サイエンス

「軽い恐怖」を感じると記憶力が強化されることが判明

By Ricardo Alguacil

人間の記憶はコンピュータのメモリと異なり、全ての詳細を覚えているわけではありません。例えば「先週の金曜日のランチ」といった何気ないできごとは、しばしば思い出せないことがあります。一方で、意図して記憶しようと思ったわけではないのに、「なぜかあの出来事を事細かに覚えている」という体験は誰にでも思い当たる節があるはず。こうした「記憶の補強」は軽度の恐怖がトリガーになっている、という研究結果がNatureに掲載されています。

Emotional learning selectively and retroactively strengthens memories for related events : Nature : Nature Publishing Group
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature14106.html


Experiencing mild shocks while learning can enhance related memories | The Verge
http://www.theverge.com/2015/1/21/7866393/memory-enhancement-electric-shocks-while-learning

Natureに掲載された研究論文によると、人間の記憶は「恐怖」などの感情がトリガーとなって、恐怖を感じた瞬間より前の記憶力を強化することが実証されています。これによって、過去の重要な情報を選択的に記憶することも可能であるとのこと。

ニューヨーク大学で記憶の研究を行っているLila Davachi氏らのチームは、感情的イベントが過去の記憶にもたらす影響を確認するため、実験の意図を伝えられていない30人の成人参加者を集めました。参加者は3つのカテゴリに分けられた60枚の写真を、1度ずつ見せられます。1回目はランダムですが、2回目は「ハンマー」の次に「小動物」など、軽くショックを受けるような組み合わせ。3回目はショックを受ける恐れのない写真を使用します。


写真からショックを受けたかどうかは参加者たちの発汗量で測定されており、参加者たちは2回目のみショックを受けたことが確認されています。その1日後、参加者に1~3回目の写真をどれくらい覚えているかテストを行いました。Davachi氏も予想していなかったことですが、参加者たちは2回目でショックを受けた動物や工具が、1回目のランダム写真の中に出てきたことを覚えていたとのこと。また、3回目の写真の記憶力についても向上が見られました。

Davachi氏は「彼らは1度目に動物を見た時、重要な情報とは思っていませんでした。その後の出来事が、記憶をさかのぼって変化させたのです」と話しています。研究チームは、感情的な出来事が起こった後に、記憶力を向上させることを知っていましたが、過去の記憶補強ができるとは考えていなかったとのこと。実験結果が示した「選択的な記憶補強」をさらに研究していくことで効率的な学習方法が開発されやすくなり、Davachi氏は「初期段階のアルツハイマー病患者が、忘れたくない過去の記憶を強化できるかもしれません」と話しています。

By Punk Marciano

また。この記憶補強効果は3回目の写真を見てすぐにテストしても、効果が見られませんでした。ショックを受けた後に記憶が強化されるまでには6時間はかかるとのこと。記憶の強化が生じる間、実際に脳内でどのような変化が起こっているのかを確かめるため、研究チームは脳の画像検査を計画しています。また、「ショックを与える」という方法は理想的ではないため、今後は別の刺激で同様の効果が得られないか研究が行われる予定です。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
後天的な「恐怖体験」が、実は子孫に遺伝していくことが判明 - GIGAZINE

高所恐怖症の人は見るだけで心臓が止まりそうな瞬間満載のムービー集「Mustang Wanted」 - GIGAZINE

米軍ではカフェインの代わりに電気ショックでの「目覚まし」を検討中 - GIGAZINE

脳への電気的刺激で意識をスイッチのようにオン・オフできることが判明 - GIGAZINE

記憶力にいくら自信のある人でも記憶は簡単にねじ曲げられることが判明 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.