マンガをパブリックドメインにした作家が作品の権利を手放した理由を語る
by Chris
「Elementals」シリーズや「Fables」シリーズなどのアメリカンコミックを手掛けるアーティストとして知られるビル・ウィリンガム氏は、2023年9月15日に「Fables」のスピンオフやキャラクターなども含む全てをパブリックドメインにしたことを発表しました。なぜ作品の権利を手放して誰でも自由に使えるようにしたのかという理由を、ウィリンガム氏は自身のブログで語っています。
Willingham Sends Fables Into the Public Domain
https://billwillingham.substack.com/p/willingham-sends-fables-into-the
More About Fables in the Public Domain - by Bill Willingham
https://billwillingham.substack.com/p/more-about-fables-in-the-public-domain
ウィリンガム氏は「Fables」の権利について、「私はこれまでと同様に、今でも『Fables』を100%所有しています。しかし今では、年齢や性別を問わない世界中の全ての人々が、私と同じく『Fables』を100%所有していることになります」と説明しています。ウィリンガム氏は作品がパブリックドメインである状態を「a secular miracle of the loaves and the fishes(キリストが5000人を満腹にさせたという逸話『パンと魚の奇跡』の世俗版)」と表現しており、「誰もが『Fables』を使って何をしたいのかを自分で決めることができます。何人が参加しても、全員に十分な量があります」と述べています。
by sdobie
人気があって継続的な利益も生んでいる「Fables」シリーズをなぜ手放してパブリックドメインにしたのかという理由について、ウィリンガム氏は大きく分けて3点を挙げています。
まず、過去10年ほどでアメリカないし世界的に商標法や著作権法についての考えや法制度自体が大きな変化をしており、それに対するウィリンガム氏の考えも根本的な変化を遂げたことに由来しています。ウィリンガム氏は「現在の法律は、商標と著作権を大企業の手に保ち続けるため、非倫理的な裏取引を寄せ集めたものです」と指摘した上で、「私が考える抜本的改革は、知的財産(IP)は最初の公開時から最長20年だけ作成者に所有され、その後はパブリックドメインとなることです。20年の間に一度だけIPを個人または法人に売却でき、そのIPは10年間独占した後にパブリックドメインになります。したがって、IPは最長で約30年間独占的に使用でき、それ以降は共有財産となるという形です」と提案しています。
ウィリンガム氏は自身のアイデアを「過激な考え」と認めており、だからこそまず自分が実践してみるべきという考えから、「Fables」をパブリックドメインにしました。
2点目に、「Fables」はもともとパブリックドメインにあるキャラクターとストーリーを使用して作成されているのだそうです。そのため、「Fables」をパブリックドメインにすることは、「物語が最終的に故郷に戻ってくるようなもの」とウィリンガム氏は語っています。ウィリンガム氏は自身の死と同時に作品のパブリックドメイン化を行うつもりだったところ、特定のできごとによりその予定を前倒しにしたとのこと。
ウィリンガム氏が作品のパブリックドメイン化を前倒しにした理由となる「特定のできごと」が3点目の理由となります。「Fables」はDCコミックスから出版されていました。最初にDCコミックスと出版契約を結んだ際には、「会社は誠実な人物によって運営されており、その契約の詳細を公平かつ公正に解釈していました」とウィリンガム氏は述べています。しかし、20年ほどの間に会社の人々は入れ替わり、「今やDCコミックスとそのオーナー企業は、私たちのあらゆる側面を、自分にとって利益になるだけの方法で解釈することを選択しています」と語り、ウィリンガム氏は「『Fables』は悪人の手に落ちていました」と表現しています。
具体的には、DCコミックスはウィリンガム氏に対し、新しいストーリーの展開や新規カバーイラストの追加、新しいコレクションのフォーマットなどについてウィリンガム氏の確認を通さずに進めたり、ロイヤリティを過小報告したりした上で、問い合わせても毎回「見過ごしてしまった」と回答するばかりで改善の余地がなかったそうです。そして極めつけは、「Fables」の20周年記念で再リリースする計画の際に、ウィリンガム氏から作品の所有権を強奪することを契約条件に含んでいた点にありました。
契約違反や権利侵害についてDCコミックスに訴訟を起こす場合、非常に多額の裁判費用がかかってしまいます。そこでウィリンガム氏が採用したのは、「作品の唯一の所有者である」という身分を利用して、「『Fables』をDCコミックスの独占的権利から離し、全ての人々にプレゼントする」という形でした。結果として、DCコミックスは依然として「Fables」の出版権を所有しており、契約上は出版した本のロイヤリティをウィリンガム氏に支払う必要がありますが、同時に世界中の人が「Fables」を変更、出版する権利を有しており、契約や支払いなどは不要で作品を利用することができます。
ウィリンガム氏は最後に、「過去20年間、『Fables』の物語をみなさんにお届けできたことは、私の最大の喜びでした。これからは、『Fables』を使ってみなさんが何をするのか、楽しみです」と述べています。
・関連記事
人気作家の翻訳小説に出版社が「スープの広告」を勝手に挿入していたという事例 - GIGAZINE
少女性愛を描いた「ロリータ」の出版時に起きた「わいせつ」としての規制と「優れた文学」として出版を進める闘争とは? - GIGAZINE
マンガが英語版に翻訳される方法の変化に「日本のマンガそのものを楽しみたい」というアメリカのマンガファンの熱意が詰まっている - GIGAZINE
「発禁本」や「図書館での取扱を禁止する本」が2倍に増加、一体どうして発禁指定されるのか? - GIGAZINE
「キャラの体重や民族性の表現を許可無く修正した」として子ども向け人気シリーズ小説の作家が出版社を非難 - GIGAZINE
・関連コンテンツ