ソフトウェア

Mac以外のPCでmacOSを動作させる「ハッキントッシュ」はもはや不可能になっているという指摘

by Ryan Block

macOSは基本的にMac向けに動作するよう設計されていますが、Mac以外のPCにインストールする方法もあります。これは「Hack」および、Macの旧名称「Macintosh」を組み合わせて、「Hackintosh(ハッキントッシュ)」と呼ばれます。Hackintoshは2005年以降macOS愛好家がさまざまに試みてきましたが、主にiOSを専門とするプログラマーであるアレクサンダー・ヴァチッチ氏によると、Hackintoshは2023年ごろから「ほぼ死んでいる」状態にあるそうです。

Hackintosh is (almost) dead · aplus.rs
https://aplus.rs/2024/hackintosh-almost-dead/


Appleは2005年6月に開発者イベントのWWDCで、それまで採用していたマイクロプロセッサからIntel製品に切り替える計画を発表しました。これにより、x86-64というアーキテクチャをMacと他のPCで一部共有するようになったことで、macOSをMac以外で実行しても、互換性の問題を最小限に抑えることができました。これにより広まったハッキング・プロジェクトを、OSx86あるいはHackintoshと呼びます。

1984年の初代Macである「Apple Macintosh」の発売以来、AppleはCPUアーキテクチャを3回移行しています。Apple Macintoshには、当時サプライヤー関係にあったMotorolaのアーキテクチャ「Motorola 68k」を採用。その後、クロックスピードと比類のない電力効率で覇権を握ったIntelのx86アーキテクチャに対抗するため、Apple、IBM、Motorola(AIM)で協力して、比較的シンプルで大きな問題が発生しにくいRISCタイプのプロセッサであるPowerPCを誕生させました。Motorola 68kからPowerPCへ移行することでPCのパフォーマンスを大幅に向上させましたが、2000年代初頭になり、PowerPCはIntel x86に比べてワットあたりのパフォーマンスで遅れをとることになります。超薄型のMacBook Airなど小型製品を実現するために、いよいよIntelに乗り換える必要があったため、Appleは2005年にIntelのx86-64にCPUアーキテクチャを移行すると発表しました。

Intel製CPUは優秀ながら供給制約やリリースの遅れがあり、その影響をAppleのロードマップが大きく受けたため、AppleはIntelからの脱却を着々と進めていました。そして2020年、ついにAppleは「M1」という自社製チップを登場させて3度目のMac CPUアーキテクチャの転換を発表しました。M1はAppleシリコンの「Mファミリー」の最初のモデルで、その後M2、M3と進化を続けています。

AppleのCPUアーキテクチャを巡る歴史 - GIGAZINE


ヴァチッチ氏によると、AppleがMシリーズという自社製チップにCPU/GPUアーキテクチャを転換したことで、Hackintoshが影響を受けるそうです。

2023年6月に発表されたMac専用のオペレーティングシステム「macOS Sonoma」は、依然として最新世代のIntel Macをサポートしており、少なくとも1~2つのメジャーなバージョンについて互換性が保持される可能性が高いです。しかし、今後さらにAppleが自社製の独自路線に進むとしたら、互換性の問題が発生してHackintoshによるmacOSの転用ができなくなる場合があります。


さらに、ヴァチッチ氏は「Hackintoshが事実上死んでしまっている」原因として、主なポイントを挙げています。Appleはフレームワークを新しくしたタイミングで古いコードや未使用のコードをクリーンアップしており、SonomaではAppleでこれまで使われていたBroadcomカードのドライバーサポートをほぼ完全に削除しました。このBroadcomカードは、FaceTimeやAirDrop、Apple製品の連携機能など、macOSのほとんどの機能について対応していましたが、SonomaでBroadcomを初めとしたさまざまなカードを動作させるためには、macOSのセキュリティを大幅にダウングレードする必要があるとヴァチッチ氏は指摘しています。

GitHubで「OpenIntelWireless」という非公式プロジェクトに参加するzxystd氏によると、zxystd氏が公開しているドライバーを用いれば、Sonomaから削除された古いドライバーの代わりにもできるとのこと。しかし、これは不安定かつ一時的なものであり、「一部の構築を実行すると、一部のサービスが動作しないなどの副作用が生じることがあります。また、現在使用しているAPIも次のmacOSのバージョンでは削除されることが予測されるため、ドライバー全体を書き直すという実現が難しいやり方でなければ、今後の実行はできないでしょう」とzxystd氏は語っています。


2024年3月に更新したmacOS Sonoma 14.4は、USBサブシステムの動作方法に変更を加えています。これもHackintoshにある程度の影響を与えましたが、USBシステムの問題はしばしば発生するため、既知の解決策が存在しています。一方で、ヴァチッチ氏が「私は、ハックを無効にするのはCPUやGPUの変更ではなく、信頼できるWi-Fiドライバーの欠如であると考えてきました」と語るように、Wi-Fiに関する機能は対応が難しく、Hackintoshがぶつかる大きな壁となっています。

ヴァチッチ氏は実際に、最新のMacで動作する全てのWi-Fiドライバー、CPU、GPU、SSDなどのビルドをそろえたHackintoshを実行しました。以下の画像は、ヴァチッチ氏が示したHackintoshマシンの写真。しかし、初日から「イーサネットコントローラーがうまく機能していたのに、突然マシン全体がハードクラッシュする」「Wi-Fiも機能してiCloudも問題なく動作したのに、メッセージやFaceTimeなどのアプリがまったく動作しない」など次から次へと問題が発生したそうです。問題のほとんどが原因不明で、またSonomaが更新された際にアップデートをインストールできないなど、多数の問題が確認されました。


そのため、ヴァチッチ氏は「Hackintoshは死を目前にしています」と結論付けています。すべての機能がまったく使えないということではないため、「この機能は不要だがこの機能が使えればいい」という場合などは、数年後もHackintoshを継続することができます。しかし、一部の機能は制限されて改善が難しいほか、今後のアップデートでHackintoshでは実行できなくなる機能が増える可能性も高いです。

Hackintoshの制限について、ヴァチッチ氏は「Appleが意図的にHackintoshを絶滅させようとしているという意見もありますが、私はそうは思いません。AppleはHackintosh自体をまったく気にしておらず、ただmacOSのコードベースを改善するという、やるべきことを実行しているだけです。Appleは自社の製品に対する当然の取り組みとして、古くなった非推奨のコードを削除していっており、その結果Hackintoshが影響を受けています」と述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
AppleのCPUアーキテクチャを巡る歴史 - GIGAZINE

Intel CPUの歴史を代表モデルで振り返るとこうなる - GIGAZINE

AppleのM1チップはスティーブ・ジョブズの「最後の賭け」を実現するもの - GIGAZINE

携帯ゲーミングPCの「Steam Deck」でmacOS Catalinaを動作させることに成功 - GIGAZINE

Macが「macOS Monterey」のアップデート後に文鎮化する事例が多発、文鎮化するMacの特徴とは? - GIGAZINE

Intelが「Appleの呪縛を解く」とするムービーでAppleのMacを徹底的にディスる、ただしムービーには低評価が多数 - GIGAZINE

「AppleがIntel製CPUの採用をやめるのはSkylakeアーキテクチャの品質保証が悪いから」と元Intelエンジニアが主張 - GIGAZINE

in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by log1e_dh

You can read the machine translated English article here.