サイエンス

薬物依存の治療へ新たなアプローチ、コカインが効かなくなるワクチンが完成間近


コカイン免疫をつける、つまり、吸入などによりコカインが体内に侵入したときに「敵だ」と認識してブロックし脳への到達を防ぐことにより、コカインでハイになれない体にするワクチンの開発が進んでいて、マウスでの実験に成功したそうです。

人間のコカイン依存症治療への適用が期待されるほか、将来的にはこのコカインワクチンと同じ原理で働く「モルヒネワクチン」や「ニコチンワクチン」など、さまざまな依存物質のワクチンを作ることも可能とのこと。

詳細は以下から。News | Weill Cornell Medical College | Cornell University

コーネル大学医学校の遺伝医学の教授Ronald G. Crystal博士らにより開発されたこの「コカインワクチン」は、一般的な風邪の病原体の一つであるアデノウイルスに、コカインによく似た構造の化学物質をくっつけたもの。コカインはほかの小分子薬剤と同様に、そのままでは免疫系により「敵」と認識されることはありませんが、すでに「敵」として覚えられている風邪のウィルスにくっつけることにより、「敵とつるんでるこいつも敵だ」という感じで覚えられ、次にやってきた時にはウィルスと一緒でなくても「排除すべき侵入者」と認識され、取り囲まれて攻撃され脳へ到達できなくなる、というわけです。

「コカインワクチン」の中の「コカインに似た構造」の部分に結合するように作られた抗体はコカインにも結合します。「敵」として覚えられたものによく似たコカインは、初対面でも「この前のあいつだ!」という感じで間違えられ取り囲まれてしまい、そのためワクチンを投与されるとコカインが効かなくなるという仕組みです。

コカイン自体を使っても同じ原理でワクチンを作ることはできるのですが、Ronald G. Crystal博士らはコカインより安定性が高く免疫を作る効果も高い類似物質を使用したとのこと。なお、ワクチンに使われるアデノウィルスは、免疫系に認識される部分だけを残して無害化されたものなので、ワクチン投与時に風邪の症状を引き起こす心配はありません。


このワクチンを実験用マウス(遺伝子操作されていないもの)に投与すると強い免疫反応が確認され、作られた抗体は試験管の中でどんどんコカインを取り囲み結合したそうです。次に、マウスの挙動へのワクチンの影響をテストし、ワクチンを投与されたマウスはワクチンを受けていないマウスと比べ、コカイン摂取時の多動性がはるかに低いことが確認されました。コカインを大量に繰り返し投与したマウスでもワクチンの効果は見られたとのこと。また、ワクチンの効果は実験期間の最後(接種後13週間)まで持続したそうです。

人間での実験はまだですが、もし人間でもマウスと同様の効果が得られるなら、すでにコカイン依存になっていて悪習を絶ちたいという意志を持つ人々にとって最も効果的だろうとCrystal教授は予測しています。また、将来的にはヘロインやニコチンなどさまざまな依存物質に対しても同様のワクチンをつくることができるかもしれないとのことです。

「コカインに対する免疫を形成しようとする試みはこれまでにもありましたが、わたしたちのワクチンは、高価な薬剤を繰り返し投与する必要がなく、迅速に人間での治験へ進むことができる初めてのアプローチでしょう」とCrystal教授は語っています。人間への効果や安全性が確認されFDAの認可を受けることができれば、世界初の「薬物依存のワクチン」となるかもしれません。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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