「なぜピエロは怖いのか?」が心理学的な研究で判明
ひょうきんなメイクやパフォーマンスで観客を楽しませるピエロはサーカスやイベントの人気者ですが、ピエロを見ると恐怖がかき立てられるピエロ恐怖症の人も少なくありません。さまざまな文化圏や年齢層で見られるピエロへの恐怖が、一体何を原因としたものなのかという長年の疑問について、アメリカ・サウスウェールズ大学の心理学者4人が研究結果を発表しました。
Frontiers | Fear of clowns: An investigation into the aetiology of coulrophobia
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1109466
Why are we so scared of clowns? Here's what we've discovered
https://theconversation.com/why-are-we-so-scared-of-clowns-heres-what-weve-discovered-199352
ピエロ恐怖症の起源についての研究を開始したサウスウェールズ大学心理学准教授のフィリップ・タイソン氏らは、まずピエロ恐怖症を持っている人の割合と重症度を評価するための「ピエロ恐怖症原因調査票(Origins of Fear of Clowns Questionnaire:OFCQ)」の開発に取り組みました。
研究チームが作成したOFCQは、ピエロへの恐怖や嫌悪感をテーマにした既存の文献で特定された要因に関する28の記述と、ピエロに対してよく見られる生理的反応に関する4つ記述の合計32項目で構成されています。OFCQによる調査を受ける対象者は、各記述にどれくらい同意するかを「全く同意しない」から「完全に同意する」までの7段階のリッカート尺度で評価するアンケートに答えました。
64カ国から実験に参加した18歳~77歳の参加者987人にOFCQでの調査を行ったところ、参加者の半分以上である53.5%が一定以上「ピエロが怖い」と回答しており、特に「非常に怖い」と答えた人は全体の5%いました。興味深いことに、この5%という割合は「動物」の3.8%、「血液・注射・ケガ」の3%、「高所」の2.8%、「たまり水や気象現象」の2.3%、「閉所」の2.2%、「飛行機」の1.3%といった、他の研究で示された多くの恐怖症での割合よりも高いという結果になりました。
また、男性より女性の方がピエロを怖がることも分かりました。なぜ男女で差が出たのかは分かりませんが、この傾向はヘビやクモなどの恐怖に関する研究でも同様に報告されています。また、ピエロ恐怖症は年を取るにつれて減少することも判明しており、この点も他の恐怖症の研究結果と一致するものでした。
研究チームは次に、ピエロに対する恐怖の原因を特定するため、ピエロが怖いと答えた53.5%の人たちを対象に追加の調査を実施しました。この追加調査には、ピエロ恐怖症の原因として考えられる以下の8つの記述が用いられました。
・ピエロのメイクに人間らしさがないので、不気味さや不安を感じる。人形やマネキンでも同じように感じることがある。
・ピエロの誇張された顔立ちが、直接的に脅威を感じさせる。
・ピエロのメイクが感情のシグナルを隠してしまうことで、不確実性が生じる。
・ピエロのメイクの色が、死や疫病、流血を連想させ、嫌悪感や忌避感をもよおす。
・ピエロの突拍子もない行動が、人を不快にさせる。
・ピエロに対する恐怖は、家族から教えられたもの。
・大衆文化でピエロが否定的に描写されているが原因。
・実際にピエロで怖い思いをしたことがあるから。
この追跡調査の結果、一番最後の「ピエロで怖い思いをした」という記述は最も同意度が低いことが判明しました。これは、ピエロに対する怖さは人生経験に由来するものではない可能性が高いことを意味しています。
一方、後ろから2番目の「ピエロに対する否定的な描写」はピエロ恐怖症の要因としてかなり強く作用していました。研究チームは、大衆文化の影響の代表例としてスティーブン・キングの小説「It」やそれを原作とした映画「IT/イット "それ"が見えたら、終わり」などに登場する不気味なピエロ、ペニーワイズを挙げています。
とはいえ、マクドナルドのマスコットであるドナルドを怖がる人もいるように、ピエロ恐怖症の人が恐怖を感じるのは意図的に恐ろしく描かれたピエロに限りません。つまり、ピエロの見た目には人を不安にさせるような、もっと根本的な要素が隠されていると考えるのが自然です。
by 根川孝太郎
実際、追跡調査で最も強い要因として示されたのは、「ピエロのメイクが感情のシグナルを隠してしまうこと」でした。つまり、ピエロに恐怖を感じる原因として最も大きいのは、メイクによってピエロの素顔が隠されることで、表情が分からなくなってしまうことではないかと考えられます。ピエロの顔を見ても何を考えるのか分からず、何をしでかすかも予想できないので、ピエロのそばにいると不安に駆られてしまうというわけです。
研究を行ったタイソン氏らは、「今回の研究によりピエロが怖がられる理由について新しい知見が得られましたが、まだ多くの疑問が残っています」と指摘します。例えば、感情を隠すメイクが恐怖の原因なら動物の顔にペイントしても同じ効果が出るのか、あるいはピエロのメイクそのものが何か特別な要因を持っているのかといった点です。こうしたピエロの恐怖にまつわる謎を解明すべく、研究チームはさらなる研究を続けていくとのことでした。
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