インターネット最大級の海賊版電子書籍ライブラリ「Z-Library」が貧困の学生を助けているという研究結果
インターネット最大の海賊版電子書籍データベースの1つであるZ-Libraryは、運営者が2022年11月に逮捕されて突如閉鎖した際に「現代版アレクサンドリア図書館の放火」と嘆く声が挙がったり、サイトが復活後すぐに数十万人のユーザーが集まったりと、特に学生が頼りにしています。ロンドンのグリニッジ大学の研究者が発表した論文は、Z-Libraryの使用を「学術サイバー犯罪」と呼びつつ、Z-Libraryが学生の貧困を克服させるのに役立つという調査結果を示しています。
Digital Piracy in Higher Education: Exploring Social Media Users and Chinese Postgraduate Students Motivations for Supporting ‘Academic Cybercrime’ by shelving ebooks from Z-Library
https://open-publishing.org/journals/index.php/jutlp/article/download/902/963
Z-Library Helps Students to Overcome Academic Poverty, Study Finds * TorrentFreak
https://torrentfreak.com/z-library-helps-students-to-overcome-academic-poverty-study-finds-241120/
Z-Libraryは教科書にかかるコストの負担を軽減したい多くの学生やテキストが手に入らない地域の学習者に頼りとされており、2022年11月に閉鎖する前は毎月数百万人のアクセスがありました。その後、ユーザー個人に配布されたドメインからリダイレクトする形でサイトに飛ばすことで、Z-Libraryのドメインが規制当局に押収されて突然サイトが閉鎖する事態を防ぐ形で復活し、改めてユーザー数を増やしています。一部報道によると、逮捕されたZ-Library運営者とみられる2人は、アメリカへの引き渡しを控えた自宅軟禁から突然姿を消したとされています。
インターネット最大級の海賊版電子書籍サイト「Z-Library」が復活、ユーザーに固有のドメインを割り当ててアクセスさせる戦略を展開 - GIGAZINE
Z-Libraryは単に無料の書籍をダウンロードできる海賊版ポータルであると同時に、閉鎖の直前には1000万冊を超える電子書籍と8600万件を超える学術論文が提供されており、学術的なキャリアを進めるために不可欠なリソースと見られていました。Z-Library公式が復活から3カ月後にTelegramに投稿した集計結果によると、世界中の3万以上の教育機関から、60万人以上の学生ないし学者が新しいZ-Libraryを使用していたとのこと。
グリニッジ大学のマイケル・デイ氏は実際にZ-Libraryがどれだけ学習に貢献しているかについて調査し、その結果を「Digital Piracy in Higher Education(高等教育におけるデジタル海賊行為)」と題した論文にまとめて発表しました。調査では、Redditユーザーと中国の大学院生という2つのグループに焦点を当て、「なぜ海賊版サイトであるZ-Libraryを使うのか」という動機に焦点が当てられています。
まずRedditでは、「ZLibrary」のSubreddit(カテゴリ)掲示板から抽出された、134件の意見を集計しています。そのため、ある程度のユーザー層や意見に偏りがありますが、デイ氏によると、Z-Libraryを使う動機は単に「金を払わずにコンテンツを見たい」という欲望を越えたものが見られたそうです。
特に目立った意見が「貧困のためZ-Libraryが魅力的に感じた」「Z-Libraryが学業目標を達成するために不可欠なツールである」などというもの。あるRedditユーザーは、「先進国以外の出身者にとって、本1冊の値段はすでに私の1日の賃金の50%~80%にもなります」とコメントしています。過去には、デンマークでは教科書が高すぎるため電子教科書を使用する学生の約半数が海賊版を入手していると報じられたり、フロリダ州の公立大学で行われた調査で「教科書が高すぎる」という理由で学生の64.2%が必要な教科書を購入しておらず、42.8%が履修科目を減らしていたことがわかったりと、問題が指摘されたケースがあります。
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また、価格だけではなく、「物理的な本を数多く管理する場所がない」という点も貧困な学生にとっては問題とされているとのこと。そのほか、図書館で学術雑誌購読を含む研究資料への無料アクセスを提供していなし大学もあり、大学のサービスの欠如も主要な理由として挙げられていました。
もう1つのグループでは、より体系的な形式で、中国の大学院生103名を対象に「Z-Libraryと取り締まりについて議論するセミナー」を開催しました。
アンケートでは、71%の学生が「過去にZ-Libraryを利用したことがある」と認め、41%の学生が「Z-Libraryの(一時的な)閉鎖によって、勉強や学位取得のためのリソースを検索する能力に影響を受けた」と回答しました。また、「Z-Libraryなどの海賊版サイトは、貧困な学生に役立つ」と回答した学生は82%、「学術的な教科書は学生にとって高すぎる」という質問に同意した学生は67%、「中国では英語の学術書へのアクセスが限られている(そのためZ-Libraryを試用するしかない)」に同意した学生は63%と、著作権への懸念を認識した上で海賊版サイトを選択する動機が示されました。
デイ氏は今回の調査はサンプルサイズが小さいこと、調査対象に偏りがある選択バイアスが含まれること、中国の学生は社会主義的価値観に沿って「知識へのアクセスは誰にとっても無料であるべきだ」と考える意見が圧倒的多数だったことなど、調査対象に固有の特性があることを認めました。その上でデイ氏は、「Z-Libraryを使う動機に関する回答には、『不正や権力を批判し弱者や貧しい人々を助ける精神』である『ロビン・フッド精神』の兆候が見られます。Z-Libraryユーザーは、教科書にかかる費用を『出版者の知識に対する税金』と考える節があり、無料で資料をダウンロードすることで、『税金』を逃れているのです」と述べています。
デイ氏によると、著作権的に問題のあるサイトの使用は規制されるべきではあるものの、多くの学生がZ-Libraryに頼らなければ資料を参照できないという厳しい現状を調査結果は示しているとのこと。デイ氏は「今回の論文は、大学や出版社が現状を見直し、Z-Libraryを参考にして、より多くのコンテンツを自由に利用できるようにすることを検討する必要があるかもしれないと示唆しています。大学は、社会経済的およびデジタル面で不利な立場にある学生が直面しているデジタル格差を再考する必要があります。出版社も、オープンアクセス研究をより一般的にし、あらゆる人に優しいものを目指してアプローチを再考する必要があります」と結論付けています。
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