「認知症発症リスク低下に帯状疱疹ワクチンが役立つ」という研究結果がネイチャーに取り上げられる、専門家たちの見解は?
2023年5月に「帯状疱疹(ほうしん)ワクチンが認知症の予防に効果的である証拠を見つけた」という内容の未査読論文が公開されました。この論文が大手学術誌「ネイチャー」のニュースに取り上げられています。
Does shingles vaccination cut dementia risk? Large study hints at a link
https://doi.org/10.1038/d41586-023-01824-1
帯状疱疹と認知症の関連性を示唆する研究論文はこれまでに複数存在していましたが、それらの研究論文は両者の関連性を示すにとどまり、因果関係を示すことはできていませんでした。2023年にスタンフォード大学の研究チームが公開した論文では、ウェールズで実施された「70~79歳の市民に帯状疱疹ワクチンを無料で提供する」という施策に注目し、施策の実施前後の認知症発症率を比較することで「帯状疱疹ワクチンを接種したか否か」が認知症発症率に与える影響を分析しました。
認知症予防に帯状疱疹ワクチンが効果的である証拠が発見される、認知症予防対策に光明か - GIGAZINE
分析の結果、ワクチン接種施策の対象となった「1933年9月2日より後に生まれた人」は対象外の「1933年9月2日より前に生まれた人」よりも認知症発症率が有意に低いことが明らかになりました。
研究チームの一員であるPascal Geldsetzer氏は「帯状疱疹ワクチンの接種率が高いグループでは認知症の発症率が低下する」という結果が偶然によるものではないことを強調しており、この研究論文は未査読でありながら大きな注目を集めていました。
Given how robust this finding is across a large variety of specifications and series of robustness checks, it’s also extremely unlikely to be due to pure chance.
— Pascal Geldsetzer (@PGeldsetzer1) May 25, 2023
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そして2023年6月6日にはネイチャーの公式ニュースで上記の論文が取り上げられました。ネイチャーから意見を求められたハーバード大学のアルベルト・アシェリオ教授は「(この研究結果が)もし本当なら、それは非常に重大なことです。(認知症は)リスクがわずかに下がるだけでも非常に大きな影響を生み出します」と述べています。また、「認知症で亡くなった人の脳からヘルペスウイルスが発見された」という研究論文を1991年に公開したマンチェスター大学のRuth Itzhaki教授は「この研究結果は私たちが1991年から主張し続けてきた考えと一致しています。この研究は、『帯状疱疹ワクチン接種』以外の要因を排除できているという点でユニークです」と述べ、研究の成果を好意的に評価しています。
一方で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のマリア・グリモア教授は「認知症は数十年かけて発症するが、今回の研究ではワクチン接種から4年経過時点で認知症発症率の低下が観察された」という点に着目して「この研究はよくできていますが、決して決定的なものではありません」と述べ、より詳細な分析が必要であると主張しています。また、記事作成時点では研究対象の期間に使われた帯状疱疹ワクチン「ゾスタバックス」は使用されておらず、代わりに「シングリックス」が用いられるようになっていますが、シングリックスと認知症の関係は明らかになっていません。
研究チームは今後、ランダム化比較試験を実施したり、帯状疱疹ワクチンが認知症発症リスクを抑える仕組みの解明に取り組むとしています。また、グリモア教授も帯状疱疹ワクチンと認知症発症リスク低下の因果関係を示す最も有効な手段として「臨床試験」を挙げています。
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