サイエンス

月面着陸に成功した「SLIM」はミッションの主目的を果たして「満点」評価も着陸姿勢が話題に


2024年1月20日、日本の月着陸実証機「SLIM」が月面への着陸に成功しました。狙いの場所にピンポイントで機体を降下させるという主目的は果たしていますが、着陸時の姿勢が計画とは異なり、まるで逆さになったかのような姿になって目を引いたことで、海外のフォーラムでも話題となっています。

Japan's precision moon lander has hit its target, but it appears to be upside-down
https://phys.org/news/2024-01-japan-craft-successful-pin-moon.html

Japan's precision moon lander has hit its target, but appears to be upside-down | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=39128977

SLIMは2023年9月7日に打ち上げられ、2024年1月20日に無事月面への着陸を果たしました。これで日本は旧ソ連、アメリカ、中国、インドに次ぐ5カ国目の月面着陸達成国となりました。

日本の月着陸実証機「SLIM」が世界で5カ国目の月面着陸に成功 - GIGAZINE


SLIMの目的の1つは「月への高精度着陸技術の実証」です。これまで、惑星探査機の着陸地点は「降りやすいところ」が選ばれてきました。しかし、「降りたいところに降りる」ことができるようになれば、惑星探査の可能性が広がり、今後の大きな転換となります。

実際のところ、SLIMは着陸目標地点から誤差100m以内の「ピンポイント着陸」に成功しました。


JAXAが事前に定めていた成功基準は以下の通り。

ミニマムサクセス:小型軽量な探査機による月面着陸を実施し、「高精度着陸に必須の光学照合航法を、実際の月着陸降下を実施することで検証」「軽量探査機システムを開発し、軌道上動作確認を行う」の2項目を達成すること。
フルサクセス:精度100m 以内の高精度着陸が達成されること。具体的には、高精度着陸航法系が正常動作し、誘導則に適切にフィードバックされ、着陸後のデータの解析により着陸達成に至る探査機の正常動作と着陸精度達成が確認されること。
エクストラサクス:高精度着陸に関する技術データ伝送後も、日没までの一定期間、月面における活動を継続し、将来の本格的な月惑星表面探査を見据え、月面で活動するミッションを実施する。

つまり、今回のミッションは「フルサクセス」を達成したといえます。

また、着陸直前には月面探査ローバー「LEV-1」と変形型月面ロボット「LEV-2」の放出にも成功していて、LEV-2によって撮影されたSLIMの画像が月面から送られてきています。LEV-2は球形で格納されていましたが、変形して月面に展開、自律制御によって周囲の様子を撮影し、その中からSLIMが画角内に収まった画像をアルゴリズムで選定して送信してきたとのこと。


総じて、今回のミッションはうまくいったといえますが、着陸後のSLIMは太陽電池からの電力供給がなく、想定した姿勢で着陸できなかったことがわかっています。LEV-2が送信してきた画像からも、SLIMがスラスターを上に向けた、本来の着陸時の姿勢ではないことがうかがえます。

SLIMの月面着陸について、AP通信は「日本の精密月着陸船は目標を到達したものの、逆さまになったようだ」と報じていました。

Japan's precision moon lander has hit its target, but it appears to be upside-down | AP News
https://apnews.com/article/japan-moon-lander-slim-probe-pinpoint-2908c74d9e3c4c8a5eabfb6b1625c617


ただし、この「逆さまになっているように見える」という表現は不正確で、SLIMは傾斜地でも着陸できるように、二段階着陸方式を採っているため、最終的にスラスターは下向きではなく、横向きの姿勢になる予定でした。


今回の着陸では、着陸の50mほど手前で2基あるメインエンジンの1基の推力が失われ、もう1基のエンジンのみで降下を実施。横方向の速度や姿勢などの接地条件が仕様範囲を超えた結果、計画とは異なる姿勢での着陸になったとのこと。

ソーシャルニュースサイト・Hacker Newsでは、月面着陸の結果・成果等の記者会見でJAXAの坂井真一郎プロジェクトマネージャーが述べた「ピンポイント着陸に関しては満点」という説明について、smeej氏が「あれで満点?本当に?もっとうまくいけたのではないですか?」と疑問を呈しました。

この疑問に、makeitdouble氏は「これほどの精度で着陸できたことは画期的な出来事で、今後『どこに着陸するか』という考えの組み立て方を変えるものだと坂井氏は述べています。そのため、満点という評価は正当だと思います」と返答しています。

zem氏は「重要な点は、狭い領域内に正確に着陸できるかどうかだったようで、彼らはそれを見事に達成しました。これまでのほとんどの探査機は、幅約10kmの着陸帯を使用していましたが、SLIMはわずか100mの目標を目指していました。精度が向上すれば、探査機を障害物の近くに着陸させられるようになるため、科学者は月のより多くの場所にアクセスできるようになります」と評価しました。

また、numpad0氏は会見の中でJAXA・ISASの探査機のスラスターに問題が発生するのは3件目だと言及があったことに触れ、「アポジモーターを正確に動作させるのは予想以上に難しいようです」とコメントしています。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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