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Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOが「GoogleとDeepMindはなぜ統合されたのか」を語る


Googleには「Google Brain」と呼ばれるAI開発部門が存在しました。同時に、Googleの親会社であるAlphabet傘下で独自にAIの研究開発を行い、プロ棋士にも勝利した最強の囲碁AI「AlphaGo Zero」やタンパク質の立体構造予測AI「AlphaFold」を開発した企業が「DeepMind」も存在していました。2023年4月、GoogleはDeepMindを吸収してGoogle Brainと統合し、「Google DeepMind」という1つのAI研究部門を創設したことを発表しました。このGoogle DeepMindのCEOに就任したのが、DeepMindの共同創設者でAI研究者のデミス・ハサビス氏です。IT系ニュースサイトのThe Vergeが行ったインタビューの中で、ハサビス氏がGoogleとDeepMindが統合した理由や経緯を明らかにしています。

Google DeepMind CEO Demis Hassabis on ChatGPT, AI, LLMs, and more - The Verge
https://www.theverge.com/23778745/demis-hassabis-google-deepmind-ai-alphafold-risks


The Verge:
Google DeepMindは、Googleの既存の部門2つから構成されるGoogleの新しい部門です。Google Brainは、GoogleのAIチームで、あなたが設立した会社が DeepMindでした。DeepMindは2014年にAlphabetに買収されましたが、Googleの外部にいて、つい最近まで持ち株会社であるAlphabetの構造内でGoogleとは別の会社として運営されていました。一番最初から始めてください。そもそもなぜ DeepMindとGoogle Brainは別々だったのでしょうか?

デミス・ハサビスCEO(以下ハサビスCEO):
私たちが DeepMindを設立したのは2010年で、AIの歴史としてはかなり昔のことです。つまり、先史時代のようなものです。私自身と共同創設者は、AI学界出身で、そこで何が起こっているかを見ており、発明されたばかりのディープラーニングというものを知っていました。私たちは強化学習を大いに支持していました。GPUやその他のハードウェアがオンラインのものになりつつあり、一般的な学習システムに集中的に取り組み、神経科学や脳の仕組みからいくつかのアイデアを取り入れれば、多くの大きな進歩が得られることがわかりました。


そこで私たちは2010年にこれらすべてをまとめました。私たちは急速な進歩を遂げるというこの仮説を立てていました。それが私たちの最初期の話です。そして2014年に、さらに多くのコンピューティングが必要になることがわかったため、Googleと提携することを決定しました。Googleは明らかに世界で最も多くのコンピューティングリソースを所有していました。Googleは私たちにとって、研究を可能な限り早く進めることに集中できる拠点であることは明らかでした。

The Verge:
DeepMindはGoogleに買収され、その後、途中でGoogleが方向転換したのですね。DeepMindの親会社はAlphabetに変わり、GoogleはAlphabetの一部門となった。Alphabetには他にも部門がありますが、DeepMindはそこから外れていました。私がここで最初に注目したいのはまさにそこなのです。GoogleがGoogle Brainで行っていたことの多くが大規模言語モデル(LLM)の研究だったためです。2017年を思い出すと、GoogleはGoogle I/OでLLMを披露していましたが、DeepMindは「囲碁で勝つこと」と「タンパク質のフォールディング」という完全にGoogleの外部で行われたまったく異なる種類のAI研究に焦点を当てていました。なぜ Google以外でそれが行われたのでしょうか?

ハサビスCEO:
買収時の契約の一部として、汎用人工知能(AGI)の研究の推進があったからです。また、AlphaFoldのように、AIを使って科学的発見を加速させることも、私が個人的な情熱を向けている物事のひとつです。そして、DeepMindの設立当初から、そしてDeepMindが設立される以前から、ゲームはAIアルゴリズムを効率的かつ迅速に開発するための完璧な実験場でしたし、多くのデータを生成することができ、目的とする関数も非常に明確でした。

もちろん、私たちはディープラーニングやニューラルネットワークに関しても多くの研究を行ってきました。そして、私たちの専門はそれらを強化学習と組み合わせて、これらのシステムが積極的に問題を解決し、計画を立て、ゲームに勝つようなことをできるようにすることであったと思います。DeepMindとGoogle Brainの違いという点では、私たちは常に研究課題を推進し、最先端の科学を推進するという権限を持っていたことです。Google BrainのようなGoogle社内のAIチームは少し異なる権限を持っていて、明らかにGoogleの他の部署のように製品化を視野に入れており、Googleに素晴らしいAI技術を注入していました。また、DeepMindの技術をGoogleの製品に導入する応用的な部署もありました。しかし、DeepMindとGoogle Brainの文化はまったく異なり、果たすべく役割もまったく異なりました。

by George Gillams

The Verge:
外側の人間から見ると、OpenAIがChatGPTをリリースしたことで誰もが慌てふためき、さらにMicrosoftがChatGPTに基づいたBingをリリースすると世界が一変し、GoogleはDeepMindとGoogle Brainを統合することで対応した、という流れに見えます。内側からはこんな感じだったのでしょうか?

ハサビスCEO:
その流れは正しいと思いますが、そこまで直接的な結果ではなく、ある意味もっと間接的なものです。GoogleとAlphabetは常にそういった経営を行ってきました。ラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏がGoogleを設立した当初から、常にそうしてきたと思います。それがとてもよく機能し、信じられないようなものを有機的に生み出し、今日のような素晴らしい企業になることができたのです。DeepMindがGoogleをパートナーに選んだ理由もそこにあります。彼らは基礎的な研究、野心的な研究とは何かを本当に理解していて、私たちのAI研究も超野心的であるにもかかわらず推進してくれると感じました。その結果はご覧の通りでしょう?

AlphaGoやAlphaFoldはもちろんのこと、20以上の自然科学論文や科学論文など、私たちが本当に素晴らしい最先端の研究を提供するために使用する通常の指標はすべて実現できました。しかし、ChatGPTとLLM、そしてそれに対する世間の反応が確認したことは、AIが新しい時代に入ったということです。というのも、私たちやAnthropic、OpenAIのようなスタートアップはいずれもほぼ同じような能力のLLMを開発していたからです。


私たちはLLMの技術を理解していたので、技術がどうかというよりも、その技術に対する一般の人々の熱意と話題の大きさに驚きました。LLMはすでに研究段階から抜け出して、AlphaFoldが生物学者の役に立つような画期的な技術となっているように、信じられないような次世代製品や体験を生み出すほどの成熟して洗練されたレベルに到達しているのです。これは私にとって、AIが日常生活で人々の役に立つという新たな段階に入ったことを示すもので、単なる興味本位や遊びのようなものではなく、本当に現実世界の重要な難問を解決できるようになったことを意味します。今こそAIへの取り組みを効率化し、より集中させる時なのです。そして、その当然の結論がDeepMindとGoogle Brainの合併だったのです。

The Verge:
スンダー・ピチャイCEOがあなたのところにやって来て、「わかりました、私はAlphabetのCEOであり、GoogleのCEO です。この電話をかけただけです。私は DeepMindをGoogleに取り込んでGoogle Brainと統合し、ハサビス氏をCEOに就任させるつもりです」と述べられた時、どう反応しましたか?

ハサビスCEO:
そんな会話はありませんでした。さまざまな関連グループのリーダーとピチャイCEOの間で、私たちが見ている転換点、システムの成熟度、どういったものが製品化可能か、そしてどうやって製品化するかということを話し合ったと思います。数十億のユーザーのエクスペリエンスを向上させることがどれほどエキサイティングなことなのか、そして全体として何が必要なのかを考えました。焦点の変更、研究へのアプローチの変更、コンピューティングリソースなどの必要なリソースの組み合わせなど、考慮すべき要素は多数あり、それをリーダーシップグループとして全員で議論し、そこから得られた結論が合併を含む行動につながったのです。もちろん今後数年間の計画や内容も含まれます。


The Verge:
GoogleのCEOとAlphabetのCEOで違いはあると思いますか?

ハサビスCEO:
まだ始まったばかりですが、GoogleとAlphabetでかなり似ていると思います。というのも、DeepMindはAlphabet傘下でしたが、「Alphe Bet(アルファの賭け)」と呼ばれていたように、Google製品分野のチームやグループと非常に密接に関わり、協力していたからです。DeepMindには応用チームがあり、Googleの製品チームと協力することで、私たちの研究成果を製品の機能に反映させていました。そのため、ここ数年は水面下で何百ものローンチを成功させてきました。実際、Googleで皆さんが毎日使っているサービスやデバイス、システムの多くにはDeepMindの技術がコンポーネントとして組み込まれています。もちろんDeepMindが有名なのはAlphaFoldやAlphaGoによるところが大きいわけですが、その裏ではGoogleのあらゆる部分に影響を与えるような仕事が多く行われていました。

他のAlphabet傘下の企業はGoogleとは独立したビジネスを立ち上げることを目指していましたが、私たちは違いました。Googleとは独立した企業であったとしても、それが私たちの目標や任務だったことはありません。そして今はGoogle社内でより緊密に統合されています。Googleとは別企業だった時よりも、他の製品チームとの緊密なコラボレーションの中で、よりディープでエキサイティングで野心的なことができるのですから。それでも、世界で最も有能で汎用的なAIを生み出すという私たちの使命を最適化するためのプロセスやシステムを選択する自由度は残されています。

The Verge:
GoogleとDeepMindで異なる文化が衝突しているというウワサもあります。あなたはCEOとして、Google DeepMindをどのように組織し、その文化の統合をどうやって管理していますか?

ハサビスCEO:
実際、GoogleとDeepMindは外部でいわれているよりもはるかに似た文化を持っているとわかりました。もちろん素晴らしい人材と才能の集まりであり、双方のグループに対して多大な敬意が払われています。そして、2つの統合は実際には驚くほどスムーズで楽しいものでした。なぜなら、世界クラスの研究グループ、世界最高のAI研究組織の2つ、双方の素晴らしい才能がAIについて話し合っているからです。私たちがGoogle DeepMindの合併を考えていた時、各グループの画期的な進歩トップ10をまとめた文書を読みました。これをまとめると、深層強化学習からTransformerに至るまで、現代のAI業界を支える画期的な進歩の8割から9割がここ10年で起こったことになります。

もちろん、私たちは皆お互いのことをよく知っています。ただ、集中力の問題と、両グループを横断したちょっとした調整の問題だと思います。もっと言えば、私たちは何に集中するのか、2つの別個のチームが協力することにどういう意味があるのか、両チームで被ってしまっている取り組みをなくすことができるのか、という点です。正直なところ、ごく当たり前のことなのですが、AIエンジニアリングの段階に移行している今、この新しい段階に移行することは重要であり、それには膨大なリソースが必要です。Googleほどの規模の企業でも、慎重に賭けを選び、どこに注力するかを明確にし、それらに集中して大きな成果を出さなければなりません。ですから、私たちがAIの旅路のどこにいるのかは自然な流れの一部なのだと思います。

The Verge:
「私たちは何に集中するのか、2つの別個のチームが協力することにどういう意味があるのか、両チームで被ってしまっている取り組みをなくすことができるのか」ということですが、これはもう答えは出ているのでしょうか?これを進める体制はどうなると思いますか?

ハサビスCEO:
チーム体制はまだ途上段階です。まだ数カ月しか経っていません。私たちは何も壊れていないこと、正常に動作していることを確認したかったのです。どちらのチームも非常に生産性が高く、非常に素晴らしい研究を行っており、さらに進行中の非常に重要な製品にも取り組んでいます。これらすべてを継続させる必要があります。

The Verge:
つまり2つのチームとして考えていますか、それとも1つのチームにしようとしていますか?

ハサビスCEO:
いえいえ、それは確かに1つの統一されたチームです。私はそれを「スーパーユニット」と呼ぶのが好きで、とてもワクワクしています。しかし、明らかに私たちはそれを組み合わせながら新しい文化を生み出し、組織構造を含む新しいグループを形成しています。このように2つの大きな研究グループをまとめるのは複雑なことです。しかし、2023年夏の終わりまでに、私たちは1つになると思います、それは非常にエキサイティングなものになるでしょう。皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが、統合から数か月経った今でも私たちはすでに「Gemini」のようなプロジェクトの利点と強みを感じています。Geminiは私たちの次世代マルチモーダル大規模モデルです。そこでは非常にエキサイティングな作業が進行中です。両方の世界クラスの研究グループからの最高のアイデアをすべて組み合わせています。

インタビューでは他にもAIのリスクや規制、LLMの将来などについてハサビスCEOが語っているので、気になる人はぜひチェックしてみてください。

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in ソフトウェア, Posted by log1i_yk

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