マルチタスクは幻想だがその幻想が現実のパフォーマンスを上げる

by FirmBee

複数のタスクを同時に行うマルチタスクは効率が悪くストレスがたまりやすいといった指摘が行われていますが、最新の研究で、「マルチタスクは幻想だが、マルチタスクを行っていると信じることはパフォーマンスを上げる」という報告が示されました。

The Illusion of Multitasking and Its Positive Effect on Performance - Shalena Srna, Rom Y. Schrift, Gal Zauberman, 2018
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0956797618801013

This Study Suggests Multitasking Is Not as Awful For Us as We Thought
https://www.sciencealert.com/the-surprising-way-multitasking-can-actually-boost-cognitive-performance

複数のことを同時に行うマルチタスクは脳のパワーを大量に使うため、生産性や記憶力に悪影響を与えたり、精神的な問題を引き起こしたりという問題点が指摘されています。

また「マルチタスキング」は実際には起こっておらず、人は「たくさんのタスクを同時に行う」のではなく「タスクを切り替えているだけで一度には1つのことしか行っていない」という主張も存在します。消費者行動を研究するミシガン大学のShalena Srna氏もこの点には同意しており、「マルチタスクは認知の問題であり、幻想のようなもの」だと語っています。

しかし一方で、Srna氏は新たな研究で「マルチタスキングは幻想だが、その幻想の効果は本物であり、認知タスクにおけるパフォーマンスを増加させる」という内容を示しました。

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マルチタスキングのパフォーマンスを調べた研究はこれまでにも存在しますが、Srna氏の研究のユニークなのは、「自分は今マルチタスクを行っている」という認識がパフォーマンスにどう影響するかを調べたところ。

Srna氏によると、これまでの研究で、タスクが難しくなると、人が持つ「努力しようとする動機」や「認知制御」は増すことが示されているとのこと。実際に複数の研究結果で、挑戦的なタスクを行った人が注意力や結果としてのパフォーマンスを上げており、ここから「複数のタスクを行っている」という認識が現実のパフォーマンスを向上させる可能性が考えられるわけです。また反対に、1つのタスクだけに集中することは「注意力、努力、認知リソースを必要としない」と考えられ、パフォーマンスが下がる可能性があります。

この仮説を調べるため、研究者は合計8000人以上の被験者を対象にした複数の調査を実施。被験者はいずれも同じタスクを課されましたが、マルチタスクで行うか、シングルタスクで行うかという違いが設けられました。

例えば、あるテストでは、マルチタスク／シングルタスクの2つのグループに分けられた被験者は、教育的なムービーを見て内容を書き起こすというタスクを行いました。また、マルチタスク／シングルタスクの状態でオンライン講義を見るというテストも実施されたとのこと。

この結果、多くのテストにおいて、「自分はマルチタスクを行っている」と考えていた被験者はいい結果を出したとのこと。このような被験者は書き起こしを迅速かつ正確に行い、高品質のノートを取り、クイズで高いスコアを記録したといいます。

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実験では被験者の注意力と精神的な努力を測定するため、アイトラッキングで瞳孔拡張が調べられました。研究者はこのような方法が正確性において「限界がある」ということを認めているものの、マルチタスキングを行っている人はシングルタスクを行う人に比べて瞳孔拡張の平均が大きいと報告しています。これは、マルチタスキングを行う人の精神的な努力がより大きいことを示しているとのことです。

もちろん、この研究結果は「マルチタスクはシングルタスクよりも優れている」ということを意味しませんが、精神的な意味合いにおいて、マルチタスクは人に努力や集中をもたらすものといえそうです。