古代のスペインで最高権力を握っていたのは男性ではなく「象牙の婦人」だった
イベリア半島にある紀元前2900~2650年頃の墳墓の遺跡で発見された、非常に身分が高い人物のものとみられる遺骨が、新しい分析により女性のものだったことが判明したとの論文が、2023年7月6日付の学術雑誌・Scientific Reportsに掲載されました。
Amelogenin peptide analyses reveal female leadership in Copper Age Iberia (c. 2900–2650 BC) | Scientific Reports
https://doi.org/10.1038/s41598-023-36368-x
Highest-ranking person in Copper Age Spain was a woman, not a man, genetic analysis shows | Live Science
https://www.livescience.com/archaeology/highest-ranking-person-in-copper-age-spain-was-a-woman-not-a-man-genetic-analysis-shows
今回の論文で研究対象になったのは、スペイン・アンダルシア州セビリア県にある銅器時代の墓で見つかった人骨です。付近の遺跡からは副葬品としてクリスタルの短剣や高品質のフリント石、ダチョウの卵の殻、琥珀(こはく)など貴重な品々が大量に見つかっていました。
5000年前の「クリスタルの短剣」がスペインで見つかる - GIGAZINE
人骨は当初、高い地位にあった男性のものだと考えられており、見事な象牙とともに埋葬されていたことから「象牙の男(The Ivory Man)」と呼ばれていたとのこと。
しかし、スペイン・セビリア大学先史考古学部のレオナルド・ガルシア・サンフアン氏らの研究チームは、遺骨の組成を化学的に分析した結果から、埋葬されていた人物は男性ではなく女性であり、「象牙の男」ではなく「象牙の婦人(The Ivory Lady)」だったと発表しました。
骨の初期の調査では、骨盤の分析により男性と報告されていましたが、遺骨の骨盤は不完全でした。そこで、ガルシア・サンフアン氏らが骨の歯のエナメル質に含まれる「アメロゲニンペプチド」という物質を分析したところ、X染色体上にあるアメロゲニン遺伝子「AMELX」は検出されましたが、Y染色体の「AMELY」は見つかりませんでした。
研究チームは、この人物が「イベリア全土で最も高い社会的地位を持った人物」だったと考えています。なぜなら、イベリア半島一帯の遺跡からは、象牙の婦人と同等または近い地位に就いていた男性が見つかっていないからです。
象牙の婦人の復元図。
付近にある同じ時代の豪華な墳墓からは、少なくとも15人の女性の遺骨も見つかっています。この墓は、象牙の婦人の子孫を称する女性たちのために建設されたものだと考えられていることから、イベリア半島の銅器時代の社会では女性が指導者の地位を占めていたとされています。
もうひとつ重要な点は、この地域で発見された幼児の墓には副葬品がないということです。これは、当時は社会的地位が血縁で継承されていたのではなかったことを示しているとのこと。
ガルシア・サンフアン氏は「象牙の婦人は王や女王が現れるより前に存在したリーダーで、その地位は誰かから受け継いだものではありません。これは、象牙の婦人が彼女自身の功績や能力、人格により指導者の座に上り詰めたことを意味しています」と話しました。
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