サイエンス

化学工場で発生した爆発事故は管理不足による「ポップコーンポリマー」発生が原因だったという指摘


2019年11月27日にアメリカ・テキサス州の化学工場で関係者や住民計8名が負傷、周辺住民に避難勧告が発令される爆発事故が2度にわたって発生しました。アメリカ化学物質安全性・有害性調査委員会(USCSB)がこの爆発事故の原因について解説しています。

The Danger of Popcorn Polymer: Incident at the TPC Group Chemical Plant - YouTube


テキサス州ポート・ネチズにある特殊化学品メーカー・TPCグループの化学工場で爆発事故が発生したのは2019年11月27日早朝のことでした。


事故当時、TPCグループはポート・ネチズの工場でブタジエンの製造を行っていました。爆発によって施設の損壊や近隣の住宅・オフィスへの被害が発生し、可燃性の高いブタジエンが放出されたため、工場から半径4マイル(約6.4km)以内の住民約6万人に対して避難勧告が出されました。


ブタジエンは非常に反応性の高い化学物質で、適切な管理が行われずにブタジエンと酸素が反応すると「ポップコーンポリマー」と呼ばれる固体の物質を形成する可能性があります。


このポップコーンポリマーが装置内に蓄積し、成長すると非常に高い圧力がかかり、配管の封じ込め機能が喪失し、最終的に装置が破裂、爆発する危険性があるとされています。


この化学工場でポップコーンポリマーが形成された経緯について、USCSBのシルヴィア・ジョンソン氏は「作業員が修理のためにブタジエン製造装置の一次ポンプを停止させ、予備のポンプを使用して操業を続けたことやメンテナンス体制が不十分だったことなどが原因だと考えられます」と指摘しています。


予備ポンプの中には「デッドレッグ」と呼ばれる流れのない部分が形成され、使用開始から114日間にわたってデッドレックでポップコーンポリマーが形成・蓄積されていきました。


その結果ブタジエン製造装置の配管が破裂し、約6000ガロン(約2万2000リットル)のブタジエンを主成分とする液体が排出されました。


排出された液体は大気中ですぐに気化し、可燃性のある気体へと変化しました。


配管の破裂から2分後、ブタジエンに引火し爆発が発生。圧力波によって施設の一部が破壊され、従業員2名と警備員1名が負傷しました。


その後、アメリカ化学物質安全性・有害性調査委員会は今回の事故についての調査を開始し、爆発事故につながった重要な安全上の問題を発見しました。この工場では、高純度ブタジエンの製造に関する作業手順が定められており、ポップコーンポリマーの形成を最小限に抑えることが目的とされていましたが、一次ポンプが長期間にわたって停止した場合の作業手順や措置は示されていませんでした。


今回の事故を受けてUSCSBはアメリカ化学工業協会に対してブタジエン製品管理ガイダンスマニュアルを改訂することを勧告しています。


USCSBが特定した2つ目の問題点は、「メンテナンス体制が不十分であった」ことです。2016年にUSCSBはTPCグループに対して、ポップコーンポリマーの蓄積リスクを低減するため、製造ラインを月2回洗浄することを勧告しています。しかし、TPCグループではこれらの勧告に従わず、ポップコーンポリマーの形成を効果的に制御、防止するための措置を講じなかったことが指摘されています。


USCSBのバッチ・グリフィン氏によると、TPCグループではポップコーンポリマーが蓄積し、装置に目詰まりが発生していることを知りながら、優先的な一次ポンプの修理やラインを停止させての洗浄、ポップコーンポリマー防止剤の投与など、抜本的な行動は行わず、発見された目詰まりを除去するなど場当たり的な対処を行ってきたとのこと。その結果未知のポップコーンポリマーの蓄積によって爆発が起こったとされています。


またUSCSBは「製造装置の配管内でポップコーンポリマーが確認された場合、製造を停止してただちに調査すべきだった」と述べ、TPCグループ内で適切な調査が行われていなかったことを指摘しています。USCSBは「調査方針が明確に定まってさえいれば、このような事故は回避できたはずです」と述べ、ブタジエン製品管理ガイダンスマニュアルの順守を求めています。


さらにUSCSBは、工場内に遠隔操作式の緊急隔離弁が存在しなかったことを指摘。もしも製造プロセス内に遠隔操作式の緊急隔離弁が装備されていた場合、蒸気の発生と爆発の規模を最小限に抑えることができたとのこと。また、USCSBは1度目の爆発によって引き起こされた2度目の爆発も、遠隔操作式の緊急隔離弁が装備されていた場合防ぐことが可能だった可能性があり、事故による損害を最小限に食い止めることができた可能性を指摘しています。


USCSBは「高純度のブタジエンを大量に取り扱い、保管する施設は、製造プロセス内のポップコーンポリマーの適切な管理を行い、TPCグループの化学工場で発生したような恐ろしい事故の再発を防ぐ必要があります」との注意喚起を行っています。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1r_ut

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