サイエンス

部屋に入ると用事を忘れてしまう「ドアウェイ効果」はバーチャル環境でも起こりうるという研究結果


用事があって部屋に入ったにもかかわらず、その用事がなんだったのかを忘れてしまった、という経験がある人は多いはず。このような出来事は「ドアウェイ効果」や「位置更新効果」と呼ばれており、現実のドアだけでなくバーチャル空間のドアをくぐった瞬間にも発生することが複数の調査により明らかになっています。

Walking through doorways causes forgetting: Situation models and experienced space | Memory & Cognition
https://link.springer.com/article/10.3758/BF03193261

Walking through doorways causes forgetting: Environmental integration | Psychonomic Bulletin & Review
https://link.springer.com/article/10.3758/PBR.17.6.900

「ドアウェイ効果」「位置更新効果」とは、出入り口を通過したり、ある場所から別の場所に移動したりしたときに、短期記憶が失われてしまう心理現象です。これまでの研究で、ドアウェイ効果は部屋を移動するような物理的な移動だけでなく、コンピューター上でデスクトップウィンドウから別のデスクトップウィンドウに移動するような場合でも発生することが報告されています。


作家のガブリエル・ラドヴァンスキー氏とノートルダム大学のデビッド・コープランド教授らによる2006年の研究では、41人の被験者に対し、バーチャル環境でのドアウェイ効果に関する実験が行われました。

研究チームは赤やオレンジ、黄色などのさまざまな色や、立方体や円すい形など、さまざまな形からなるオブジェクトが置かれたテーブルのある66の部屋のプログラムを作成しました。オブジェクトは被験者が手にした段階で見えなくなり、置くと元のテーブルの上に再び現れます。被験者はこの動作を確認した後、バーチャル環境上で出入り口を通ってプログラム上の別の部屋に移動します。その部屋では、色と形の名前が表示されるので、被験者は先ほどのオブジェクトと一致するかどうか「はい」または「いいえ」で回答します。


実験では、色と形の関連性を調べる試行が行われたほか、被験者が操作したオブジェクトとは無関係な試行も行われました。実験の結果、出入り口を通る移動を行うと、操作した物体を想起しにくくなることが明らかになりました。

続いて研究チームは、オブジェクトの操作を行う部屋と質問が行われる部屋との壁や出入り口を撤去し、同様の実験を行いました。その結果、部屋を移動するという空間的な変化が行われたにもかかわらず、被験者の記憶想起は有意に向上していることが判明。


これらの実験から、バーチャル環境においても出入り口を通過することは、記憶の想起に悪影響を及ぼすことが明らかとなったほか、ドアウェイ効果が認知処理に与える影響が浮き彫りになりました。

ラドヴァンスキー氏とコープランド氏らの研究は、被験者の没入感を高めるため、66インチのモニターを用いて実験が行われました。後にラドヴァンスキー氏はノートルダム大学のサビーネ・クラヴィッツ氏らと共同で、被験者の没入感を低下させるために同様の実験を17インチのモニターで実施。55人の大学生を被験者とした実験の結果、ドアウェイ効果はモニターの大小に関係なく生じることが判明しました。

さらに研究チームは没入感を最大限に高めるために、実際に3つの実験室を用いた実験を行いました。60人の被験者を対象とした実験では、最初の部屋のテーブルに置かれたオブジェクトを覚えた後、別の部屋に移動するよう参加者に指示。その後、参加者の気を散らすためのタスクを行った後、さらに部屋を移動させ、覚えたオブジェクトに関するテストを行いました。この実験でも、空間移動後に短期記憶が失われるというドアウェイ効果が明らかになり、現実、バーチャルを問わずあらゆる環境でドアウェイ効果が起こりうることが証明されました。


加えて研究チームは、バーチャル環境を用いてオブジェクトを覚えさせ、一度部屋を移動させた後に再度最初の部屋に戻らせてオブジェクトに関するテストを行うという実験も行ったのですが、「最初の部屋に戻らせる」という参加者に有利に働きそうな条件を付加したにもかかわらず、記憶が曖昧になってしまうことが判明しました。

2021年に行われたボンド大学の心理学者オリバー・バウマン氏らによる研究では、VRで表現した3Dの部屋の中を移動し、前の部屋にあった物体を思い出すという調査が行われました。この調査でも、研究チームが被験者に対してワーキングメモリに負荷をかけた状態で実験を行った結果、ドアウェイ効果の存在が確認されています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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