妊娠中の母親が新型コロナに感染して赤ちゃんの脳がダメージを負ってしまった症例が報告される
妊娠中の母親が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染すると、早産などのリスクが上昇することが知られていますが、胎児まで新型コロナウイルスに感染する事例はまれです。ところが、妊娠後期に新型コロナウイルスに感染した母親から生まれた赤ちゃんに、ウイルスの影響とみられる脳の損傷が確認された2つの症例が報告されました。
Maternal SARS-CoV-2, Placental Changes and Brain Injury in 2 Neonates | Pediatrics | American Academy of Pediatrics
https://doi.org/10.1542/peds.2022-058271
Case Study Shows COVID-19 Can Be Transmitted from Mother to Baby through Placenta, Causing Brain Injury - InventUM | University of Miami Miller School of Medicine
https://physician-news.umiamihealth.org/case-study-shows-covid-19-can-be-transmitted-from-mother-to-baby-through-placenta-causing-brain-injury/
In rare cases, COVID-19 infection in pregnancy can cause brain damage to fetuses | Live Science
https://www.livescience.com/in-rare-cases-covid-19-infection-in-pregnancy-can-cause-brain-damage-to-fetuses
妊婦が新型コロナウイルスに感染した場合、高血圧などの症状が現れる子癇前症(しかんぜんしょう)や早産のリスクが上昇することが知られています。また、まれにではあるものの子宮内で胎児が新型コロナウイルスに感染するケースも確認されていますが、ほとんどのケースで赤ちゃんの予後は良好であることもわかっています。
子宮の中で新型コロナウイルスに感染した赤ちゃんが生まれる、ウイルスの変異も確認 - GIGAZINE
ところが、マイアミ大学ヘルスシステムなどの研究者らが報告した2つの症例では、母親の胎盤を通じて胎児が新型コロナウイルスに感染し、脳の損傷が引き起こされてしまったことが確認されました。マイアミ大学ミラー医学部の小児科教授であるShahnaz Duara氏は、「妊娠中にCOVID-19の影響を受ける女性は大勢いますが、出産時の乳児にこのような問題が見られるのは明らかに異常でした」と述べています。
報告された1つ目の症例では、妊娠27週目だった21歳の母親が肺炎などの症状で集中治療室に搬送され、検査で新型コロナウイルス陽性であることが確認されました。その後、妊娠32週目で帝王切開により男児が生まれましたが、この男児はすぐに発作と呼吸の低下を示したそうです。出産直前の検査で母親は新型コロナウイルス陰性であり、男児も生後24時間後の検査では新型コロナウイルス陰性でしたが、男児は新型コロナウイルスの抗体も持っており脳内の出血も確認されたとのこと。
男児は生後3カ月で退院しましたが、発作性障害や重度の後天性小頭症などを患っていました。その後も発育不全や呼吸器感染症のため再入院を繰り返し、男児は生後13カ月で発症した上気道感染症によって死亡しました。死後の解剖により、脳の白質が大幅に減少していることがわかったほか、脳全体に新型コロナウイルスのタンパク質の痕跡も確認されたと報告されています。
2つ目の症例では、母親は妊娠後期に新型コロナウイルスの検査で陽性となり、症状はなかったものの羊膜内感染を併発していました。母親は出産時に再び新型コロナウイルス陽性となり、妊娠39週目で生まれた女児は生まれた直後に発作を起こしたほか、新型コロナウイルスの抗体を持っていたとのことです。女児は後天性小頭症や重大な神経発達障害を患っており、ホスピスでのケアを受けています。
2つの症例に登場した母親の胎盤を調査したところ、炎症や酸素欠乏の兆候と共に、新型コロナウイルスのタンパク質が発見されました。また、胎盤には脳の発達を含む胎児の発育において重要な、ヒト絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピンというホルモンが極めて少なかったこともわかりました。
マイアミ大学ミラー医学部の神経病理学者であるAli Saad教授は、「私は、胎児の脳における原因不明の白質消失の深刻さと、大脳皮質に存在した低酸素と血流不全の証拠に衝撃を受けました」「私たちは新型コロナウイルスが胎盤のバリアを破って中枢神経系にダメージを与えたのではないかと疑いましたが、それはこれまで文書化されたことがありませんでした」と述べています。
研究チームは、妊娠中の母親が新型コロナウイルスに感染したほとんどのケースで胎児に深刻な影響はなく、2つの症例が非常にまれであることを強調しています。論文の筆頭著者である小児科医のMerline Benny氏は、「なぜこれら2人の赤ちゃんがこのような悲惨な結果になったのかを解明するため、さらに研究を続ける必要があります。原因を完全に理解すれば、最も適切な介入方法を開発することができます」とコメントしました。
・関連記事
子宮の中で新型コロナウイルスに感染した赤ちゃんが生まれる、ウイルスの変異も確認 - GIGAZINE
「妊娠中や授乳中でも新型コロナワクチンの接種を受けていいの?」など3つの質問に医学部教授が回答 - GIGAZINE
新型コロナウイルス感染症の流行で「中絶手術」ができなくなってきている - GIGAZINE
胎児が母親が食べたものの味に反応して笑ったり泣いたりしていることが判明 - GIGAZINE
結局のところ新型コロナワクチン追加接種はどれくらい効果があったのか?4回目の接種を受ける必要はある? - GIGAZINE
新型コロナワクチンの予防接種を推奨すべき10の理由 - GIGAZINE
・関連コンテンツ