「親指を立てる絵文字は同意にあたる」との判決が下される
テキストメッセージで作物を注文した業者に対し、「親指の絵文字」で応えた農家が作物を納入しなかった問題で、カナダの裁判所が「親指を立てる絵文字は契約上の合意にあたる」として農家に金銭の支払いを命じました。
2023 SKKB 116 (CanLII) | South West Terminal Ltd. v Achter Land | CanLII
https://www.canlii.org/en/sk/skkb/doc/2023/2023skkb116/2023skkb116.html
Texting thumbs-up emoji in response to a question costs Sask. farmer $82K in contract case | CBC News
https://www.cbc.ca/news/canada/saskatchewan/thumbs-up-emoji-costs-sask-farmer-82-thousand-1.6898686
今回、絵文字のやりとりが法律で認められた契約にあたるのかを巡って裁判で争ったのは、カナダの農家のクリス・アクター氏と、穀物マーケティング業者・South West Terminalのケント・ミックルボロー氏です。ミックルボロー氏は2021年3月に、アクター氏に作物の亜麻を買い付ける契約書の写真とともに「亜麻の契約書を確認してください」とのテキストメッセージを送信しました。
11月に作物を納入するよう求める契約書付きのメッセージに対し、アクター氏は親指を立てる絵文字で回答しましたが、期限になっても亜麻は納入されませんでした。当時、亜麻の値段はメッセージをやりとりした時期から大きく高騰していたとのこと。
亜麻の買い付けができなかったミックルボロー氏は、「以前からアクター氏に多数の契約書をテキストメッセージで送信しており、アクター氏は毎回きちんと契約を履行していたので、絵文字は契約上の合意にあたります」と主張し、損害賠償を求めてアクター氏を訴えました。
これに対しアクター氏は、「契約書を確認する時間がなかったので、テキストメッセージを確かに受け取ったことを伝えたかっただけです」として、絵文字は契約は合意ではないと主張しました。
この件を審理したサスカチュワン州キングスベンチ裁判所のティモシー・キーン判事は2023年6月の判決で、絵文字は署名の要件を満たしており、アクター氏が絵文字で返信したにもかかわらず作物を納入しなかったのは契約に違反したことになると述べました。
以下は、「👍」の意味が争われたこの裁判の判決文のスクリーンショットです。
アクター氏側の弁護士は、もし絵文字を署名として認めれば絵文字の解釈をめぐる裁判が多発するだろうと警告し、キーン判事も絵文字は伝統的な署名ではないと認めましたが、キーン判事は「親指を立てる絵文字は特に西洋文化におけるデジタルコミュニケーションにおいて同意、承認、励ましを表現するために使用されます」としたオンライン辞典の記述を根拠に、絵文字は一般的に使われる意思表示の方法だとの見解を示しました。
その上でキーン判事は「この裁判は、テクノロジーとその一般的な使い方の流れを止めようとするものではありませんし、止めるべきでもありません。これはカナダ社会の新しい現実になりつつあるため、裁判所は絵文字などの使用から生じる可能性のある新しい課題に対応する準備をしなければならないでしょう」と述べました。
絵文字に法的効力を認める画期的な判決に対し、今回の訴訟には直接携わっていないトロントの弁護士のジェイソン・リー氏は、「法的な観点から今回の判決は正しかったと思います」とコメントしました。
リー氏は、デジタルコミュニケーションは多くのことを変えたものの、契約に関する基本的な原則は何世紀も前から変わっていないと述べています。例えば、中世の時代には多くの人が読み書きできなかったので、当時は文書に合意したことの証としてサインに見えるぐちゃぐちゃの線を書いたり、拇印を押したりと、あらゆる印が署名代わりに使われたとのこと。
このことからリー氏は「たとえ絵文字であってもそれは印であり、その印は法廷で信頼され拘束力のある合意となりうるでしょう」と述べて、今後デジタルコミュニケーションで絵文字を使う際にはよく考えなければならないだろうと指摘しました。
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