スケートボードは厳しい干ばつやサーフカルチャーなど複数の要因が重なって1970年代の南カリフォルニアで台頭した
1枚の板に車輪が付いたスケートボードは今やオリンピック競技にもなっていますが、かつては単なる子どもの遊びのひとつでした。そんなスケートボードがプロもいる競技にまで発展したのは、アメリカの南カリフォルニア特有のサーフカルチャーや1970年代の干ばつなど、複数の要因が重なり合った結果だという研究結果が報告されました。
Drought as a trigger of the rapid rise of professional skateboarding in 1970s Southern California | PNAS Nexus | Oxford Academic
https://academic.oup.com/pnasnexus/article/2/12/pgad395/7462603
How a drought led to the rise of skateboarding in 1970s California
https://www.cam.ac.uk/stories/skateboarding
A Perfect Storm of Culture And Climate Gave Us Pro Skateboarding, Study Says : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/a-perfect-storm-of-culture-and-climate-gave-us-pro-skateboarding-study-says
ケンブリッジ大学地理学部のウルフ・ブントゲン教授は、「私たちは気候と社会の関連性を指摘するために過去を振り返ることがよくありますが、時間をさかのぼるとその関連性を示す証拠は薄くなってしまいます。気候が人間の行動に影響を与えたことを示し、たくさんのデータを見つけられる現代に近い例がほしかったため、私たちはスケートボードを研究しました」と述べています。
スケートボードは1950~60年代にかけて10代の若者の趣味として広まっていましたが、当時はあくまでも遊びのひとつであり、プロが誕生するほどの人気はありませんでした。ところが、1970年代の南カリフォルニアでフリースタイルシーンの人気が爆発的に高まり、その後は世界的な産業となってプロも生まれるほどの競技となりました。
この理由として指摘されているのが、1970年代にカリフォルニア州を襲った干ばつです。そもそもカリフォルニア州では第二次世界大戦後の好景気を背景に、1960年代だけで15万個以上のプールが作られていました。中でもこの時期には壁が湾曲した「腎臓型のプール」が流行し、一戸建て住宅の建設ブームに伴ってロサンゼルス郊外に新しくできた腎臓型プールが、カリフォルニア州にある全プールの60%を占めていたとのこと。
しかし、1970年代に入るとカリフォルニア州は長期にわたる厳しい干ばつに襲われ、特に1977年は20世紀で最も乾燥した年になり、カリフォルニア州の水供給において重要なコロラド川とサクラメント川は非常に低い水位を記録しました。
この干ばつによってカリフォルニア州の農業部門は30億ドル(約450億円)の損失を被ったと推定されており、州水道局は「裏庭の家庭用プールに水を張ることを禁止する」といった厳しい制限を課しました。これにより、大量に作られたカリフォルニア州のプールが空っぽのまま放置されるという状態が発生したのです。
これに目を付けたのが、ロサンゼルス周辺に住んでいたフリースタイルのスケートボーダーたちです。特に腎臓型のプールは壁が湾曲しているため、壁に沿って滑るフリースタイルにはうってつけの環境だったとのこと。
実際に、空っぽになった腎臓型プールでスケートボードをする1970年代の若者たちの様子は、以下の動画を見るとよくわかります。
1970's Beverly Hills Pool Skating - Z-Boys - YouTube
また、フリースタイルはスタイルの多くをサーフィンから借用していますが、南カリフォルニアはアメリカのサーフカルチャーの中心地でもありました。そのため、当時の南カリフォルニアには偶然にも、フリースタイルのスケートボードが隆盛する環境が整っていたというわけです。
ブントゲン氏は、「サーフカルチャーの人気と影響は、スケートボードカルチャーの隆盛に必要不可欠でした。だからこそ、この動きは南カリフォルニアでしか起こり得なかったのです。フェニックスのような場所でも同様に干ばつや空っぽのプールがあったかもしれませんが、フェニックスにはサーフカルチャーが根付いていないため、プロのスケートボードが生まれることはありませんでした」と述べています。
さらに、1950年代にポリウレタンの工業生産が開始され、1970年代にスケートボードのホイールに使われるようになったことも台頭の一因となりました。これによってホイールのグリップ力と頑丈さが実現し、以前の金属製ホイールよりも速く滑ることが可能になったとのことです。
1980年代にはスケートボードが世界的な産業となり、民生用ビデオカメラが普及してスケートボードのビデオ撮影が可能になったことも、人気の普及に拍車をかけました。2021年の東京オリンピックでは初めて夏季オリンピックの競技として採用され、今やスケートボードは数十億ドル(数千億円)規模の市場を持っています。
ブントゲン氏は、「私たちは気候変動がもたらす悪影響についてよく考えます。しかし、私たちの研究は地域的な気候変動が人間社会に予期せぬ影響を与える可能性があり、そのすべてがネガティブなものではないことを示しています。このケースでは、カリフォルニア州の干ばつが巨大産業の発展につながりました。もう少し深く考えてみると、気候や環境要因が社会に深く影響しているという私たちの考えが裏付けられます。このような発展は無作為なものではなく、スケートボードの場合は、それぞれの要素が同じ場所と時間に存在する必要がありました。10年前か10年後、あるいは数百マイル(数百km)離れた場所では起こりえなかったのです」とコメントしました。
・関連記事
スケートボードを回転させながら飛ぶ「トリック」をスローモーションムービーで分かりやすく解説 - GIGAZINE
「スケボー界の神」が無重力下でぐるんぐるんに回転しながら超絶トリックに挑戦 - GIGAZINE
誰もいなくなった無人のウォーターパークでスライダーをスケボーで滑るムービー - GIGAZINE
巨大ウォータースライダーの水を抜きプロスケートボーダーがジャンプとトリックをきめるムービー「Skating an Empty Water Park」 - GIGAZINE
世界最高峰のプロスケーターがスケボーの超絶トリックを披露しまくるムービー - GIGAZINE
レゴブロックで作ったスケートボード「LEGO SKATEBOARD」で実際にトリックを決めまくるムービー - GIGAZINE
世界初のモーター内蔵ホイールで最高時速38kmの電動スケボー「The Monolith」 - GIGAZINE
ガラス製のスケボーに乗ると一体どうなるのか? - GIGAZINE
・関連コンテンツ