異常気象によって世界中で同時多発的に穀物の不作に陥るリスクについて研究者が警告
長期にわたる干ばつや大雨、熱波などの異常気象は、作物の不作につながる可能性があります。また、温暖化を含む地球の気候変動によって、異常気象による作物の不作が世界中で増加しており、サプライチェーンの混乱に伴う価格の高騰や、食糧供給の滞りが発生する危険性を指摘する声も。コロンビア大学のカイ・コーンフーバー氏らの研究チームが、世界中の主要な食糧生産地域で収穫量の減少が同時多発的に発生する可能性について調査を行っています。
Risks of synchronized low yields are underestimated in climate and crop model projections | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-38906-7
Guest post: Climate models underestimate food security risk from ‘compound’ extreme weather - Carbon Brief
https://www.carbonbrief.org/guest-post-climate-models-underestimate-food-security-risk-from-compound-extreme-weather/
Researchers: We've Underestimated The Risk of Simultaneous Crop Failures Worldwide : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/researchers-weve-underestimated-the-risk-of-simultaneous-crop-failures-worldwide
気候変動が起こる中で世界の食料安全保障を確保することは、世界的な課題です。この課題に対処するには、合理的かつ予防的な対応策の確立が必要で、そのためには将来の気候条件の信頼できる予測が必要です。
世界中の「穀倉地帯」として知られるいくつかの作物生産地域で、同時多発的に作物の不作が起こった場合、輸出の制限に伴う価格の高騰によって、食料不安が高まり、食料安全保障が困難になります。
コーンフーバー氏らはまず、北アメリカ中央部や東西ヨーロッパ、アジアなど、中緯度の温帯気候域に位置する穀倉地帯の上空を通る「ジェット気流」と呼ばれる気流による不作の可能性を調査しました。以下の図において、薄青で示された線がジェット気流の経路、緑が主要な穀倉地帯、赤の斜線で示されたエリアが熱波の影響を受ける地域、青の斜線のエリアが冷夏などの影響を受ける地域です。
調査の結果、「ロスビー波」と呼ばれる大気波の発生が、世界中の穀倉地帯における異常気象を引き起こしており、作物の不作につながっていることが判明しました。
その一例が2022年7月18日の週で、以下の図は表面温度の偏差を示した図です。赤い地域は平均気温よりも高いことが示されており、丸で囲まれた5つの地域には、ロスビー波によって同時多発的に熱波が到来し、平均気温よりも気温が高くなりました。
今回の調査では、ロスビー波が発生し、ジェット気流が強く蛇行する主要な穀倉地帯において作物の収穫量が減少し、作物の不作が発生する確率は、地域によっては3倍に増加することが示されました。
さらに、研究チームロスビー波によるジェット気流の蛇行現象が作物の収穫量に与える影響を調べるため、1960年から2014年までの観測データと気候モデルのデータを分析しました。分析の結果、現在の気候モデルは蛇行するジェットの位置と強度を示すことができる一方で、局地的な異常気象の程度を正確に再現していないことが判明。つまり、ジェット気流の蛇行が異常気象に与える影響はこれまで過小評価されていたというわけ。
さらにコーンフーバー氏らは、温暖化が抑制されない最悪のシナリオを想定して、2045年から2099年にかけての「将来の作物状況の予測」を行いました。シミュレーションの結果、北アメリカとシベリアでは、近年深刻な異常気象が何度も発生しており、今後も作物の不作のリスクが高まっているとのこと。また、これらの地域は今後、ジェット気流の蛇行によって、さらに熱波の影響が強まる可能性も予測されています。
研究チームは既存の気候リスク評価について、大気力学や気候変動に関連した複数の現象が複雑に相互作用しているため、異常気象の発生しやすい地域を見落としている可能性があると指摘。そのため、気候や農業のモデルを改善するために、より実証的でプロセスに基づいた研究が緊急に必要であることを主張しています。
コーンフーバー氏は「この研究は、気候変動が作物の生産に与える影響について、不確実性という点で、警鐘を鳴らすものです」と述べています。また「私たちは将来、複雑な気候変動のリスクに備える必要がありますが、現時点では正確な気候モデルが存在しないようです」と指摘しています。
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