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オンラインのメッセージが脅迫だと認められるには「送信者自身が脅迫だと認識している必要がある」と最高裁判所が判断を下す


シンガーソングライターの女性がFacebookで繰り返し脅迫的なメッセージを送りつけられた事件の裁判で、アメリカ最高裁判所が「メッセージが脅迫だと認定されるには、送信者本人が『これは脅迫的だ』と主観的に認識していなくてはならない」として、下級裁判所の有罪判決を覆しました。この最高裁判所の判断に対しては、「ネットストーカーの犯人に有罪判決を下すのが難しくなる」「妄想にとりつかれたストーカーが保護されてしまう」といった批判の声も上がっています。

Supreme Court says a conviction for online threats violated 1st Amendment - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/politics/2023/06/27/supreme-court-true-threat-stalking/


Supreme Court clarifies when online harassment can be prosecuted | CNN Politics
https://edition.cnn.com/2023/06/27/politics/supreme-court-ruling-counterman-v-colorado/index.html

Supreme Court makes decision on Counterman v. Colorado | 9news.com
https://www.9news.com/article/news/politics/national-politics/supreme-court-convict-making-threat/73-32fadd43-5138-4acb-b872-aaee969e200f

Supreme Court guts protections for cyberstalking victims
https://www.fastcompany.com/90915726/supreme-court-guts-protections-for-cyberstalking-victims

2014年、ビリー・カウンターマンという男がシンガーソングライターのコールズ・ウェイレン氏に対し、Facebookを通じて脅迫的なメッセージを送信し始めました。とりとめのない妄想やネットミームなどを含む数百件ものメッセージを送りつけられたウェイレン氏は、返信せずにカウンターマンのアカウントをブロックすることで対処したものの、カウンターマンは新しいアカウントを作成して2年間にわたりメッセージを送信し続けたとのこと。

カウンターマンが送ったメッセージには、「白いジープに乗っていた?」とストーカー行為を示唆するようなものや、「永久に消えろ」「お前は人間関係が下手だ。死ね。必要ない」といった脅迫的なものも含まれていました。これらのメッセージに脅威を感じたウェイレン氏は、ボディーガードを雇ったりコンサートをキャンセルしたりする事態に追い込まれ、時には「聴衆の中にカウンターマンがいるのではないか」と感じてパニック発作に襲われたりしたと日刊紙のワシントン・ポストに語っています

最終的にウェイレン氏はこれらのメッセージについて法執行機関に相談し、カウンターマンはストーカー容疑で逮捕・起訴されました。他の人物に対する脅迫罪でも有罪判決を受けたことがあるカウンターマンは、ウェイレン氏の事件では懲役4年半の有罪判決を宣告されました。


アメリカではほとんどのメッセージや主張がアメリカ合衆国憲法修正第1条の下、言論の自由として保護されています。しかし、現実的な恐怖や暴力のリスクがあり、冗談では済まされないメッセージや主張は「True Threat(真の脅威)」と呼ばれ、言論の自由の例外とされています。この例外により、カウンターマンのメッセージも言論の自由として認められることなく、有罪判決が下されたというわけです。

ところが、カウンターマンの弁護士であるジョン・エルウッド氏は、カウンターマンが精神疾患に苦しんでおり、ウェイレン氏へのメッセージが一方通行で脅迫的なものだと認識していなかったと主張。「憲法修正第1条の根底にある原則は、社会がその思想そのものを不快または好ましくないと思ったとしても、政府は思想の表現を禁止してはならないというものです」と述べ、カウンターマンのメッセージは真の脅威に当たらないとして最高裁判所に上訴しました。


このエルウッド氏の主張については、デジタル空間の自由を擁護する電子フロンティア財団(EFF)や学生ジャーナリストの権利を擁護するStudent Press Law Centerも賛同を表明しています。

EFF and Student Press Law Center Urge Supreme Court to Require Government to Show Subjective Intent in Threat Cases | Electronic Frontier Foundation
https://www.eff.org/ja/deeplinks/2023/03/eff-and-student-press-law-center-urge-supreme-court-require-government-show


EFFは公式ブログで、オンライン空間ではメッセージやメールなどの文章が本来の文脈を外れ、送信者の意図を超えた広がり方をすることがあると指摘。もちろん危険な言論は許容されるべきではなく、真の脅威という例外を設ける必要性は認めつつも、憲法修正第1条の保護を受けない真の脅威の定義は狭くあるべきだと主張しています。もし真の脅威が広く適用されるようになれば、ユーモアや芸術、社会風刺といった言論も脅迫的と見なされ、言論や報道が萎縮してしまう可能性があるとのこと。

そのためEFFは、「私たちは最高裁判所に対し、他者に対する暴力的な脅迫を理由に政府が誰かを訴追しようとする場合、その言論が憲法修正第1条で保護されない『真の脅威』と見なされる前に、その発言者が主観的に脅迫を意図していたことを示さなくてはならないと判断するよう求めています」と述べました。

そして最高裁判所は2023年6月27日に、「メッセージを真の脅威と認定するには、発信者が自身の言葉を『脅迫だと受け取られる可能性がある』と認識していたことを証明しなくてはならない」とする(PDFファイル)判断を賛成7:反対2で下しました。これにより審理は下級裁判所に差し戻され、検察側は「カウンターマンが自身のメッセージについて脅迫になり得ると認識していたかどうか」を証明することが要求されます。

最高裁判所のエレン・ケーガン判事は、「州当局は客観的な基準に従ってカウンターマンを起訴しており、カウンターマン自身が発言を脅迫的だと認識していたことを示しませんでした。これは憲法修正第1条の違反です」「真の脅威については、保護された非脅迫的な表現を過度に冷え込ませないよう、主観的な基準が依然として必要です」という見解を示しました。


一方で、今回の判断に反対を表明したエイミー・バレット判事は、「『空港を爆破する』と脅した人物を想像してみてください。その発言者は正当な理由に基づき、空港への立ち入りを禁じられるかもしれません。しかし今日以降、『脅迫した人物が恐怖を引き起こすと予測していた』という証明を行わずに、こうした命令を下すことはできません」と述べ、真の脅威を狭く定義することで法執行機関の対処が困難になると反対しています。

また、バレット判事は「妄想的な発言者は、自身の発言が脅迫的であるという自覚に欠けているかもしれませんし、ずる賢い発言者は戦略的に自覚を放棄するかもしれません。幸運な発言者は自分が不利になるような証拠を残さないかもしれません」と述べ、ストーカー事件の取り締まりにも悪影響を及ぼすと主張しました。

コロラド州司法長官のフィリップ・ワイザー氏は、今回の判断によって妄想的でずる賢いストーカーにとっての抜け道が作られ、ストーカーが被害者を苦しめるのを止めることがさらに難しくなるとする声明を発表。ワイザー氏は声明で、「要するに、この判決によって脅迫の被害者(主に女性)はストーカーに責任を負わせるためにできる行動がほとんどないと考え、ストーカーに対して声を上げるのを控えるようになり、恐怖の中で生活するようになる可能性が高まります」とコメントしています。

ウェイレン氏も、この最高裁判所の判断に対して公式サイトで声明を発表しています。「私に送られた数千件ものメッセージは、生活を脅かし、人生を変えるものでした。私は自分が尾行されていて、いつでも危害を加えられる可能性があると恐れていました。私は自分の夢、つまり一生懸命築いてきた音楽のキャリアから一歩後退するしかありませんでした」「最高裁判所の判断が、ストーカー行為や脅迫メッセージが被害者およびその家族に与える被害を過小評価したことに失望しています。しかし、最高裁判所が確立した基準が、全国の被害者を保護できるような形で使われることを願っています。恐ろしいと思ったら、自分を信じて助けを求めてください。最高裁判所の決定は、被害者が1人で立ち向かわなければならないと意味するものではありません」と述べました。

Counterman v. Colorado - Coles Whalen
https://www.coleswhalen.com/

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in メモ, Posted by log1h_ik

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