熱中症の治療に遺体袋が効果的
熱中症の症状が出た場合、応急処置としてすぐさま涼しい場所へ移動し体を冷やすことが効果的とされています。スタンフォード大学で救急医学分野の研修医として学んでいるデビッド・キム氏は、体を冷やす方法として最も効果的なのは「冷水浴」であると指摘し、冷水浴を効率的に行うために遺体袋を使用することを提案しました。
A body bag can save your life: a novel method of cold water immersion for heat stroke treatment - Kim - 2020 - Journal of the American College of Emergency Physicians Open - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1002/emp2.12007
冷水浴は熱中症患者の急速冷却手段として広く知られたものであり、霧状の水を吹きかけて患者を扇ぐなどの蒸発冷却や、扇風機などで冷却する対物流冷却では達成できない冷却速度をもたらすとされています。
しかし、救急医療の現場では物流上の制限から冷水浴を行うことが難しく、熱中症患者に対しては蒸発または対物流冷却が行われることが多いとのこと。こうした状況を改善する足がかりとなりうる、あるエピソードをキム氏は紹介しました。
ある日、非浸潤がんの既往歴がある87歳の女性が猛暑の中で倒れ、意識不明の状態で発見されました。救急隊が駆けつけたところ、女性の中核温は40度に達していることが分かり、搬送中に冷却パックによる身体の冷却が試みられました。
救急外来に到着後、救急隊は事前に用意していた遺体袋に女性を移し替え、氷と水道水を遺体袋に注入して冷却を開始。脇の高さまで水をいれて袋を首元まで閉じ、体温の経過を観察したとのこと。
この処置により、冷却開始後10分以内に患者の精神状態は正常化し、体温は38.4℃まで低下。その後の検査でもすべて正常であり、退院1週間後の経過観察では後遺症もなく元気であると患者本人から申告があったそうです。
キム氏らは「防水性の遺体袋はどの病院にも常備されており、持ち運びが可能で、既存の冷水浴槽の4分の1の価格で購入することができます」と指摘。救急医療の現場において遺体袋が効果的な役割を果たすのではないかと主張しています。
こうした事例を論文にまとめたキム氏らは「熱中症の高齢患者に対して遺体袋に冷水を浸すことで蘇生を行った例をここに報告します。我々の知る限り、これは熱中症の治療に遺体袋を使用した最初の報告です。熱中症患者に遭遇する可能性のある救急外来では、遺体袋と冷水浴プロセスをすぐに利用できるように準備することを提案します」と結論づけました。
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