魅力的な物語に共通する構造「ヒーローズ・ジャーニー」を自分の人生に当てはめると豊かになれると研究者らが指摘
人生を有意義なものだと感じたい場合は、ものごとの捉え方が重要です。アメリカとカナダの研究者らは、神話や魅力的な物語に共通する構造のひとつであるヒーローズ・ジャーニーに当てはめて自らの人生を捉えると、人生を有意義に思う気持ちが増すという研究結果を発表しました。
Seeing your life story as a Hero’s Journey increases meaning in life.| APA PsycNet
https://doi.org/10.1037/pspa0000341
Scientists Reveal a Simple Hack to Make Your Life Feel More Meaningful : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/becoming-a-real-hero-can-make-your-life-more-meaningful
ヒーローズ・ジャーニーとは、神話学者のジョーゼフ・キャンベルが1949年に提起したもので、世界中の多くの民話や神話に共通する「主人公が日常から何らかの非日常に身を投じ、最大の試練を乗り越えた結果、成果を持って再び日常へ帰還する」という物語構造です。キャンベルは異なる宗教の神話でも筋書きが違うだけで「モノミス(神話の原形)」は同一であると指摘し、「英雄神話とは、人類が普遍的に希求する『魂の成長』を物語るもののため、必然的にワンパターンになるのです」と説明しています。
ヒーローズ・ジャーニーはフィクションのシナリオ作りの理論として注目されることが多いですが、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の行動科学者であるベンジャミン・ロジャース氏らは、ヒーローズ・ジャーニーを人生の青写真として考える事が可能かどうか、そして考えることができた場合にどのような有意義な影響があるかについて研究しました。
キャンベルの理論では、「冒険への召命」から始まり通過儀礼としての試練や出会い、そして帰還に至るまでを「17段階」に分割しています。ロジャース氏らはまず、古典的な17段階のステップを現代の生活に当てはめて簡略化し、「主人公」「状況の変化」「探求」「仲間」「挑戦」「個人的な変化」「結果としての遺産」という7段階に分けました。以下の画像の内側が、ヒーローズ・ジャーニーを現代生活に落とし込んで7段階に分類したもの。
次に研究者らは、個人の人生を物語として捉えた場合の連続性に焦点を当て、ヒーローズ・ジャーニーが人々の人生の物語とどの程度一致しているかを測定するために、21項目の「ヒーローズ・ジャーニー尺度(HJS)」を作成してテストしました。例えば、7段階のうち「状況の変化」においては、変化に対して個人がどれだけ向き合っているかを測るために、「状況に大きな変化を経験したことがあるか」とシンプルに尋ねるのではなく、「新しいものに遭遇する頻度」を評価するなどの工夫をしているそうです。
ヒーローズ・ジャーニーの7段階とHJSというテストをふまえて、研究チームは1200件を超えるオンラインや対面でのインタビューにより個人の物語を収集して分析しました。結果として、人生にヒーローズ・ジャーニーの7段階が多く含まれている人は、人生に生きる意味を感じるレベルが高く、「自分は良い人生を送っている」というポジティブな考え方のレベルも高かったほか、うつ病のレベルも低いことが判明したとのこと。論文では「ヒーローズ・ジャーニーを使って自分の物語を語る人々は、他の参加者よりも多くの斬新な経験、野心的な目標、支えとなる友人などを報告しており、人生の曖昧さを自分にとって意味のあるものとして捉える能力がより優れているようです」と結論づけています。
最初の結果をふまえて、研究ではさらに「どのような環境の変化や新しい経験が、今の自分になるきっかけとなったのですか?」といった質問に「今の自分になるきっかけとなったのは…」という書き出しで回答させることで、人生について語る時にヒーローズ・ジャーニーに当てはめて語るように誘導した「物語復元介入」でのインタビューを実施しました。すると、参加者は自分の人生を有意義だと感じる度合が増したことを発見したと研究者らは述べています。
ただし、ヒーローズ・ジャーニーに当てはめて考える介入をした場合、肯定的な行動と否定的な行動の両方を増加させる可能性があると研究者らは指摘しています。ヒーローズ・ジャーニーに当てはめた考え方は、より楽観的な見通しをしたり、ナルシスティックな行動をとったり、誤った目的に身を捧げたりする可能性も高まるおそれがあります。実際に、世界最大級のビジネス特化型SNS「LinkedIn」にウンザリさせられるケースについて説明したブロガーは、「ユーザーはビジネスパーソンの目を引くために、どんな小さな成功でも大げさに語るようになります。その際は『ヒーローズ・ジャーニー』を使って『最初はうまく行かなかったが、困難の果てに苦闘を乗り越えた』というシナリオを自慢げに投稿しがちです」とヒーローズ・ジャーニーの自己陶酔的な傾向を指摘しています。
「なぜLinkedInにはウンザリさせられるのか?」という分析 - GIGAZINE
研究者らは、人生をヒーローズ・ジャーニーのように捉えることで心情に影響があると研究結果を示した上で、その変化はどのようなものか、またその変化が実際の行動にどのような影響を与えるかについて、さらに詳しく調査する必要があると示唆しています。また、今回の調査はヒーローズ・ジャーニーの物語の人気が特に高いアメリカで実施されたため、他の地域では結果が異なる可能性がある点も注意が必要です。
ロジャース氏は「さまざまな物語のダイナミクスが個人の物語とどのように対応しているかを調べることは、将来の研究にとって可能性が開かれた分野です。私たちの物語復元介入というアプローチを、人々の生活におけるさまざまな物語の役割を探求する際に、将来の研究者が使用できるテンプレートとして活用できたら理想的です」と研究について語りました。
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