紛争地帯や災害現場など過酷な場所でも走破できるトヨタ車のみを国連やNGOに販売する会社とは?
by Almond Butterscotch
過酷な環境でも走破できるトヨタ車のみを紛争地帯や国連機関に販売する「Toyota Gibraltar Stockholdings(TGS:トヨタ・ジブラルタル・ストックホールディングス)」という会社について、BBCの人気自動車番組トップ・ギアのチームが運営する公式ウェブメディアがまとめています。
Inside the factory that only builds white Toyotas | Top Gear
https://www.topgear.com/car-news/big-reads/inside-factory-only-builds-white-toyotas
TGSは、地中海の出入り口であり海上交通の要衝・ジブラルタルにある自動車販売会社です。TGSは顧客の要望に合わせて特別にカスタマイズした毎月650台ものトヨタ車を、主に国連やNGO、国際援助機関、政府などの顧客相手に販売しているとのこと。
TGSが販売するトヨタ車はランドクルーザー・ハイラックス・ハイエースなどです。TGSの共同CEOであるJonathan Gourlay氏は、「私たちはこれらを車だとは考えていません。私たちは、子どもたちへの食事や医薬品の配達など、仕事をするための道具をお客様に提供しているだけなのです」とコメントしています。
ライターのOllie Marriage氏は、自分のようにランドクルーザーのかっこよさに引かれる人もいるものの、TGSにおいては機能性とシンプルさ、そして信頼性が最重要だと指摘。紛争地帯や災害地の救援チーム、第三世界の開発プロジェクトなどで活躍する白いトヨタ車は、おそらくTGSを経由して送られたものだと述べています。
近年では環境保護の観点からハイブリッド車や電気自動車がもてはやされていますが、トヨタが製造を続けているノンターボのディーゼル車は電子機器がなくシンプルな構造であるため、診断ツールなどを持たない現場の整備士でも修理可能というメリットがあります。ランドクルーザー70シリーズのようなシンプルでタフな車は、紛争地帯などで活動する国連機関やNGOだけでなく、オーストラリアの人口希薄地帯の農民、アフリカのサファリツアーガイドなどにも重宝されているそうです。
Gourlay氏は、かつてこの市場には日産や三菱自動車も存在していたものの、時代の流れに従ってヨーロッパや北米向けの車種に注力するようになり、結果としてトヨタがこのニッチな市場を占めるようになったと説明しています。
TGSの顧客は一般に市販されているランドクルーザーやハイラックスを求めているのではなく、特殊な用途のために改造されたものを求めています。そのため、TGSが販売するトヨタ車は90%がジブラルタルの工場に運ばれ、数十時間に及ぶ改造を経て移動図書館・移動実験室・刑務所のバン・小型の救急車などに生まれ変わります。
顧客の中には国境なき医師団も含まれており、トヨタ車を改造した小型救急車はロシアの侵攻を受けているウクライナに送られました。Gourlay氏は、「国境なき医師団をはじめとするいくつかの主要組織は、常に紛争地帯へと直行します」「戦地では道路や橋が真っ先になくなるので、次第に移動が困難になります。そのため、こうした過酷な土地に対応できる車両が必要なのです。ロシアとウクライナの戦争が始まってからの3カ月間で、私たちはすでに300台もの車両を送り込んでいます」とコメントしています。
TGSは特殊用途のトヨタ車に関する豊富な経験を持っており、タンザニアの密猟監視員が使うハイラックス、被災地の救援バン、中東で地雷除去作業に従事するピックアップトラックなどに対し、それぞれどういう改造が必要なのかを知っています。しかし、「軍事利用」と解釈される可能性があるものは販売しておらず、「防弾ブランケット」の購入は可能ですが「装甲」の購入はできないといった線引きがあるそうです。
また、TGSが販売する車両には必ずしも最先端の設備が搭載されるのではなく、あえて古い設備が採用されるケースもあります。たとえば、一部の車両にはオーストラリアのドクターヘリにも用いられるCodan製のラジオが搭載されていますが、これはクーデターなどで携帯電話のネットワークがダウンした場合に備えるためだそうです。Marriage氏は、「テクノロジーが時代遅れであるかどうかは、あなたの視点に依存します。TGSは、『EUの排出基準に準拠した車をアフリカに輸出し、現地の燃料で走らせたら爆発してしまった』といった事例をいくらでも聞いてきました」と記しています。
TGSが販売するトヨタ車には保証やアフターマーケットサポートも付属しているほか、運転方法を教えるドライバートレーニングプログラムも提供しているとのこと。TGSのドライバートレーニングプログラムを率いるValérian Lemoine氏は、「クラッチやギアを正しく使うこと、摩耗や損傷を減らすこと、安全なドライバーであることなどを教えています。2.5トンの車を運転するならば、その扱い方を知っておかなくてはなりません。加えて、これらの車は『プロジェクトの顔』となるため、顧客は無責任なドライバーとして否定的な見方をされたくないのです」と述べています。
Marriage氏は、「数字や物流ではなく、白いトヨタ車があなたの街にやってくる時、それが何を意味するのかを考えてみてください。私たちは車しか見ていませんが、世界の他の地域では白いトヨタ車の到着が希望・救い・医療・コミュニケーション・教育・援助・食糧・救済のシグナルとなるのです」と述べました。
・関連記事
新車販売でガソリン車やディーゼル車がゼロになる国とは? - GIGAZINE
中古車の価格が「1年で40%も暴騰」した原因とは? - GIGAZINE
新車購入から10年後もオーナーが手放さない「長年愛される自動車」ランキングが発表される - GIGAZINE
車の未来が「電気自動車一択」である理由とは? - GIGAZINE
日本生まれで世界中で活躍するトヨタ「ランドクルーザー」の歴史 - GIGAZINE
トヨタが持ち運び可能な「ポータブル水素カートリッジ」のプロトタイプを発表 - GIGAZINE
・関連コンテンツ