アニメやマンガのキャラクターが「手袋」をはめがちなのはなぜなのか？

アニメやマンガを見ていると、寒さを防ぐためでもなく、汚れを避けるためでもないにもかかわらず、手袋を常にしているキャラクターを見かけることがあります。キャラクターが身に付ける手袋が持つ意図や理由について、オンラインメディアのVoxがムービーで解説しています。

Why cartoon characters wear gloves - YouTube


Voxはニューヨーク大学の教授でアニメーション史を研究するジョン・ケインメーカー氏に「『なぜアニメのキャラクターは手袋をしているのですか？』という質問はされたことがありますか」と尋ねています。

ケインメーカー氏はこれに対し、「キャラクターと手袋について質問されたことはほとんどありません。ただ、もしそのような質問をされた場合には、いくつか回答があります」と述べています。

ケインメーカー氏が語る「キャラクターが手袋をする」理由として最も基本的な理論は、「手袋が時間を節約した」というもの。

特にアニメブームの初期では、すべての工程が手描きであり、細かい動きを表現するために何度も同じような絵が繰り返し描かれていました。そのため、プロセスをより効率的にするためのテクニックがアニメやマンガのスタイルを形作ったとのこと。

例えば、黒猫をモチーフにしたキャラクターであるフィリックス・ザ・キャットは、もともと顔の形や手足が角張った造形となっていました。

フィリックスの人気が高まるにつれ、アニメーターのビル・ノーランはキャラクターの造形を全体的に丸くしました。

ゴムホースのように伸び縮みする線とその先に手足がついたような体形は、腕や膝などのリアルな体形を形作る必要がありません。また、丸っこい造形は角張ったものよりもはるかに速く描くことができました。そのため、あまり時間をかけずにキャラクターを描く方法としてアニメーターの中で普及していったそうです。

丸っこい造形にすることでスピードアップできるというのは、指や関節を含む「手」の描写についても同様です。それに加えて、アニメが白黒だった時代には、「手の描写は時間がかかる」という点とは別の問題が「手の描写」について存在していました。以下の画像はミッキーマウスのデビュー作として知られる「蒸気船ウィリー」のシーンですが、黒い液体を黒い顔に浴びたキャラクターが黒い手で顔を覆うことで、「手がどこでどのように動いているか分かりにくい」ものとなっています。

ミッキーマウスは最初期の「プレーン・クレイジー」ではフェリックスと同じような黒い手足をしていましたが、「蒸気船ウィリー」で白い靴を履くようになり、第5作目の「ミッキーのオペラ見学」では手袋を着用しています。

Voxは手袋をしたキャラクターについて、「非常に人間的なことをしている非人間です」と表現しています。

実際に、ウォルト・ディズニーは1968年の伝記「The Disney Version」の中で、「私たちはミッキーマウスの手がネズミのものであることを望まなかった。なぜなら彼はより人間らしくあるべきだったからです。そこで私たちはミッキーマウスに手袋を与えました」と語っています。

つまり、初期のアニメ制作において「キャラクターに手袋をはめさせる」というのは、繰り返し描きやすくして時間を節約した上で、白黒のアニメの中で体の色と手の色を区別するコントラストを提供することに加えて、人間以外のものに命を吹き込んでジェスチャーを際立たせる意図があったのです。

手袋が人間以外のものに人間らしさを与えている分かりやすい例として、Voxは1940年の「ピノキオ」を挙げています。命を吹き込まれたあやつり人形のピノキオは、手袋をしているキャラクターです。

しかし、妖精によって本当の人間に姿を変えたピノキオからは、手袋は失われています。Voxはこれを「少年になったピノキオには、手袋はもう必要ありません」と表現しています。

さらに、速度やコントラストといった実用的な理由とは別に、それほど実用的ではない理由もキャラクターの白手袋に影響を与えていたとVoxは指摘しています。「ミッキーのオペラ見学」を含む当時のアニメーションの多くは、舞台で踊りや歌などを披露するヴォードヴィルや白人が顔を黒く塗って踊りや寸劇を披露するミンストレル・ショーの影響を受けていました。実際に、当時のアニメーターはヴォードヴィルの舞台でキャラクターを描くパフォーマンスをよく行っていたそうです。

トロント大学映画学科准教授のニコラス・サモンド氏は著書「Birth of an Industry」の中で、フェリックスやミッキーマウスについて「ミンストレルのようなものではなく、ミンストレルそのものでした」と述べています。ミンストレル・ショーで活躍する人物も、アニメのキャラクターと同じように、イタズラ好きで反抗的な面も強いが気の良い人物として描かれています。そしてミンストレル・ショーを演じる人のほとんどが、白い手袋をはめていました。この衣装が、アニメやマンガのキャラクターに受け継がれたと考えられています。