心理学の教科書にも載っている「古い脳構造の上に新しい脳構造が追加された」という考えは間違いだと心理学者が指摘
脳はいくつかの部位に分類されますが、自律神経活動に関与している大脳辺縁系を「古い脳」と捉え、知覚や知性に関与する大脳新皮質を「新しい脳」と捉える見方があります。これについては「新しい脳が古い脳構造の上に追加されるように進化してきた」という考え方があるのですが、ミシガン州立大学心理学部のジョセフ・セザリオ氏は「誤りである」と指摘し、その理由について解説しています。
Your Brain Is Not an Onion With a Tiny Reptile Inside - Joseph Cesario, David J. Johnson, Heather L. Eisthen, 2020
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0963721420917687
思考や言語をつかさどる大脳新皮質は、いわゆる「高等生物」ほど大きい傾向にあり、人間ではチンパンジーの約3倍もの大きさがあります。
セザリオ氏いわく、心理学の分野においては、「サメのような原始的な動物では、それほど複雑ではない脳が基本的な生存機能を制御している。齧歯(げっし)類のような下等ほ乳類では、より複雑な脳が感情や記憶の制御を可能にする。ヒトのような高度な哺乳類では、より多くの情報を処理する脳がある。脳の複雑化は、まるで地層のように、古いものの上に新しい脳が構築されることによって生じる」との考えが教科書にも掲載されているほど広く知られているそうです。
by Bill Benzon
こうした説は「三位一体脳説」としても知られており、人間の脳には本能をつかさどる「爬虫(はちゅう)類的脳」と、感情をつかさどる「哺乳類的脳」、人間特有の論理的・倫理的思考をつかさどる「人間的脳」の三層に分かれていると主張されます。
三位一体脳説の提唱者であるポール・マクレーン氏は1964年に発表した論文の中で「爬虫類や下等哺乳類から受け継がれるように脳が発達していった」と述べていますが、この説は脳科学技術が十分に発達していなかった時代に提唱されたものであり、現代では基本的に否定されています。
人間の脳が3層に分かれているという「三位一体脳説」はなぜ長い間信じられていたのか - GIGAZINE
マクレーン氏は以下の画像を紹介し、上記説の問題点について解説しています。画像に示されたaおよびbが、人類の進化に関する誤った見解です。「古い脳構造の上に新しい脳が追加された」と書くと少し難しく感じられますが、画像のように「一本道をたどるように進化してきた」と言えば想像しやすくなります。こうした一本道の進化は現代の進化生物学では完全に否定されており、生物は木の枝のように広く分岐して進化したとするcやdの説が常識とされています。
マクレーン氏は「心理学者はaの見方が正しくないことは理解していますが、神経構造を示したbの見方はいまだに広く支持されています」と指摘し、心理学者に誤った見方を捨てるよう呼びかけました。
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