サイエンス

自分で歯を抜いてはいけない理由とは?


歯科医院が休診中の夜間に歯が痛くなった時など、さまざまな要因で歯科医院を受診できないことがあります。しかし、そのような状況でも歯科医に頼らず自分で治療をすべきでないとランカスター大学臨床解剖学学習センターのアダム・テイラー教授が警鐘を鳴らしています。

You might be struggling to find a dentist, but self-dentistry is a very bad idea
https://theconversation.com/you-might-be-struggling-to-find-a-dentist-but-self-dentistry-is-a-very-bad-idea-234836


テイラー教授によると、イギリスでは貧困層の拡大によって歯科治療を受診できない層が増加傾向にあるとのこと。

また、「歯科砂漠」とも呼ばれる歯科医院が数少ない地域を訪問して診断を行う「NHS歯科」も予算削減のあおりを受け、衰退傾向にあることが指摘されています。

さらに、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、多くの人が気軽に歯科医院を受診することができなくなりました。こうした経緯から歯科医に頼らず自身の手で歯の治療を行う患者が増加しているそうです。


2023年3月に実施された調査では、回答者の約10%が「自分で歯の治療を行ったことがある」と報告しており、その中には「セメントと瞬間接着剤を使用して詰め物や入れ歯を固定したことがある」「尿を飲んで虫歯菌を殺そうとしたことがある」「欠けた歯を加熱ポリビーズで補おうとしたことがある」「屋外の修理などに使われる接着剤を詰め物の代用として使用したことがある」などの対処法も含まれていました。

また、2022年の論文では、「ダーツの矢を使用して歯石を取り除こうとした」「麻酔薬としてウォッカを飲み、ペンチを使用して13本もの歯を抜こうとした」事例も報告されています。

こうした自身での歯科治療に対してテイラー教授は「自宅での歯科治療は非衛生的です。一方で歯科医院の設備は使用する度に滅菌処理しているほか、微生物が表面に生息しにくくなっています」と指摘しました。

さらにテイラー教授によると、自身で歯を抜くことは、口と上顎洞の間に異常な大穴を開ける可能性があるとのこと。このような穴は「口腔幽門瘻(こうくうゆうもんろう)」と呼ばれ、2mm未満の場合自然治癒しますが、大きな穴は感染症へのリスクを高めます。


また、虫歯が歯と骨の境界面にまで進行している場合、歯を抜くだけでは治癒しない可能性があります。それどころか、さらなる激痛や二次感染へのリスクが高まる可能性が指摘されています。

加えて、技術のない一般人が歯を抜こうとすると、抜歯中に歯の根が折れてしまう危険性があるほか、最悪の場合大規模な手術が必要となる可能性もあるとのこと。

自身での抜歯は歯並びを変えてしまったり、食事が苦痛になったり、ほかの健康な歯に悪影響を及ぼしたり、口の軟部組織を損傷したりといったリスクもあります。

テイラー教授によると、TikTokなどの影響を受けて爪やすりを使って歯をなめらかにしようとするケースもあるとのこと。テイラー教授は「歯の硬いエナメル質を削り取ってしまい、感染症や虫歯、歯の死へのリスクを高めるため、非常に危険です」と批判しました。

さらに、歯茎や消化管に重症を負う可能性のある「過酸化水素を使用した歯のホワイトニング」も横行しているとのこと。テイラー教授は「手っ取り早い治療やライフハックは、後々専門医による治療が必要になるケースが多く、長期的に見るとより多くの費用がかかります」と指摘しています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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