サイエンス

闘争本能を呼び起こしているのは「骨」だという研究結果

By master1305

アドレナリンコルチゾール交感神経に作用し、動物共通の恐怖に対する反応である「闘争・逃走反応」を引き起こすホルモンだと考えられています。しかし、闘争・逃走反応を呼び起こすのはアドレナリンやコルチゾールではなく、骨に含まれるタンパク質「オステオカルシン」だという研究が発表されました。

Mediation of the Acute Stress Response by the Skeleton - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1550413119304413

Bizarre Discovery Shows Your Bones Could Be Triggering The 'Fight-or-Flight' Response
https://www.sciencealert.com/our-bones-provide-our-bodies-with-a-secret-weapon-that-saves-us-in-times-of-danger

動物は危機的状況が差し迫ったとき、心拍数・血圧・呼吸数が上昇したり、脂肪やグリコーゲンなどの蓄えていたエネルギーを消費したり、瞳孔散大(散瞳)したり、筋肉が緊張したりと、身体ではさまざまな生理学的変化が生じます。この変化の際に、体内ではアドレナリンやコルチゾールなどの分泌量が増加することがわかっています。しかし、コルチゾールの主な働きは特定の遺伝子を転写する細胞の生成反応に関与するというものであるため、1秒を争うような身の危険の際には、「コルチゾールの役割である『遺伝子の転写』は役に立たない」という意見もあります。

そこで、コロンビア大学アービング医療センター遺伝発達部門の研究チームは、闘争・逃走反応に関与するホルモンは危機的状況に骨から放出されるオステオカルシンではないかと推測し、調査を行っています。

オステオカルシンは骨の約25%を占めるタンパク質で、骨の形成を促進するものです。しかし一方で、その働きについてはまだ不明な点が残されており、近年では「血糖値に影響を与えることによって、体内のエネルギー量を調節する働きがある」という新たな説も登場していました。

By pixelaway

研究チームは闘争・逃走反応におけるオステオカルシンの役割を明瞭にするため、マウスを使った実験を行いました。マウスに対して「動きを拘束する」「足に軽度の衝撃を数回加える」「捕食者であるキツネの尿に含まれる化学物質を嗅がせる」など、マウスにとっての危機的状況を再現する実験を行ったところ、マウスの血液中でオステオカルシンの濃度が最大で150%も上昇しました。特にキツネの尿に含まれる化学物質を嗅がせる実験では、マウスの体内において人間のコルチゾールと似た役割を果たすコルチコステロンが増加し始めるより早くオステオカルシンの増加が始り、さらにオステオカルシンの濃度は実験後3時間も維持されたことが確認できました。

コルチコステロンやアドレナリンなどのストレスホルモンを分泌しないように遺伝子操作したマウスを使い、同様の実験を行いました。すると、遺伝子操作されたマウスもストレス反応が生じることが判明。これはストレスホルモンの分泌がストレス反応とは無関係であることを示しています。

さらに、マウスにオステオカルシンを投与する実験を行ったところ、心拍数の増加や体温・血糖値の上昇が確認され、マウスはビクビクと落ち着かない状態になることが確認されました。このことは、闘争・逃走反応にオステオカルシンが関与しているという証拠になります。

By tiburi

研究チームは、一連の反応がマウスだけではないことを確認するために人間でも実験を行いました。「スピーチを行い、その内容について反対尋問を受ける」というストレスを与える実験を行ったところ、被験者の血中のオステオカルシン濃度が上がったことが確認されたとのこと。

研究チームは「今回の研究結果より、コルチゾールの真の役割が一体どのようなものなのかについて疑問が生じています」と述べており、今後の調査によってその役割を研究する予定だと語っています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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