キノコをコンピューターの一部として使うことの利点とは?
電気信号を発するキノコの性質を利用し、電子機器の代わりに導体として使う方法を西イングランド大学ブリストル校のアンドリュー・アダマツキー氏らが模索しています。キノコをコンピューターに統合するアダマツキー氏らの研究について、テクノロジー系ライターのシャーロット・フー氏が解説しました。
A look inside the lab building mushroom computers | Popular Science
https://www.popsci.com/technology/unconventional-computing-lab-mushroom/
キノコを電子機器に統合するプロジェクトを進めるアダマツキー氏は、以前は粘菌を使って計算問題を処理するプロジェクトに取り組んでいました。粘菌は脳や神経がないのに迷路の最短経路を解くことができるなど驚くべき性質を備えており、刺激を加えることでロボットなどを制御することも可能です。粘菌のプロジェクトが一段落した頃に、アダマツキー氏はキノコに興味を持ったそうです。粘菌と似た特性を持ったキノコを用いて、アダマツキー氏はさまざまな実験に取り組んでいます。
コンピューターは情報を0と1の2進数に変換して処理していますが、現実世界のすべてを2進数で捉えることは不可能だとフー氏は指摘。量子コンピューターや、生きた細胞をベースにしたチップの開発に研究者が取り組んでいるのは、情報をより多次元的に表現・処理し、特定の問題に対してより正確にアプローチするという目的を達成しようと考えているためです。
生物の脳では神経細胞がスパイク活動やパターンを使って信号を伝達しており、人工ニューラルネットワークはこの性質を模倣して作られています。実は菌糸体も似たようなことをしており、菌糸体が発した電気的な信号をアダマツキー氏らは捉えることができます。
アダマツキー氏は「菌糸体培養物を麻や木くずと混ぜ合わせ、密閉したプラスチック製の箱に入れ、菌糸体が基材に定着するようにします。そして、電極を挿入して、菌糸の電気的活動を記録します」と述べて、菌糸と融合させたコンピューターの仕組みを説明しています。
刺激を与えることで、菌糸は活動電位に似た反応を示すとのこと。研究者は反応の有無を0または1と見なすことで、2進数に置き換えて処理を実行させるそうです。
また、電気的な刺激を与えればさまざまな反応を得られるほか、菌糸間の導電性が高まり、より速く、より確実に通信することができるそうです。こうした特性を生かし、菌糸をコンピューターの電子部品と同じように導体として利用することができないかをアダマツキー氏らは模索しています。
キノコを統合したコンピューターは、従来の機器と比較すると速度の点では到底及びませんが、自己再生が可能な点、自然に成長する点、消費エネルギーが少ない点などのメリットがあります。
これまでにトキイロヒラタケやエノキタケ、スエヒロタケなどで研究が行われてきましたが、まだ菌糸体を使って計算を行うことが可能であること、基本的な論理回路や電子回路を実装することが可能であることを実証できただけだそうです。アダマツキー氏は「将来的には、より高度な菌糸体コンピューターや制御装置を育てることができます」と意気込みを語りました。
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