依存症の克服につながる現象が見つかる、ダイエット薬の使用者が飲酒や「爪をかむクセ」をやめることができたとの報告
「SGLT2阻害薬」という糖尿病治療薬の臨床試験を行った結果、糖尿病ではない人の心臓病や腎臓病のリスクまで抑制されることが判明するなど、薬は時に誰も予想していなかった効果をもたらすことがあります。肥満の治療薬として用いられる注射薬の「Wegovy(ウゴービ)」を使用した患者が、飲酒や喫煙、衝動的な買い物といった依存症の症状が緩和されたことを報告しました。
Could Ozempic Also Be an Anti-addiction Drug? - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/health/archive/2023/05/ozempic-addictive-behavior-drinking-smoking/674098/
Wegovy and Ozempic could be anti-addiction drugs as they cure drinking and shopping habits | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/health/article-12111143/Wegovy-Ozempic-anti-addiction-drugs-cure-drinking-shopping-habits.html
ウゴービはセマグルチドを有効成分とする注射薬で、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)というホルモンを模倣する働きにより、空腹感を抑えたり、胃が空になる速度を穏やかにして満腹感を維持したりする効果により、アメリカなどで「肥満症治療剤」として承認されています。
「アメリカの成人の60人に1人はウゴービなどの肥満治療薬の処方箋を持っている」と推測されるほど普及しているウゴービですが、使用している患者からはこの注射薬によりアルコールやタバコへの欲求が弱くなったり、爪をかむクセや強迫的な買い物といった悪癖がなくなったとの報告が相次いでいるとのこと。
例えば、Twitterユーザーのヘンリー・ウェッブ氏は、「私は1カ月半前にウゴービを2カ月分を使用し、目標の体重に達したので使用を止めました。私はいつも夕方に1、2杯のお酒を飲みますが、薬の服用中はその欲求が『ゼロ』でした。これは、依存症に悩む人々にとって、ゲームチェンジャーになるかもしれません」と述べています。
I'll add a datapoint. I finished 2 months of Wegovy a month and a half ago and stopped as I hit my weight goal. I always have a drink or two in the evenings. On the medication I had *zero* desire for that. This could be a game changer for people who struggle with addiction.
— Henry Webb (@CltFlyboy) May 19, 2023
中には、アルコールを飲みたいばかりにウゴービの使用をやめてしまったという体験談もあるほど。ジム・メローン氏というTwitterユーザーは、「私の場合体重の減少は最小限度にとどまり、アルコールは完全に嫌いになりました。この断酒効果を私は知りませんでしたし、私の主治医も知りませんでした。私はこのために薬を飲み始めたのではないので、ほぼ4カ月間使用してからやめました。また社交的に飲めるようになりたいものです」と吐露しています。
For me, minimal weight loss, total aversion to alcohol. Didn't know about the alcohol effect, nor did my doctor. I didn't sign up for that. Been on it for almost four months, and I'm out. I want to be able to drink socially again. I've had my last dose.
— Jim Melloan (@JimMelloan) May 20, 2023
飲酒以外の習慣も改善したという声が上がっています。以前はアルコールにおぼれ、断酒した代わりに食事や買い物に夢中になってしまったというビクトリア・ラトリッジ氏は、減量のためにウゴービを使用した後、いつの間にか食べ物のことをあまり考えなくなり、体形もスリムになっていたとのこと。
そればかりか、買い物に対する欲求もなくなってしまったので、前までスーパーマーケットに行くと余計なものを何十個もカートに入れなければ気が済まなかったのに、使用後は買うつもりだった商品だけを持って帰宅することができるようになったと話しました。
また、メアリー・マハー氏という別の患者は、以前は血が出るほど背中の皮膚をつねってしまうクセがあったため白い服が着られませんでしたが、ウゴービを使ってから2カ月後にはその衝動がなくなり、背中がきれいになったとのこと。また、爪をかむクセがありましたが、それもなくなったそうです。
こうした作用は、ウゴービがGLP-1を模倣する働きによってもたらされたものではないかと推測されています。依存症の鍵となる脳の報酬経路にはドーパミン受容体があり、これが食事やセックスといった行動により放出されたドーパミンと結合して、その行動を繰り返す動機となります。しかし、GLP-1はドーパミン受容体の数を減らすので、同じ行動をとっても喜びを感じなくなる可能性があるとのこと。
この効果は、糖尿病の治療にも使われるエキセナチドなど、別の医薬品でも報告されています。ある研究では、エキセナチドを摂取したマウスはアルコールによるドーパミンの反応が減ったり、欲しがるコカインが減ったりしたことが観察されました。
ノースカロライナ大学では、セマグルチドが禁酒や禁煙に役立つかどうかを調べる臨床試験が行われており、研究者は「セマグルチドのポジティブな効果を示す多くの研究がまもなく発表されるだろう」と話しています。
やせるだけでなく不健康な習慣までやめることができるというと、いいことばかりなように思われますが、セマグルチドの長期的な効果についてはまだ分かっていないことも多く残されています。
ある研究では、セマグルチドで減らした体重がわずか数カ月でリバウンドしてしまうため、効果を維持するにはほとんど永久に注射を打ち続ける必要があることが示唆されました。また、脂肪より筋肉の方が多く減る傾向があるとの研究結果や、好きな食べ物やこれまでなんとも思っていなかった食べ物が食べられなくなってしまったという報告もあります。
例えば、ジョージア州出身のステイシー・ライス氏は、セマグルチドを有効成分とする2型糖尿病治療剤のオゼンピックにより体重が激減し、16年前にはいたジーンズに足を通すことができるようになりましたが、子どもの頃から愛飲していたコーヒーがまったく飲めなくなったことを打ち明けました。
また、体重が急激に落ちたことで顔や体の皮膚がたるんでしまう「オゼンピック・フェイス」や「オゼンピック・ボディ」を警告する医師もいます。こうした点から、WHOは「ウゴービやオゼンピックは特効薬ではありません」と警鐘を鳴らしています。
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