透していきました。そこで、ヒステリーは子宮の影響ではないとした上で、「女性の精神は悪魔の影響を受けている」と主張する者も現れます。女性蔑視的な観点も相まって、16世紀から17世紀にわたる長期間、社会になじめないような女性は「魔女」として告発され、しばしば悲惨な結果を招きました。


19世紀後半のヴィクトリア朝後期にヨーロッパや北米では、ヒステリーの起源が体や魂ではなく、心ないし精神の中にあるという議論が発生しました。当時ヒステリーを体験しやすかったのは中流階級の女性たちで、社会的な体面を厳しく求められる環境や、性行動に対する厳しい規則の中で、感情的または心理的な苦痛を感じていたとされています。


当時のヒステリーについての理解を助ける「黄色い壁紙」という本があります。作者のシャーロット・パーキンズ・ギルマンは、結婚翌年に子どもが産まれた直後から、非常に重い産後神経症にかかっていました。当時の女性は「ヒステリック」で「神経質」であるものと考えられており、出産後に深刻な不調を訴えても無視されることがありました。ギルマンは医者から安静療法を勧められ、家に閉じこもって知的活動も禁止するという治療を受けましたが、ギルマンの症状は精神が崩壊する直前まで悪化しました。「黄色い壁紙」はその体験を元にした短編小説で、女性の身体的健康・精神的健康との向き合い方を描写しています。


19世紀後半には、精神分析学の創始者として知られるジークムント・フロイトが登場しています。フロイトはヒステリーを他の神経疾患と同様と考え、抑圧された感情的ストレスから生じるものだと主張しました。フロイトの治療では、抑圧された感情を潜在意識から抽出することで、自身の感情と向き合って改善することができるとしていました。


またフロイトは、ヒステリーは女性特有のものではなく、男性にも起こりうると考えていました。実際に、フランスの神経科医であるジャン=マルタン・シャルコーは「ヒステリーは暴力や抑圧にさらされてきた女性の心的外傷後ストレス障害(PTSD)」であると主張していましたが、第一次世界大戦中には「シェルショック」と名付けられたPTSDを訴える男性も増加しました。


男性ヒステリーの研究は19世紀後半には活発化しており、精神医学の発達に伴って、ヒステリーが女性特有の症状という考えは弱くなりました。さらに、女性はヒステリックだという考えは反女性運動のレッテルとして取り上げられることが多く、フェミニズムの台頭から批判を受けることが増えたため、ヒステリーという用語は徐々に衰退していきます。1980年に出版された「精神障害のための診断と統計マニュアル」においては、旧来はヒステリーと表現されていたさまざまな精神や神経の疾患について、不安症やうつ、PTSD、てんかんといった具体的な症状に置き換わっています。


現代の学者の中では、ヒステリーを一般的かつ包括的な病気であるとするのは、古代の研究者たちによる想像の産物であったという考えが有力です。ヒステリーの歴史は、医学的な性差別が解消されるまでの暗い歴史でもあり、現代でも女性が急に怒り出すようなことをヒステリーと呼ぶのはその歴史を反映したものだと考えられます。同時に、ヒステリーという表現が誕生して失われていくまでの過程は、西洋医学の発展を反映した興味深い歴史でもあるとTED-Edは述べています。

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in 動画, Posted by log1e_dh

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