インタビュー

工学的原理を追求してデザインしたものは自然と美しくなる、「MEG ザ・モンスターズ2」ピエール・ボハナ美術監督インタビュー


かつて巨大ザメ・メガロドン(MEG)と死闘を繰り広げた海洋レスキューのジョナス・テイラー(演:ジェイソン・ステイサム)が、今度は群れで現れたMEGとの戦いに身を投じることになるアクション映画「MEG ザ・モンスターズ2」が2023年8月25日(金)から公開されます。

予告編でかつてはティラノサウルスすら捕食対象にしていた最強生物・MEGが複数で現れ、さらにはMEG以外のモンスターも現れるという状況で、いったいテイラーはどう立ち回るのか、見どころの多い映画ですが、その迫力を支えるのはリアリティを感じさせるアイテムの数々にもあります。

本作の美術監督を務めたピエール・ボハナ氏に話を伺う機会を得たので、どのようにして作中アイテムの制作に取り組んでいるのかを聞いてみました。

映画『MEG ザ・モンスターズ2』公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/megthemonsters/index.html


GIGAZINE(以下、G):
本日は忙しい中、お時間をありがとうございます。さっそくうかがいますが、本作でボハナさんは主にどういうものの制作を担当したのですか?

美術監督ピエール・ボハナ氏(以下、PB):
私はマリアナ海溝での探索が行われるときに、主人公のテイラー(演:ジェイソン・ステイサム)らが着用しているダイビングスーツなど、あのシークエンスに関わるものをすべて担当しています。

以下のビジュアルでジウミン(演:ウー・ジン)とテイラーが着用しているのが話題に出ているダイビングスーツ。まるでパワードスーツのような堅牢なデザインです。


G:
アイテムの制作は脚本を読んでから行うことになると思うのですが、全体の制作計画はどのように立てていったのですか?無限に予算があるわけではないので、そことの兼ね合いが出てくるのではないかと思うのですが。

PB:
お金のことを聞かれたのは初めてかもしれない(笑) まさに、予算は無限ではありませんから、コンセプト作りのところから監督や衣装の人たちと話をしていきました。衣装部のデザイナーが作中のものについての計画を立てていく中で、私が重視したのはダイビングスーツに関するメカニズムです。実際に機能するものか、理論があるかどうか、ちゃんと原理はあるかということを大事にしながら、デザインや制作過程のことを考えつつ「予算はこれぐらいで」と、相談しながら作っていきます。

G:
なるほど。制作そのもののスケジュールは、どのように立てるのですか?

PB:
スケジュール感は「ボックス」です。「1ヶ月」とか「4ヶ月」とか、まとめた期間をもらってその中で作っていきます。そして、期間中になるべくいいものを作り、期限が来たら「じゃあ、がんばって!」と送り出します。

G:
ああー、そういう感じなんですね。予算の制約との中でのバランス取りの部分はどうでしょうか?

PB:
ははは(笑) 僕らの最終的な責任というのは、「映画撮影時にちゃんと使用できること」なわけです。見た目はイケているか、どこかがとがっていて役者がケガしたりはしないか、毎日使えるような耐久性はあるか、あるいは撮影時の出し入れや着脱はすぐにできるか、といったところを大事に考えて作っています。ボリュームが多いものを発注されると、見積もりはできるけれど、最終的に製造の過程でどれぐらいかかるかはやってみなければわからない部分もあるので、そこはマネジメントですね。

G:
(笑)

PB:
チームのトップとして、コストがかかりそうであれば予算以外のところでうまく都合をつけたり、あるいは素材をほどよく安いものに変更したりといったマネジメントを行い、必要なものを作っていきます。小道具の場合は必要なものをリストアップして見積もりを作ります。見積もりも、やってみないとわからないところはありますけど(笑)、制作に入りつつマネジメントしていきます。

G:
なるほど。

PB:
私は制作するデザイナーをガイドする立場でもあり、予算感やどうすればいいのかは、ある程度自分に経験があるので、そういったところから導いていきます。なので「クリエイティブ」というより「マネジメント」かなと思います。

G:
邦画では、コスチュームの素材感が出たり、美術がいかにもセットだったりというのを感じる部分があったりします。本作はそういうところがあまりなく、とても重厚でリアリティを感じます。美術監督として「実在感」を出すためのポイントはどういうところだと考えていますか?特に、コスチュームについてうかがいたいです。


PB:
そうですね……私は、すべて実用的な原理に基づいたデザインであるべきだと考えています。本作に登場するダイビングスーツは海底の深いところ、すごい水圧の中で作業することになります。それを考慮した良質なデザインにすることで、ストーリーを物語らなければいけないと思うんです。同時に、そして、工学的原理も考慮して作っていかなければならないと思っています。

G:
おお……

PB:
実際、すばらしい見た目の美しさというのは工学から来ています。たとえばF1のレーシングカーとか、コンコルドの旅客機とかは、美しさを追求して作っているわけではありませんが、工学を追究して作った結果、本質的に美しいものになっています。それと同じなのです。

G:
ああー、確かに。

PB:
映画ですから、登場するものはどうとでも作ることができます。でも、デザインに対する意識を持つことが大事です。私も時々目にすることがありますけれど、たとえば、卵パックにペンキを塗って衣装に取り付けるようなことは違うのではないかなと思うんです。

G:
本作の制作に携わって、思っていたよりも大変だったけれど、苦労しただけの甲斐があったという部分があれば教えて欲しいです。

PB:
水中撮影は、現場は本物の水は使わない撮影でした。でも、ダイビングスーツはアンダーがゴムで作られていて、外部にはメカっぽいものを組み合わせて、さらにヘルメットもすごく実用性があるようにと考えて作られています。一部、水中で撮影することもあったのですが、それこそ、1日中水中にいられるぐらいのできだったと思います。役者さんたちに「着心地がいい」と言ってもらえて、実際、楽に着られるものでした。あと細かい部分ですが、ヘルメットのバイザー部分は20mmのガラスを使っていてかなり重いものになりました。でも、水中作業時は浮かないようにおもりを着けたりするので、理にかなったデザインになったなと思います。

なお、水中撮影こそ水を使わない形で撮影されたとのことですが、水上バイクのシーンに関しては一部のアクロバティックな動きを除き、ジェイソン・ステイサムは自ら演じています。


水上バイクでMEGの群れに挑むジェイソン・ステイサムが絶体絶命な映画「MEG ザ・モンスターズ2」本編海上ライド映像 - YouTube


G:
なるほど。お時間、ありがとうございました。

PB:
こちらこそ、ありがとうございました。

映画「MEG ザ・モンスターズ2」は2023年8月25日(金)公開です。人々を襲うモンスターの姿はもちろん、ダイビングスーツをはじめとしたアイテム類にもぜひ注目してみてください。

映画「MEG ザ・モンスターズ2」予告編 ジェイソン・ステイサムVS超巨大ザメ・メガロドン再び - YouTube

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』美術・橋本創さんインタビュー、台本にない部分を補強することで作品の深みが増す - GIGAZINE

野望は特撮コレクションの美術館建設、特殊メイクの第一人者にして筋金入りの特撮マニア原口智生監督インタビュー - GIGAZINE

「よくないものを入れないこと」が大事、『漁港の肉子ちゃん』美術監督・木村真二さんインタビュー - GIGAZINE

ヤマトらしい美術を「愛」と「根拠ある理由」で支える「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」美術監督・谷岡善王さんインタビュー - GIGAZINE

in インタビュー,   動画, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.