サイエンス

マルチタスクは本当に生産的なのか?マルチタスク能力に年齢による差はあるのか?


日々時間に追われている現代人は、「テレビを見ながら仕事のメールに返信する」「会議に参加しながら買い物メモを作る」「ポッドキャストを聞きながら料理する」など、複数のタスクを同時並行でこなす「マルチタスク」を日常的に行って時間を節約しています。そんなマルチタスクは本当に生産的なのか、年齢によってマルチタスクの遂行能力に差が出るのかといった疑問について、オーストラリアンカソリック大学の発達心理学教授であるピーター・ウィルソン氏が解説しています。

Think you're good at multi-tasking? Here's how your brain compensates – and how this changes with age
https://theconversation.com/think-youre-good-at-multi-tasking-heres-how-your-brain-compensates-and-how-this-changes-with-age-218343


テクノロジーの発達や業務効率化のあおりを受けて、現代人は「より短い時間でさまざまなタスクをこなす」ことを求められており、1日のうちに何度もマルチタスクを行って複数の物事に注意を分散させています。しかし、2つのことを同時に行うことは、1つのことに集中するよりも生産性や安全性が劣る可能性があるとウィルソン氏は指摘しています。

マルチタスクのジレンマは、「電話をしながら車を運転する」といった複雑でエネルギー消費量の多いタスクになると、どちらかまたは両方のタスクでパフォーマンスが低下してしまうという点です。脳はさまざまな役割を担う部位に分かれていますが、同じ部位を使用するタスクが競合すると相互に干渉し、うまくタスクが実行できなくなってしまうとのこと。

たとえば前頭葉は運動タスクと認知タスクの両方を担っていますが、この前頭葉に依存する「車の運転」というタスクと「電話で話す」というタスクが組み合わさると、危険の発生時に急ブレーキを踏むのが遅れたり、標識や信号を見落としたりするリスクが高まります。電話の内容が複雑になると、たとえ手を使わないハンズフリー通話でも事故のリスクが高まるという研究結果も報告されています。


しかし、誰もがマルチタスクをうまくこなせないというわけではありません。ウィルソン氏は、「一般的に、主要な運動タスクに熟練しているほど、同時に別のタスクをこなす能力が高まります。たとえば熟練した外科医は、研修医よりも効率的にマルチタスクをこなすことができるため、多忙な手術室でも安心できます。高度に自動化されたスキルと脳の効率的なプロセスは、マルチタスク実行時の柔軟性を高めるのです」と指摘しています。

また、マルチタスク能力は脳の容量と経験によっても向上するため、まだ成熟していない子どもと比べると大人の方がマルチタスクは得意です。「歩きながら何かを考える」というマルチタスク能力も小児期と青年期に発達するため、歩いている子どもに「数字の並びを思い出す記憶タスク」「動物の名前を列挙する言語タスク」「シャツのボタンを留めるなどの運動タスク」などを与えると、歩行速度とタスクの遂行速度の両方が低下するとのこと。


年齢による脳の成熟度もマルチタスク能力に関わっており、前頭前皮質が大きくなると複数のタスク間で認知リソースを共有することが得意になり、高いパフォーマンスを維持したまま複数のタスクをこなせるようになります。脳の右半球と左半球をつなぐ脳梁(のうりょう)の成熟にも時間がかかるため、子どもは「歩きながらメールを打つ」といったマルチタスクが苦手だそうです。

さらに、運動や動作にぎこちなさが生じる発達性協調運動障害などを持つ人は、マルチタスクの際に間違いが生じる可能性が高くなるとウィルソン氏は指摘。この障害を持っている子どもは、歩きながら認知的なタスクをこなすのが苦手なため、学校まで歩いていくのにも時間がかかってしまいます。


高齢者もマルチタスクのエラーを起こしやすく、高齢者は歩きながら別のタスクに取り組むと若い成人よりもはるかに歩行速度が低下するそうです。これは障害物を避けなくてはいけなかったり、道が曲がりくねっていたり、でこぼこしていたりする際に顕著になるとのこと。

この理由についてウィルソン氏は、「高齢者は歩行時、特にマルチタスクを行っている時に、前頭前野をより多く使用する傾向があります。これは、同じ脳のネットワークが認知タスクを実行している時、より多くの干渉を生み出します」と述べています。

しかし、高齢者はエアロバイクをこいだりトレッドミルで歩いたりしながら、「詩を作る」「買い物リストを作る」「言葉遊びをする」といった認知タスクを行うことで、マルチタスク能力を向上させることができるとのことです。


ウィルソン氏は、「ウォーキングは頭の中をすっきりさせ、創造的な思考を促進するということを忘れないでください。また、いくつかの研究によると、ウォーキングは環境中の視覚的イベントを読み取り、反応する能力を向上させることがわかっています」と述べ、歩きながら何かを考えることがメリットをもたらすこともあるとしています。

その上で、マルチタスクは感情およびエネルギー的なコストが大きいため、特に時間に追われている時に余裕が失われてストレスが増加すると指摘。このような状態が続くと、疲労感や空虚感を覚えてしまうとのこと。

ウィルソン氏は、「深い思考はそれだけでエネルギーを必要とするため、、交通量の多い道路を横断している時、急な階段を下りている時、電動工具を使っている時などは注意が必要です。誰かに難しい質問をする時は、良いタイミングを見極めてください。それは、鋭い包丁で野菜を切っている時ではないかもしれません。時には、一度にひとつのことに集中した方がいいこともあるのです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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