「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」プロデューサーのデイビッド・ヘイマン&アレクサンドラ・ダービーシャーにインタビュー
映画「チャーリーとチョコレート工場」でジョニー・デップが演じた工場長ウィリー・ウォンカの若き日の物語を描いた、ポール・キング監督&ティモシー・シャラメ主演の映画「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」が2023年12月8日(金)から公開されるのに合わせて、プロデューサーを務めたデイビッド・ヘイマン氏とアレクサンドラ・ダービーシャー氏に、作品の成り立ちやポール・キング監督についてなど、いろいろな話をうかがいました。
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/wonka/index.html
GIGAZINE(以下、G):
本作はロアルド・ダールの小説「チョコレート工場の秘密」の主人公であるウィリー・ウォンカの若き日を描いています。この小説は複数回映像化されていますが、それらの作品については制作時にどれぐらい考慮されているのでしょうか。
※「チョコレート工場の秘密」は1971年にメル・スチュアート監督&ジーン・ワイルダー主演で、2005年にティム・バートン監督&ジョニー・デップ主演で、それぞれ映画化されている。
デイビッド・ヘイマン氏(以下、DH):
確かに映画化されたことがあります。本作では特に、メル・スチュアート版と矛盾するような内容が出てくることはないようにしました。大元になるのは「少年ウィリーは、どのようにしてみんなが知っているウォンカになったのか」というところです。前2作の映画でのウォンカはとてもシニカルで、工場内に閉じこもってしまっている人物として描かれています。我々が考えたのは「ウォンカはいったいどういう人物だったんだろう?裏切られてウォンカになる前、ウィリーはどういう人だったんだろう」ということでした。もっと純粋で、ナイーブで、夢を追っていた、そういう彼を描きたかったんです。
G:
本作は前2作と異なり、完全にオリジナルの展開だと思います。そんな作品の脚本を作るにあたり、書き直しはどれぐらい行ったのでしょうか。
アレクサンドラ・ダービーシャー氏(以下、AD):
監督は何度も何度も書き直しをしていました。
DH:
私にとってもアレックス(ダービーシャー氏)にとっても、それが監督と仕事をする上での喜びであり挑戦でもあるんですけれど、ポール・キング監督はいつも何かを調べているんです。本作の脚本は、最初に読ませてもらった時点で「お金を出します」と説得されるような内容でした。つまり、その時点でもうゴーサインは出ているんですが、監督は何週間か前まで、ずっと書き直しをしたんです。
AD:
ポールは監督・脚本両方やっているので、私にとっては「ポールに脚本の書き直しを止めてもらって、監督をさせる」のが挑戦でした(笑)
こういう映画を作るのはとても難しくて複雑な仕事なので、「この台本で行く」というのを早めに決めなければいけないんです。でも現実問題として、ポールはずっと脚本を書き直し続けていて、さらに修正が入って……そこまで3年間かかっているのに、デイビッドの言うようにさらに3週間ぐらい前までは書き直しをしていました。
DH:
ただ、こうやって変更し続けようとすることは、我々が監督に求めている部分でもあるんです。それだけ作品をよくしようとしているということですからね。作品は生き物であり、脚本も生き物なので、欠陥がないかを調べて、少しでもよくしようとしたんです。
G:
本作の初期の予告編は明るめのトーンのところが目立っていたのですが、実際に本編を見るとシビアな描写も多々ある作品でした。
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』 US版予告 2023年12月8日(金)公開 - YouTube
DH:
主人公には敵対するものがあり、そのヴィランがダークな存在だからだと思いますが、これはダール氏による小説がもともとそういった雰囲気を持っているからということになりますね。でも、私は作品自体が「ダーク」だとは思っていません。ヴィランは出てきますが、ちょっと強調されています。映画は社会的な現実を表現するためのものではありませんから、危険な悪の手が迫ったとしても、観客のみなさんには、最後まで安心して見ていられる作品だと感じていただけるのではないかと思います。
G:
本作はわりとミュージカル的な要素が強いと思いますが、この作風はどのように決まったのでしょうか?
AD:
最初から決まっていました。ポールが「オリジナルの曲を何曲か使いたい」と言っていたものを入れたのと、シンガーソングライターのニール・ハノンのことが大好きということなので、頼んで曲を書いてもらいました。ただ、すべて歌にしているわけではないので、ミュージカルというわけでもないんです。
DH:
「映画の中に歌がたくさん含まれている」という感じですね。
G:
ポール・キング監督とは何度かコンビを組まれていますが、どういった点が魅力の監督ですか?
DH:
もう、素晴らしい監督なんです!プロデュースした作品がどうなるかは、監督の手腕で決まりますから。
AD:
プロデューサーの仕事は、監督のビジョンを達成するためのサポートです。ポールのビジョンはとてもディテールに富んでいて特別なもので、その実現をサポートできるというのは、我々にとっても大きな喜びなんです。
DH:
そう、はっきりとしたビジョンを持った監督で、すばらしい想像力の持ち主です。
AD:
それに寛大ですし……。
DH:
絶対に諦めない。「完璧」に到達するまで譲歩しない。プロデューサーとしては大変なんですが(笑)、それは、とてもいい意味の「大変」です。プロデューサーが求めているのはまさにそういうものなんです。「これでいいや」というような並のものは求めていませんから。
AD:
彼のアイデアが作品をよりよくするものなら、我々も頑張って達成しようとします。
G:
本作において、監督の力量が反映されている部分はどういったところで感じられますか?
DH:
すべてのフレームです!もし私が作品を監督していたとしたら、今日、ここに座っていることはないだろうというぐらいに(笑)
(一同笑)
DH:
ポールだからこそこういうデザインになるし、こういう曲になっているし……とにかく、フレームごとにすべてを見て欲しいと思っています。
AD:
それと同時に、彼はとても協力的な人でもあります。我々と会話することをいとわないので、プロデューサーとしてはとても喜ばしい限りです。
G:
本作の制作に関する記事を読んでいると監督や主演のティモシー・シャラメさんがチョコやキャンディを食べ過ぎてしまい、調子が悪いときもあったというような話を見かけました。
DH:
確かに最初はポールがチョコを食べ過ぎたことがあったかもしれません。今回、チョコレートメイキングにすごいスタッフが参加してくれて、花の形をはじめとしたいろいろな素晴らしいチョコレートを作ってくれたんです。
AD:
もう……「神」みたいな人です。
DH:
チョコの見た目がいいだけではなく、味もすごくよくて、めちゃくちゃおいしかったのでいっぱい食べてしまった、というのは事実です。さすがに体調を崩すほどではなかったですよ(笑)
AD:
ティモシーは他の人よりは量が少なめでしたよ(笑)
G:
ヘイマン氏はかなり本を読むと聞いているのですが、どういった本を読むのですか?
DH:
私はめちゃくちゃ読書人間なんです。本を読むといろいろな発見があります。仕事のためではなく、好きで読んだ本に驚かされることもあります。あらすじだけ見て「これ読むよ」となることもありますし……たとえば「ハリー・ポッター」の場合は、アシスタントが先に読んで「魔法学校に行く男の子の話がありますよ」と紹介してくれたので、面白そうだなと興味を持ちました。よく、「映画になるのはどういう本ですか?」と聞かれます。でも本を読んで、はじめてどういうものかがわかるので、「どういう本が映画になるか」は一口には言うことができません。あえて言うなら「本に詰まっているいろいろな要素が映画のもとになっている」という感じです。本作の場合は、ダール氏の生み出したキャラクターにインプレッションを受けて作りました。映画にするための、すばらしいキャラクターでした。
G:
今回、「ウォンカ」は日本での公開がアメリカ公開より1週間早いのですが、なにか狙いの戦略があったのですか?
DH:
日本がこの映画向けに素晴らしい場所だと思ったんです。……正直に白状すれば、スケジュールがたまたまそうなった、という部分もあります(笑)
(一同笑)
DH:
もし日本での公開が後になると、我々は日本に来られなくなってしまいます。日本は大事な市場であると同時に、私もポールもティムも日本が大好きでプロモーションのタイミングを考えるとここしかないという、そういう現実的な問題もありました。本当に、こうして日本に来られてうれしく思っています。
日本で行われた「マジカル・チョコレート・ナイト」の様子はこんな感じ。
【ダイジェスト映像】映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』”マジカル・チョコレート・ナイト”チョコレート・カーペット・イベント 2023年12月8日(金)公開 - YouTube
イベントに参加したのは左からウォンカの相棒となる少女・ヌードル役の吹き替えを担当するセントチヒロ・チッチさん、ヘイマン氏、ポール・キング監督、ウィリー・ウォンカ役のティモシー・シャラメさん、ウンパルンパ役のヒュー・グラントさん、ダービーシャー氏、ウォンカ役の吹き替えを担当する花村想太さん(Da-iCE)。
G:
なるほど、うまくハマったというわけですね。ダービーシャー氏はイギリスを拠点に仕事をしておられるとのことですが、どのようにして映画のプロデューサーになったのですか?
AD:
もう昔の話ですよ(笑) 私は映画学校に通って、ランナー(補佐的役回り)をしていました。そこからだんだんと位が上がっていきプロデューサーになって、やがて私を信頼して作品をプロデュースさせてくれる人が現れた……という流れです。その人こそデイビッドだったんです。
DH:
彼女はずっと昔から仕事をしていて、配慮ができる人で、映画を作ることに対しての側面をすべて理解しているというプロデューサーに必要な資質を備えていました。なにより、ものすごく「映画大好き人間」です。ポール・キングは彼女と会えてラッキーだと思うし、私も彼女に加わってもらえて幸運です。
AD:
私こそ「パディントン」を任せてもらってラッキーでした。
DH:
そんなことないよ(笑)
「パディントン」は児童文学を原作とした映画で、ポール・キング監督が制作。
映画『パディントン』予告編 - YouTube
AD:
私は当時、VFXの経験がなかったんですが、「勉強するから信頼して」と言ったら、信じてくれたんです。そこから今に至ります。
DH:
もう、今となっては彼女の方が仕事のことをわかってるぐらいですよ(笑)
G:
ヘイマン氏は大学で美術を習っていたとあり、それが今のキャリアに生かされているのかなと思ったのですが、どういったことを学ばれたのですか?
DH:
美術史を学びました。映画を手がける方はみなさん映画の学校へ行くのですが、私は広い意味での「教育」を受ける重要性を感じています。芸術も歴史も、ストーリーを語ることに深く関わってきます。特に芸術は神秘的なもので、私は非常にいい教育を受けられたなと思っています。アメリカの大学なので言語は共通なのですが、ものすごく「異なる部分」がたくさんありました。旅行が大好きということもあって、異文化の人々と一緒に過ごすのもとてもいい教育だと感じています。
G:
最後に、本作を楽しみにする方へ、一言をいただければと思います。
AD:
この映画は「劇場映画」です。ものすごく丁寧に、細かいところまで配慮されて作られています。演技も温かく心地よくなるものです。プロデューサーとして何度も映画を見ましたが、本作は他の人と一緒に見るのにぴったりな映画で、見終わったら温かい気持ちになり、自然と笑顔になれる作品だと思います。ぜひ劇場で楽しんでいただきたいと思います。
DH:
大人も子どもも心を揺さぶられるような感動的な作品で、視覚的にも素晴らしいできあがりとなりました。いろいろと試されるこの時代に生きる我々がやってよかったという、心が温まる、よりよい経験に出会える作品です。これからの寒い季節、みんなで集まって、卓越したクリエイターの手がけたこの作品を見ていただければうれしいです。
G:
本日はありがとうございました。
映画「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」は本日・2023年12月8日(金)から全国ロードショーです。セリフも歌も日本語版キャストが行う「完全吹替版」もあります。
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』完全吹替版本予告 2023年12月8日(金)公開 - YouTube
◆「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」作品情報
監督・脚本:ポール・キング
製作:デイビッド・ヘイマン
原案:ロアルド・ダール
出演:ティモシー・シャラメ、ヒュー・グラント、オリヴィア・コールマン、サリー・ホーキンス、ローワン・アトキンソン
配給:ワーナー・ブラザース映画
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