創作には「設定や展開を積み上げる」のではなく「否定と破壊のプロセス」が重要だというアドバイス
創作をする際には、設定や物語の展開、キャラクターやデザインなど、アイデアを積み上げて検討したりいくつかのパターンを想定したりします。その上で「決定を下す」能力が重要になってきますが、それ以上に自分のアイデアを否定しながら消去法で決定していく「破壊による決定」を重要視すべきだと、クリエイティブ・ライティングの教授で作家でもあるステファニー・ビショップ氏が語っています。
In Praise of Destruction: How Embracing Elimination Can Make Our Writing Better ‹ Literary Hub
https://lithub.com/in-praise-of-destruction-how-embracing-elimination-can-make-our-writing-better/
ビショップ氏ははじめに、「『あとは決定を下すだけだ』と絶対の確信を持って言う作家たちを警戒しています」と述べています。作品を書こうとしているとき、その作品は「何について書いてあるのか、どこへ向かうのか分からない作品」であり、独自の意識を持っているように思えるものでもあります。作家の仕事とは、その不透明なものを推理して知っていくことであり、作家が自分の企画を「私の本」と呼ぶことさえビショップ氏は懸念しています。
進行中の作品のさまざまな要素について、「これはこれ」「ここはこう」と選択の積み重ねによって進めていくのは「初めて小説を書く人の傾向」とビショップ氏は指摘しています。ビショップ氏はこの姿勢を「オブジェクトの所有権を主張している」と表現しており、ビショップ氏自身は全く逆の方向で作業していると述べています。
ビショップ氏は新型コロナウイルスの流行に伴うロックダウンの時期に、2人の子どもが自宅学習をするのを管理しながら大学の講義を行い、同時に作品の制作を行っていたそうです。その際に、自宅で全ての作業をするために古いコンピューターの空き容量を確保しようとした結果、大学用の不要なデータと間違えて自身の作品の初期プロジェクトを削除してしまったとのこと。習慣的にバックアップをしていたにもかかわらず、なぜか失われたファイルについてはバックアップも見つからず、大きくショックを受けたとビショップ氏は話しています。
この経験をした時、ビショップ氏は自身の執筆のプロセスについてはっきりと自覚したそうです。
前向きな決定を積み重ねていくプロセスの場合、一度制作した作品が失われても、ある程度頭の中で展開できた作品について同じように決定をしていくことで、設定やシーンを再構成していくことができます。しかしビショップ氏の場合、決定を積み重ねていくプロセスを「単なる部分の合計になり、停滞した文章のように感じてしまう」と考えていたことから、削除と消去法を繰り返す「脱創造のプロセス」を採用していたそうです。そのため、最初から作品を作り直すということが非常に困難になっていました。
ビショップ氏は創作に重要な「脱創造のプロセス」について、「(最初のアイデアの)反対を選んでみること」「(最初のアイデアから)離れて書くこと」「削除すること」「消去法で書くこと」「自身の反対の意見を書くこと」「知らないことについて書くこと」「知りたいことに向かって書くこと」「理解できないことについて取り組むこと」などを直観的な方法として挙げています。
続けて、もう1つの重要な「脱創造のプロセス」のポイントについて、その創作プロジェクトが「何であるか」以上に「何ではないか」に注目するべきとしています。自分の作品は何になれないか、どのようなものにはなりたくないか、かかわることを本能が拒否している事項は何か、という自分の感覚を知ることによって、「プロジェクトのパラメーターを設定することができる」とビショップ氏は述べています。
総合して、創作のプロセスは「探偵作業」だとビショップ氏は表現しています。創作を行う際には、考えを結集させ、演繹的に消去法を行うことで、余分なものを排除してできるだけ本質に近いものを見つけていきます。そのためには、内部で発見が起こりうる未知の状態を最大限に安定化するフレームワークの作成が必要になるため、暗い空間で手探りを続けるような作業が重要になります。
制作中の物語は、多くの部分が頭の中に存在するため、雑然とした乱雑なものとなっています。その乱雑さを整理することはかなり困難で、そこから決定していくプロセスには混乱を引き起こす原因がいくつも含まれており、一度決断した内容も日を改めると疑わしく感じてしまうことも起こります。そのような中で「決定を下す作者の力」というのは誤った考えであり、信念の下に徹底的な破壊と否定のプロセスを繰り返すことで、「やがて作品の長い真っすぐな未知が開いていきます」とビショップ氏は述べています。
・関連記事
「文章の書き方に迷う必要はない」というアドバイス - GIGAZINE
創作をしているときの不安な気持ちやネガティブな思考を乗り越える5つの方法とは? - GIGAZINE
優れた物語を生みたいなら「脚本を書いてみるべき」というアドバイス - GIGAZINE
物語を創作する際に詳細なプロットは作るべきなのか不要なのか? - GIGAZINE
キャラクターを描写する時に「衣装デザイナー」のように考える方法とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ