航空券の価格を「誰がチケットを欲しているか」から決める仕組みが開発中
by Suhyeon Choi
航空券の価格を「検索条件」だけで決めるのではなく、「誰が検索しているのか」を考慮して表示するという方法が開発されています。「チケットを値上げしても購入するとみられる人には高い価格で表示する」ということも理論的には考えられるこのシステムがどのように運用されるのか、Travel Weeklyが伝えています。
Airlines inching closer to dynamic pricing: Travel Weekly
http://www.travelweekly.com/Travel-News/Airline-News/Airlines-inching-closer-to-dynamic-pricing
ルフトハンザやエミレーツといった大手航空会社を顧客を持ち、収益管理ソフトを開発・販売する「PROS」によると、いくつかの航空会社は航空券の価格決定にダイナミックプライシングという手法を取り入れているとのこと。
ダイナミックプライシングで航空券の価格を決めるという方法は、概念自体はシンプルで、「航空会社が航空券を探している人を識別し、航空履歴を調査して価格を決める」というもの。技術的なことを言えば、AmazonはログインにCookieを使うことでログアウト後のユーザーの行動を追跡でき、またテクノロジー企業の中にはログイン情報なしで複数端末にまたがるユーザーを識別できるツールを提供していることからも、航空会社がユーザーを認識することは可能です。またユーザーがOTAや航空会社のアカウントにログインしていれば誰がチケットを求めているのかの識別はより簡単になります。そして、このような情報でユーザーのチケット購入履歴を把握した後に、航空会社側はユーザーの履歴に合わせた、同じ需要の他のユーザーとは異なる価格を提示します。
by Ashim D’Silva
ただし、需要の変動によって航空券の価格が変わるという状態は、透明性に欠けるという指摘が専門家から行われています。テクノロジーの多くはディスカウントのために使われるといわれていますが、理論的には「新規顧客には安い価格でチケットを提示する」「チケットを値上げしても購入するとみられる人には高い価格で表示する」といった使い方も考えられるとのこと。また、マサチューセッツ工科大学の航空産業プログラム代表であるPeter Belobaba氏によると、「週の真ん中にニューヨークからシカゴまで、1泊」という検索から、プラットフォームが「ビジネスでの利用者だ」と判断し、ビジネス旅行者にあった料金のチケットを提示することも考えられるそうです。
ダイナミックプライシングの導入すると、「追加料金を支払えばより快適になる」ということをより多くの旅行者に示すことができ、航海会社はより高いコンバージョン率と収益増加を望めるとのこと。
一方、航空会社がダイナミックプライシングを導入するのはシステム的に非常に難しいといわれています。1978年に航空路規制撤廃法が撤廃された時から、航空券の販売は、運賃データ配信や関係格好政府の運賃認可申請業務を行うATPCOを通して行われるようになりました。この販売システムでは、最大26段階のクラス・価格しか設定できないようになっており、通常、航空会社はそれぞれのクラスに合わせた価格をチケットに割り振っていき、その後、横断的販売網に渡すためこれらのデータをATPCOへと登録します。航空会社は、国内線であればについてそれぞれのクラスの価格を1日4回までアップデート可能で、国際線であれは1時間ごとにアップデート可能。しかし、実際には多くの航空会社が価格を1度設定したら数週間はそのままで、任意の時点で「クラスを変更する」ことで価格を変えています。
by STIL
このような価格決めの方法からダイナミックプライシングに移行するには、販売システムを変えるか、あるいはハイブリッドの解決法が必要になるとのこと。
ここでいうハイブリッドなシステムとは、ATPCOへのファイリングは行いつつも収益管理プログラムによってユーザーにあわせた価格を提示するというもの。そのためにはGDSやOTAの検索エンジンと、航空会社自身の価格エンジンとを通信させるインターフェースが必要になるといわれています。そして、ATPCOのヴァイスプレジデントであるTom Gregorson氏によると、既にこのようなインターフェース開発の試験的プロジェクトはスタートしているとのことですが、まだ実現には至っていません。
一方で、ATPCOへのファイリングを全く行わない方法も考えられます。この時のチケットの価格は「購入者は誰か」ということに基づいて、検索の性質とチケットの需要、チケットが入手可能かといった情報に基づいてゼロからリアルタイムで生成されます。PROSによると、リアルタイムでダイナミックプライシングのチケットを自社サイトに提示するという方法は、既に11社が行っているとのこと。この時、価格はゼロから生成されるもののほかに、一般公開価格を調整する方法を取っているところもあるそうです。そして、ダイナミックプライシングは非常に慎重に行われ、「団体旅行」と「格安航空会社と張り合う場面」のみに集中して用いられたとのこと。結果的にコンバージョン率は50%まで上がり、収益増加にもつながったとPROSのプロダクトマネージメント代表であるJohn McBride氏は語りました。
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