IoT標準規格「Matter」の次世代通信プロトコル「Thread」は何がすごいのか?
モノのインターネット(IoT:Internet of Things)の標準規格であるMatterは、AmazonやApple、Googleらが参加する標準団体「Connectivity Standards Alliance(CSA)」によって2022年10月に正式リリースされました。このMatterの通信方式の1つ「Thread」について、IT系ニュースサイトのThe VergeがThreadの開発団体であるThread Groupの取締役3人にインタビューした上で解説しています。
What is Thread and how will it help your smart home? - The Verge
https://www.theverge.com/23165855/thread-smart-home-protocol-matter-apple-google-interview
◆Threadとは?
ThreadはIoT技術向けの低電力・低帯域幅メッシュネットワーキングプロトコルで、Thread Groupによって開発されています。Thread Groupは2014年7月に設立されたアライアンスで、Google傘下のNest LabsやApple、Amazon、Armホールディングス、Samsung、Qualcomm、NXPセミコンダクターズなどが参加しています。
最初の規格仕様となるThread1.0は、Thread Group設立の1年後である2015年にリリースされました。ベースはIEEE802.15.4で、ノイズに強く消費電力が低く、大規模ネットワークに対応しているというのも特徴です。
Threadはモーションセンサーや一酸化炭素検出器、ガス漏れ検知器など、「基本的に非アクティブな状態が続くが、必要な時に確実に動作する必要があるもの」に向いています。反対に、監視カメラのように高帯域幅を必要とするようなデバイスには向いていないとのこと。
◆Threadが既存のIoT用通信プロトコルよりも優れている点とは?
Threadはハブやブリッジが必要なく、Thread対応デバイス同士が相互に直接通信できるというのがポイント。また、Threadはインターネットプロコトル(IPv6)ベースのプロトコルです。つまり、スマートフォンやタブレット、コンピューター、Wi-Fiルーターなど、他のIPベースのデバイスに直接接続できます。Threadは信頼性の高いメッシュ機能を提供するため、1箇所にエラーが起こるとネットワーク全体に障害が発生するような単一障害点が起こり得ないというのも大きな特徴です。
以下はThreadのメッシュネットワークを表わした図で、左上の雲型アイコンが外部のネットワークです。五角形は「Threadルーター」で、電球やスマートプラグなど、外部電源に接続されたデバイスです。円は「エンドデバイス」で、モーションセンサーやドアロックなど、バッテリー駆動のデバイスです。Threadルーター同士、あるいはThreadルーターとエンドデバイスがメッシュ(網)状のThreadネットワークを形成しています。そして、インターネットにつながっている正方形が「ボーダールーター」で、外部のネットワークとThreadネットワークを接続する役割を果たします。Threadネットワークは64台のルーターを含む250台以上のデバイスをサポート可能です。
Threadは「低遅延をサポートするIoT向け低電力通信プロトコル」として設計されています。IoT向けの通信プロトコルとしては、ほかにBluetooth Low Energy(BLE)、ZigBeeやZ-Waveが存在しますが、いずれも消費電力が少なくなるように設計されています。
Threadのテクノロジー担当ヴァイスプレジデントで、Googleの主席ソフトウェアエンジニアであるジョナサン・フイ氏は、「例えば、BLEは『本来は有線接続するものを低電力で無線接続するためのプロトコル』として設計されたのに対して、Threadは『長時間スリープして、復帰した際に1つのパケットを送信し、その後再びスリープに戻ってバッテリーをできるだけ長く維持したいデバイス向けのプロトコル』として設計されました」と述べています。
IoTデバイスの中にはバッテリー駆動のものもあり、そういったデバイスは常にアクティブな状態ではなく、スリープ時から復帰した時にデータを送受信することがあります。Thread対応のデバイスは、スリープから復帰したタイミングでデータの送受信を行い、その直後に再びスリープ状態に戻るように設計されています。こうなることで、デバイス内蔵のバッテリー消費を極力抑えることができるというわけです。
また、Threadの直接通信機能と250台以上のデバイスをサポートできる大規模ネットワークを構成できるという点によって、遅延が軽減されます。Silicon Labsが行ったテストでは、BLEやZigBeeよりもはるかに遅延が少なかったことが示されました。
フイ氏によると、Threadのメッシュネットワークを形成することで、Thread対応デバイスは他のデバイスへの最適なルートを探し出し、消費電力と遅延の削減を実現しているとのこと。さらに複数のThreadルーターがネットワーク内にあれば、1つのルーターがオフラインになっても他のルーターがその役割を補うので、ネットワーク全体がダウンすることはありません。
下位互換性については、Thread Groupのマーケティング担当ヴァイスプレジデントであり、Googleのマーケティングディレクターでもあるスジャータ・ネイディグ氏は「技術的には、ZigbeeはThreadと同じくIEEE802.15.4で動作します。したがってZigbee製品はThreadにアップグレードできる可能性があります。しかし、ThreadはIPベースのプロトコルなので、メモリなどの異なるリソース要件があります。製品が適切なリソース構造で構築されていない場合はアップグレードできません」と述べています。
例えば、スマート電球のメーカーで知られるPhilips HueはすでにMatterをサポートしていますが、既存のZigBee対応電球をThread対応に置き換える予定はないと述べています。
◆Threadはハブやブリッジを必要としないのか?
Threadネットワークをインターネットなどの外部ネットワークに接続するためには、ボーダールーターが必要になります。しかし、対応デバイスを複数つなげるために、異なるブリッジを用意する必要はありません。Threadに対応していれば、どのIoTデバイスでもメーカーに関係なく、Threadのボーダールーターに接続できます。また、Threadの通信はすべて暗号化されているので、ボーダールーターからルーティングしたトラフィックをのぞき見ることはできません。
使用するThread対応デバイスが相互に通信するためにボーダールーターは必要というわけではありませんが、インターネットと接続する場合はボーダールーターが必要。例えば、家の照明や空調を屋外にあるスマートフォンから操作するためには、ボーダールーターを使ってThreadネットワークを外部ネットワークに接続しなければならないというわけです。
◆Threadにはなぜ多くのバージョンが存在するのか?
Threadは異なるメーカーのIoTデバイスを1つのメッシュネットワークにまとめるためのプロトコル標準の1つです。しかし、実際はMatter over Thread、HomeKit over Thread、Google / Weave over Thread、Open Threadといったさまざまなバージョンが存在します。フイ氏によれば、これらはすべて同じThreadなのですが、Thread上で実行されるアプリケーションが異なるとのこと。
以前はアプリが異なるとThreadネットワークの認証情報を共有できず、互換性に問題があったとのこと。しかし、記事作成時点で最新バージョンとなるThread 1.3.0では、AppleとGoogleが発表したAPIと組み合わせることで、異なるアプリ間でもThreadの資格情報を共有することが可能になりました。
つまり、Thread 1.3.0では、Apple HomePod MiniやGoogle Nest Hubなど異なるメーカーの製品であっても、1つのネットワーク内でボーダールーターとして機能するというわけです。
ホイ氏は「何年もの間、消費者向けスマートホームの企業は、デバイスがどのプラットフォームで動作するかという接続性で差別化しようとしていました。しかし、消費者が気にするのはそこではなく、クールで楽しい機能です。すべての接続技術を標準化すれば、信頼性や電力にまつわる難問を解決することができます。そうすれば、製品メーカーは消費者が本当に気にする『新しくてエキサイティングな機能』に注力できます」と述べています。
Thread Groupの社長でAppleのソフトウェアエンジニアリングディレクターであるヴィヴィド・シッダ氏は「今のスマートホームは、インターネットの黎明期のようなものです。レガシーなテクノロジーが、すべてを機能させるために統合されておらず、複数のブリッジやデバイスが必要となります。IPベースのThreadはネットワークへのシームレスなアクセスを可能にし、本質的にホームオートメーションを完全なものにします」とコメントしました。
・関連記事
Google・Apple・Amazonらが参加するIoT標準団体が組織改編、スマートホームの新規格「Matter」を発表 - GIGAZINE
IoT用の新規格「Matter1.0」が始動しネット接続がダウンした状態での利用などが実現、Googleは早速Matterサポートを含む新製品を発表 - GIGAZINE
Amazon Echoがついにスマートホーム用標準規格「Matter」対応へ - GIGAZINE
スマートロックとデジタルキーのオープン標準「Aliro」構築へApple・Google・Samsung・Qualcommが提携 - GIGAZINE
スマートホーム規格「Matter」がバージョン1.2にアップデート、冷蔵庫やロボット掃除機などをサポート - GIGAZINE
Amazonが次世代無線規格「Wi-Fi 7」に対応したメッシュWi-Fiルーター「eero Max 7」を発表 - GIGAZINE
Amazon Echoがついにスマートホーム用標準規格「Matter」対応へ - GIGAZINE
・関連コンテンツ