サイエンス

骨を強くする新しいホルモンが発見される、母乳育児中の母体でカルシウムが失われても骨が丈夫に保たれる謎が解明


授乳時、女性の体内では母乳を生成するために骨からカルシウムが除去されます。それにもかかわらず、女性の骨が丈夫なままであることは、長年の謎でした。カリフォルニア大学サンフランシスコ校とカリフォルニア大学デービス校の研究チームは、新しいホルモンを発見することでこの謎を解明しました。

A maternal brain hormone that builds bone | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07634-3

Scientists Discover a New Hormone that Can Build Strong Bones | UC San Francisco
https://www.ucsf.edu/news/2024/07/428011/scientists-discover-new-hormone-can-build-strong-bones


カリフォルニア大学サンフランシスコ校とカリフォルニア大学デービス校の研究チームが、2024年7月10日に学術誌のNatureで研究論文を発表し、母性脳ホルモン(CCN3)と呼ばれるホルモンが骨密度と骨強度を高めることを発見しました。CCN3は、骨折の治療や骨粗しょう症の治療に役立つ可能性があります。また、CCN3は授乳時に骨からカルシウムが除去されるにもかかわらず、母体の骨が丈夫なまま保たれる理由であると研究チームは説明しました。


骨粗しょう症は骨が弱り、骨折を頻繁に起こしてしまう原因にもなる症状です。世界中で2億人以上が骨粗しょう症を患っており、特に女性は閉経後に骨粗しょう症のリスクが高まることで知られています。閉経後の女性で骨粗しょう症のリスクが高まる理由は、骨の形成を促進する性ホルモンであるエストロゲンの濃度が低下するためです。女性は授乳時にもエストロゲンの濃度が低くなりますが、このタイミングで骨粗しょう症や骨折が発生することは非常にまれです。つまり、エストロゲン以外の何かしらが授乳中の女性の骨の成長を促進していることが示唆されていました。

研究チームは過去の研究で、メスのマウスは脳の小さな領域にある特定のニューロンにあるエストロゲン受容体を阻害すると、骨量が大幅に増加することを発見しています。しかし、これはオスのマウスでは発見することができませんでした。そこで、研究チームは血液中のホルモンが骨の成長を促進させる原因になっているのではないかと考え、研究を進めてきましたが、これを突き止めることはできなかったそうです。

そこで、最新の研究では骨形成ホルモンを徹底的に調査しています。そして、最終的に突然変異したメスの原因因子としてCCN3を特定しました。CCN3はニューロンから分泌されるホルモンの典型的なプロファイルには当てはまらなかったため、女性の骨を強化しているホルモンがCCN3であったことを突き止めた際、研究チームは非常に驚いたそうです。

授乳中、女性の脳内のタニサイト(青)と呼ばれる細胞に隣接するニューロンから、CCN3(赤)は出現します。


授乳時に特定のニューロンがCCN3を生成しない場合、メスのマウスは急速に骨を失い、胎児の体重も減少したそうです。この発見は授乳中の骨の健康維持におけるホルモンの重要性を裏付けるもので、発見に基づき研究チームはCCN3を「母性脳ホルモン(MBH)」と呼称しています。

さらに、研究チームは若いオスのマウスや高齢のメスのマウスの体内でCCN3を増やすという実験も実施。この結果、マウスの骨量および骨密度が劇的に増加することも確認しています。エストロゲンが全くない高齢のメスのマウスの中には、CNN3によって骨量が2倍以上に増加した個体もいたそうです。


論文の筆頭著者であり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で細胞分子薬理学の教授を務めるホリー・イングラハム博士は、「これらの発見の注目すべき点のひとつは、生物医学研究では標準であるメスのマウスを研究していなかったら、この発見を完全に見逃していたかもしれないということです。生物学を完全に理解するには、生涯を通じてオスとメスの両方の動物を見ることがいかに重要であるかを強調しています」と語りました。

カリフォルニア大学デービス校で整形外科助教授を務めるトーマス・アンブロシ博士は、「高度にミネラル化された骨が必ずしも良いとは限らない状況もあります。骨が弱くなり、実際に骨折しやすくなることもあります。しかし、CCN3を投与されたマウスの骨を検査したところ、通常よりもはるかに強いことが判明しました」と言及しています。

アンブロシ博士は新しい骨を生成する役割を担う骨内の幹細胞を詳しく調べ、これらの細胞がCCN3にさらされると、新しい骨細胞を生成する傾向が高まることを発見しました。


研究チームはCCN3がどの程度骨の治癒を助ける能力があるのかをテストするため、骨折部位に直接貼り付けて2週間かけてゆっくりとCCN3を放出するハイドロゲルパッチを作成。高齢のマウスでは骨折は上手く治らなかったそうですが、ハイドロゲルパッチを貼り付けた部位で新しい骨の形成が促進され、骨折の治療に役立つことが確認されています。

アンブロシ博士は「他の戦略ではこのような石灰化と治癒の結果を達成することはできませんでした」「この研究をさらに進め、軟骨の再生など他の問題にもCCN3を適用できる可能性があることに非常に興奮しています」と語りました。研究チームはCCN3の分子メカニズム、授乳時の女性におけるCCN3の変化、CCN3がさまざまな骨疾患を治療する可能性について今後研究を進める予定です。

イングラハム博士は「骨量減少は閉経後の女性で起こるだけでなく、特定のホルモン遮断薬を服用している乳がん生存者、若く高度に訓練された一流女性アスリート、股関節骨折後の相対的生存率が女性よりも低い高齢男性でも起こることが多いです。CCN3がこれらすべてのシナリオで骨量を増加させることができれば、非常に喜ばしいことです」と語りました。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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