サイエンス

AppleがApple Watch Series 9の発表の際に主張した「カーボンニュートラル」は不正確で誤解を招きかねないとの指摘


Appleが2023年9月13日に発表した「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」は、カーボンフットプリントを大幅に削減したとのこと。そのため、これらの製品の化粧箱にはカーボンニュートラルであることを示すロゴが印字されています。しかし、ヨーロッパ消費者機構(BEUC)は「カーボンニュートラルの主張は科学的に不正確で、消費者に誤解を与える」と指摘しています。

Apple’s ‘carbon neutral’ claims come under scrutiny
https://www.ft.com/content/90392004-97e0-4444-a5cd-82220fe52510


EU: Apple's carbon-neutral Watch claims are 'inaccurate' and need to stop | Macworld
https://www.macworld.com/article/2114786/apple-watch-series-9-ultra-carbon-neutral-european-union.html

Apple Goes a Step Too Far in Claiming a Carbon Neutral Product, a New Report Concludes - Inside Climate News
https://insideclimatenews.org/news/03102023/apple-claim-carbon-neutral-watch-draws-skepticism/

2023年9月13日にAppleが発表したApple Watch Series 9では、100%再生アルミニウムや100%再生コバルトなどを用いたことで、カーボンフットプリントが78%削減されていることや、Apple製品初のカーボンフットプリントのネットゼロを達成していることが紹介されています。また、同時に発表されたApple Watch Ultra 2でも、本体とバンドの組み合わせ次第でカーボンフットプリントが最大81%削減できることが報告されています。


しかし、たとえケースやバッテリーにリサイクル素材を用いて、燃料効率の良い手段での輸送を行ったとしても、二酸化炭素の排出はどうしても避けられません。実際にApple Watch Series 9でも、78%という大幅なカーボンフットプリントの削減に成功したとはいえ、22%は二酸化炭素を排出しています。

そこでAppleはカーボンニュートラル達成のために、「カーボンクレジット」で残りの22%を賄っています。カーボンクレジットとは、二酸化炭素を吸収させる自然保護や自然再生プロジェクトへの投資の結果生み出されたクレジットのことで、二酸化炭素を排出する権利を企業や政府同士で売買することも可能です。

Appleはこれまで、「Forestal Apepu」と呼ばれるパラグアイでの植林活動などを行っており、これらのプロジェクトで得られたカーボンクレジットをApple製品のカーボンニュートラル達成のために充当しています。

AppleはApple Watch Series 9について「自然ベースのプロジェクトから得られた高品質のカーボンクレジットを使用しています」と述べていますが、一方で海外メディアのFinancial Timesは「Appleのカーボンクレジットが大気中の二酸化炭素の量に影響を与えるほど高品質ではない」と指摘。実際に、Forestal Apepuで植林された木の一部は伐採され、木材として販売されたことが明かされています。


イギリスの広告基準局(ASA)によると、多くの消費者が「カーボンニュートラル」について「二酸化炭素の排出量をゼロまで減らす」と受け止めているとのこと。そのためASAは、「カーボンニュートラルを達成した」という主張を打ち出す際には、企業に対して特に注意するよう警告しています。

ASAの広報担当者は「新たに二酸化炭素が排出されているにもかかわらず、カーボンクレジットを用いることで実質的に排出量がゼロになっていると分かると、消費者はだまされたように感じるはずです」と述べています。BEUCのモニーク・ゴイエンス氏も同様に「カーボンニュートラルの主張は科学的に不正確で、消費者に誤解を与えます」と述べています。

さらに、中国の非営利団体である公共環境問題研究所(IPE)はAppleについて「気候変動への取り組みを誇張している可能性があります」と(PDFファイル)指摘しています。


IPEの分析では、「Apple製品の製造を担当するサプライヤーは、再生可能エネルギーを用いて製造を行っているのではなく、再生可能エネルギーが持つ環境に対する価値を証書化して取引できる『グリーン電力証書』を購入している」と報告されています。

また、Appleは温室効果ガスの排出量データの公開を渋っているとIPEは指摘しており、IPEのディレクターであるマー・ジュン氏は「温室効果ガスの排出量データをIPEに開示したAppleのサプライヤーの数は、2022年は約100件でしたが、2023年は30未満のサプライヤーにとどまっています」と述べています。一方でAppleは「気候変動との闘いの進展を促進するために、Appleは排出量データに関する透明性を向上させ、データの開示を積極的に行っています」と反論しています。

またAppleは「サプライヤーに対しては、(PDFファイル)サプライヤー行動規範に基づいて、Apple関連の温室効果ガス排出量を毎年Appleに報告し、地方自治体や国の当局に排出量を報告する法律や規制を順守するよう、義務付けています」と述べています。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1r_ut

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