年間17兆円以上を稼ぐために航空会社はダークパターンを多用している
ウェブサイトで最も安い航空券を検索・予約できるようになり、航空券の価格競争はますます激しくなっています。そのため、航空会社は航空券の値段を下げる代わりに、座席指定や手荷物の預入れといった有料オプションの料金を顧客に請求するようになっています。しかし、航空業界が有料オプションを顧客に売り込むために、航空券をオンライン販売するウェブサイトでさまざまな手口を取り入れていると批判されています。
Airlines will make a record $118 billion in extra fees this year
https://www.fastcompany.com/90981005/airlines-fees-118-billion-dark-patterns
2023年10月に公開された調査結果では、航空業界全体で付帯サービスの売上が過去最高の1179億ドル(約17兆4000億円)に達し、新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前の2019年と比べて7.7%増加したことが示されました。
しかし、航空業界は航空券だけではなく有料オプションを客に購入させるため、オンラインで航空券を購入するための航空券販売フォームにダークパターンを多用する傾向があるとのこと。
2022年にアメリカの運輸省は「航空会社のウェブサイトやソーシャルメディア、電子メール、テキストメッセージにおける誤解を招く不正確な広告」について消費者から113件の苦情があったことを明らかにしており、2024年3月に「航空会社の付帯サービス料金の透明性強化」に関する規則が発表される予定です。
ダークパターンという概念を提唱した認知心理学者のハリー・ブリヌル氏は、航空会社が実際に航空券のオンライン販売で用いている手口を紹介しています。
・ミスディレクション
「ミスディレクション」とは、目を引くデザイン要素を配置することで、他の何かから注意をそらすこと。例えば、より高い航空券についての情報は太字で目立つような場所に表示されるのに対して、より安い航空券についてはウェブサイトの背景に溶け込むほど小さく見にくい文字で表示されるという手口はこの典型です。
・ナギング
ポップアップやメールなどの形で、消費者がすでに決断した選択を考え直すように促すことを「ナギング」と呼びます。例えばデルタ航空のウェブサイトでは、エコノミークラスの航空券を選択すると、エコノミークラスの制限条項がポップアップウィンドウで表示され、この条項を受け入れるか航空券を選び直すかが警告されます。また、サウスウエスト航空では、航空券購入時にレンタカー予約のオプションをオフにすると、「レンタカーの予約はお済みですか」というメールが送られてくるそうです。
・緊急性をあおる
ウェブサイトで航空券を選んでいる時に、希望する運賃の座席が少ないことを警告するメッセージを表示するという方法もあります。例えば、イージージェットのウェブサイトでは、「この航空券は54分前に予約されました」と他の人が最後に購入した時間を表示する仕組みを取り入れていますが、これは時間に追われているような状況にストレスを与えます。また、この方法は、単に時間に追われている人だけではなく、第2言語に英語を使っている人のように、目の前に表示された情報の処理に手間取ってしまう人にもストレスを与えるとブリヌル氏は指摘しています。
・価格比較の防止
スピリット航空やフロンティア航空などのウェブサイトでは、航空券によって運賃や手数料がどのように違うのかを示さず、サービスやオプションの詳細を比較できないようになっているとのこと。さらに、「空港で手荷物の手続きをするよりもオンラインで手続きをした方が安い」とアピールしながら、具体的な料金の違いも明示されないそうです。
・追加購入
航空会社は航空券だけではなく、ホテルやレンタカー、旅行保険なども提供していますが、オンライン販売ではそのサービス内容を検討するのに十分な情報が開示されていません。特に旅行保険はその契約内容は非常に複雑であることから、その内容がすぐに確認できないのは問題です。旅行保険を専門に扱うFaye Travel Insuranceのエラド・シャファーCEOは「航空会社経由で購入する保険は一般的に補償内容に大きな制限があり、契約者は事態が悪化してから初めて気付くことになります」とコメントしています。
例えば、ユナイテッド航空は「Travel Guardの旅行保険プランで旅行をカバーしましょう」と呼びかけ、旅行保険を提供しています。しかし、旅行保険といいながらもその補償範囲は航空券代のみで、ホテルやレンタカーは補償されません。また、バゲージロストといったフライト関連の問題も補償範囲外となっています。
航空会社や旅行会社向けのコンサルタント会社であるIdeaWorksの代表を務めるジェイ・ソレンセン氏は、「航空券の価格はずっと下がり続けており、有料オプションによる収入によって航空会社は財政を安定させています」と述べ、今日の航空会社にとって有料オプションの売上がいかに重要かを強調しています。一方で、「オンラインでの航空券販売は素晴らしいトランザクションです。しかし、旅行に関するある種の驚きを生み出すという点で、航空会社は完全に失敗しています。航空会社が有料オプションの販売に注力するにつれて、空の旅の魔法が失われつつあります」とコメントしました。
・関連記事
なぜウェブデザイナーは暗黒面に落ちて人をだます「ダークパターン」を使うようになるのか? - GIGAZINE
航空会社の利益の多くが手荷物などの「追加料金」から生みだされ、利用客の不満が拡大していることが判明 - GIGAZINE
航空券の価格を「誰がチケットを欲しているか」から決める仕組みが開発中 - GIGAZINE
最安値の航空券を探すのは時間の無駄であるとの指摘 - GIGAZINE
4600万円もの旅行保険金を詐取した女性が逮捕、一体どんな手口だったのか? - GIGAZINE
・関連コンテンツ